第24話 コミカルすぎる暴走族は変わってる。
それから、数日後。
あいも変わらず世間は騒がしかった。
と言ってもあれから数日しか経っていないのだから話題は勿論冴島の事ばっかりだ。
国民的俳優の衝撃的なスキャンダルはワイドショーの格好のネタになり特に平日の午後はこの話題がお茶の間を盛り上げていた。ショックを受けたのはファンだけではなく、冴島を起用しているCMの企業は勿論、出演予定のドラマや舞台も全て中止になった事で関係者の方々も相当な被害とショックを受けた事だろう。
当然、冴島は契約違反の違約金などを支払う事になり莫大な損害を受ける事になったのだから冴島も大ショックの筈だ。ワイドショーもこの事を話題に挙げ金額の大きさを派手に紹介している。
このスキャンダルが出た翌日、再び冴島は会見を開き謝罪したのだが、その会見は本当に酷いものだった。
最初こそ誠実な姿勢で話していたのだが、質疑応答になった途端様子が一変した。
嘘をつくは、急にキレるは、突然泣き出すなど、謝罪会見とはとても思えないもので再び炎上してしまった。
この会見はネット民の格好の餌食となり、続々と面白おかしく編集された映像は拡散されていき世間の話題を掻っ攫っている。
最終的に奥様との離婚も発表され、違約金などを払って残った殆どの財産も慰謝料として払う事になり冴島の手元には何も残る事は無かったという。金も女も名誉も奴は全て失ったのだ。
この事がきっかけで私が冴島と共に出演予定だった例のドラマも今回の騒動を受けて撮影は中止、放送も取り止めになった。
ただし、完全にこの話が無くなったな訳では無く、ストーリーの変更と冴島の代わりの人物を起用する事で撮影の継続も決まったのだ。
そして冴島の代わりとして起用されたのがあの、樹彩華だった。
冴島の件で話題になった樹だったが今回の事で更に注目されテレビや雑誌などの取材で大忙しだ。正に世間の手の平返しは恐ろしいと言ったところか。ただ、今回の場合は嬉しい悲鳴なのでそれはそれで良しとしよう。
ドラマの制作側は、樹を敢えて冴島の代わりに起用する事で話題になる事を狙ったのだろう。その策は見事にハマる事になる。放送前から熱狂的な盛り上がりを見せていて非常に期待されている。
内容はラブコメからミステリーコメディにシフトチェンジ。私演じる女性探偵と探偵助手のコミカルなやり取りが見どころの作品となっている。撮影も既に始まっていて近日中の放送を目指して猛スピードで撮影している。だから、現場はもの凄い事になっているが以前よりは楽しく仕事が出来ていると思う。
何故なら、前回と違ってキスシーンなんて存在しないんだから!!
こんなにやりたくない事をやらずに済む事がどれだけ嬉しいか。身に染みて分かったよ。
本当にありがとう!
因みにこのドラマ、将来的に二人のやり取りがクセになると人気になり、映画化や何シーズンも続く長寿コンテンツになるのだが、それはもう少しだけ先の話。
本当に少しだけね。
そして私は、これもあいも変わらず人気者として忙しい毎日を過ごしている。
私が秘密をカミングアウトしてからも仕事の量が変わる事は無く寧ろ増えたぐらいだ。普通なら、冴島が言っていた様に仕事を失ったておかしくはなかった。いや、それどころか社会的に消されたって不自然じゃない。
あの時、俺は自分の正体では無く、姫乃皐月の頭の事だけを世に明かした。すると進藤さんが初めて見た時みたいに周りの人達は、驚いたと思ったら急に泣き出した。
後は周りが色々と勝手に誤解してくれた。
コンプレックスとか、実は病気だったとかね。だから俺はそれにのっかった。
「私が明かす事で同じように悩んでいる人達の勇気になれたらって。カツラは別に恥ずかしい物なんかじゃない。皆さんにとって服を着替えてオシャレする事と何ら変わらないのだから」
私が言ったこの口から出まかせでしかない一言は世間の心を鷲掴みにし、盛大に勘違いさせたのだ。咄嗟に出たこの一言のお陰で私の秘密は隠すべきものから、自分を更に高みへ進める為の強い武器になった。
正直、カミングアウトしてから複数の企業からCM契約などの断りの連絡もあったし、違約金として相当な金額も支払った。
ただ、出来なくなった仕事以上に仕事は増えたし、お金も支払った以上に手に入ったので良しとしよう。
1番驚いたのはこれがきっかけでカツラを作っている会社から大量に仕事が入ったって事。CMやイメージキャラクターなどにとどまらず、私プロデュースのカツラブランドまで造ることに。
私の甲斐もあってか、カツラは隠す道具から簡単に髪型を変える事が出来るおしゃれアイテムとして世間に認知され始める事になる。姫乃皐月は世間の常識を変えたのだ。
後、それ以外に驚いた事と言えば、
「何で?」
「何でって?何が?」
「何がじゃないですよ!何で樹さんが進藤さんと一緒にいるんですか?」
「何でって?彼女、前居た事務所クビになっちゃったでしょう。だから私が拾ったのよ」
「いつの間に!?」
「貴方が冴島の部屋に突撃しに行った時、社長から連絡があったの。「姫乃が助けたいって思った女を助けてやれ」って。社長に言われたらやるしかないでしょう?だから、最初は仕方なくって感じだったけど……まぁ、お陰様でウチの事務所も色々忙しくして貰ってますから結果オーライなんだけどね」
「そうなんですね……でも、何で私の所に?ドラマの撮影って明日のはずですよね?」
「あ、それは、彼女がどうしても貴方に直接会いたいって言うから、連絡ついでに連れて来たのよ。貴方達、あの時以来ドラマの打ち合わせでしかあってないでしょう?だから……」
進藤の話しを遮って勢いよく姫乃に抱きつく樹。
「ええっ!!樹さん?」
「本当にありがとうございますッ!!姐さん!」
「あ、姐さん?!」
「はい。姐さんのお陰でこうやって事務所も入れたし、仕事も出来るようになりました。しかも、姐さんと一緒にドラマも共演出来るなんて本当に幸せです!!コレも全部姐さんが助けてくれたお陰です。本当にありがとうございました!!」
樹のとんでもない変わりぶりに驚く姫乃。
彼女ってこんな子だったけ??
「あの……樹さん?その姐さんって呼びかたやめません?」
「いいえ!姐さんって呼ばせて下さいっ!!私の姐さんに対しての忠誠の証みたいなものですから。姐さんこそ、私と話す時はタメ口でいいですから。勿論、名前も呼び捨てで。樹でも、彩華でもどっちでもお好きな方で呼んでください」
「いやいや、そんなの無理ですよ。」
「え~~。だって、姐さんの方が歳上なんですから別に可笑しくなんかないですよ~」
「いや、歳上って言ったって少ししか違わないじゃないですか。それに、芸歴は私の方が全然下なんですから呼び捨てなんて出来ませんよ」
「そんなの私は気にしませんよ~、それに姐さんの方が売れてるし……」
「いや、それこそ関係ないですから」
「とにかく、私は姐さんって呼びますからね!姐さんも私の事呼び捨てで呼ばないなら……」
「呼ばないなら?……」
「…………どうしよっかなぁ~~!?それはまだ考え中ですけど、なんかします」
「なんかって……」
「いいじゃないですか。減るものじゃないんですから」
「じゃあ…………、樹」
「彩華」
「えっ、いや、さっき苗字でも良いって……」
「彩華」
「………………………………彩華。」
「ハイっ!!大好きです!!」
「もう…………」
樹のもの凄い押しの強さに折れる姫乃。樹は再び抱きつきなかなか離れようとしない。その様子を少し遠い目で微笑みながら呟く進藤。
「貴方達、意外と仲良かったのね?」
「まぁ、そうみたいですね~……私もこんなになるとは思ってもなかっんたですけど……」
「姐さん♡」
こうして私、姫乃皐月という一人の男から産まれた妄想は現実世界でどんどん大きくなっていた。
もう自分でもよく分からない程に。
そして、この巨大に膨れた妄想が動く筈の無い歯車を動かしてしまった事を私はまだ知らなかった。
まさか、妹と再び再会する事になるなんて俺は口が裂けても言えない。
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