第22話 仮面の上のカミングアウト
「コレって……」
「実はさ、現場の控室、姫乃と俺隣同士だろ。
あの部屋少し細工がしてあってさ、姫乃の部屋からは見えないけど俺の部屋から覗くと見える小さな穴があるんだ。でさ、それを使って気になる女の子の事を覗いてたりしてたんだけど~キミの場合は驚いたよ。俺も初めて見た時はとても信じられなかったからな。だってキミの様な絶世の美人が実はカツラだったなんてさぁ!」
一瞬姫乃の方を見る樹だが、慌てて庇う様に話し始める。
「こんなの盗撮じゃない!コレを流して困るのは寧ろアナタの方なんじゃないの。こんなのバレたらバッシングどころか警察騒ぎにだってなりかねないのよ」
「覚悟のうえさ。ただ、一度ネットに流出すれば消える事の無いダメージを受ける事になるのお前の方だぞ。世間に愛されていて今、一番ノリにノっているお前が嘘をついていたんだ。
ファンを裏切ったお前を世間が許す訳が無い。
ファンだけならまだしもお前が契約しているCMもタダじゃ済まないだろうな。企業の奴らはお前のその姿に惚れて起用したんだ。それが偽りの物だと分かれば契約違反だと手を切る企業も続々と出てきたっておかしくはない。そうなったらとんでもない額の違約金がお前を襲う事になる。
CMはイメージが大事だからなぁ」
此処ぞとばかりに捲し立てる様に喋り出す冴島。盗撮がバレたとは思えない程イキイキとしている。
「されたくなければ分かるよなぁ、姫乃。俺の者になれよ。恋人なんかじゃない。ペットとしてだ。喜べよー、樹、お前も一緒に俺が飼ってやるよ。それが嫌ならお前は終わりだ。姫乃」
こんな事になるなんて想像できる筈がない。
だから大ピンチの筈なのに何故か姫乃は微動もしていない。
むしろ少し笑顔?にも見える。
「どうぞ。ご勝手に。私にとっては何のダメージにもなりませんから」
冷静に答える姫乃の様子に驚きを隠せない。
「お前、本当に言ってるのか?終わるぞ!!今なら間に合う。俺のものになれよっ!!」
「はぁ……いい加減しつこいですよー。だからお好きにどうぞって言ってるでしょう…」
「分かったよ。お前がこんなにも馬鹿だったなんてな。だったらそんな奴は必要ない、お望み通り終わりにしてやる!」
スマホを操作しネットに流出させる。
「たった今お前は終わった。おい、見てみろよ。凄い勢いで拡散されていくぞ。だから言っただろう、俺の物になれって。まぁ、今言ったってもう遅いけどな」
「だから言ったでしょう。お好きにどうぞって。…だって、終わるのはきっと貴方の方でしょうから、私の知ったことじゃないわ」
「……何言ってる。自分の置かれてる状況を理解できていないのか。それとも、このまま何事もなく元の生活に戻れるなんて思ってるんじゃないだろうな!」
「それはこっちのセリフよ。貴方があげたSNSの反応よーく見てみなさい」
疑問に思いながらスマホを操作する。
するとそこには姫乃の事を批判するどころか擁護するコメントの方が多く見られたのだ。
それどころかこの盗撮写真をSNSに上げた人物の特定まで始まっている。
「どうなってる……こんな訳ない。何で、なんで、もっとお前の事を責めない。ファンの事を裏切ったんだぞ。もっと炎上したっていいだろうが!!」
「考えが甘いのよ。貴方。私が盗撮されてる事に気付いてないとでも思った?あっ。気付いてないからこうなってるんだっけ。」
テヘッ
「だから言ったでしょう?ウチのマネジャーは優秀だって」
そう、ここだけの話。
最初に気付いたのは私じゃなくて進藤さんだ。
ただ私たちがこの事に気づいた時には既に数日間撮影した後だった。だからこの事が弱みになる前に先に手を打って逆に強みにする事にしたんだ。
「貴方がその写真を流出させる前に私は既にカツラである事を世にカミングアウトしたのよ。それも、さっきまで放送していたゴールデンの生放送番組に出演してね」
「な、馬鹿な!」
確かにSNSの急上昇ワードは全て姫乃の事で埋め尽くされている。
「だからその事はもうなんの弱みにもならないってこと。それどころか貴方が私の盗撮写真を流出させてくれたおかげで、世間の注目は私よりその写真を撮った卑劣で極まりない盗撮犯に移ったのよ。だから覚悟したほうがいいわ」
「何言ってんだ?まだ俺が盗撮犯だとバレた訳じゃない。俺がこの事で影響を受ける筈がないんだよ!!」
「アンタも知らない訳じゃないでしょう?世間の人間の手のひら返しがどれだけ早くてどんなに怖いかってことを!」
そう言うと姫乃は自分のスマホの画面を見せる。
そこには冴島のしてきた数々の悪事が続々と、暴露系で人気を博している人物によって紹介されている。しかもそこには冴島にとって見覚えも聞き覚えのある人物も出演して冴島にされた様々な悪態を赤裸々に答えている。
「なんだコレは…………」
「安心してください。コレはテレビでは観れませんから。ただ、ネット番組では絶賛配信中なんですけどね」
「どうなってる。まさか、コレもお前の仕業なのか!!」
「ええ」
そう。私が此処に来る前。
生放送に出演するよりももっと前の話。
俺がが彼女を護ると決めたその日。
電話をした相手は進藤さんだった。
本当に頼れる人だよ。
私は進藤さんに二つのお願いをした。一つは、私の秘密を大々的にカミングアウトする場を用意して欲しいという事。
もう一つは今まで冴島が手を出してきた全ての女性達について調べて欲しいとお願いした。最初は二つ目の願いに対して疑問もいだかれたが、しつこくお願いすると私の為になるならと快く承諾してくれた。
そして私は冴島の被害者達に連絡をとった。
被害者達の殆どは元モデルや元女優などといった夢を持ってこの世界に入った若い芸能界関係者ばかりで皆、冴島のせいで辞めざるをえなくなったり、弱みを握られこの事を公にする事も出来ずに苦しんでいる人達ばかりだった。私は直接彼女達と会い今回の事件の事、そして同じ様に苦しんでいる人間がたくさんいるという事を伝えた。
弱みを握られている事もあり中々話すら聞いてくれない事もあったが続ける内に段々と心を開いてくれる方達も増えてきてくれた。
すると、彼女や私、そして自分を傷つけた相手の復讐になるならと力を貸してくれる事になったのだ。
その輪は次々と広がっていき冴島を倒すだけに値する証拠や証言が続々と私のもとに集まっていく。中には冴島と親しく話している様子が記録してある音声データや、冴島が暴力を振るった証拠映像など非常に生々しい物も多数集まった。
コレを見ると女性って怒らせると本当に怖いんだなと思い、心に刻んだ。
最後には顔出しOKで洗いざらい全て話してやると言う方も現れ最高の状態で準備が整った。ここまで動き始めてから今日までの間3日間のことである。これだけのスピードで用意が出来たという事はそれだけ憎まれていたって事なのだろう。
これらの情報を提供して下さった方々には感謝と全力での業界復帰の手伝いと無条件での専属契約を約束すると、大変喜んでくれる方が多く良かった。勿論、この事は既に事務所の社長にも話し承諾済みだ。
この事を話した時の第一声で「アイツ嫌い」と言った時は冴島が自分で思ってる程意外と人気ってないんだろうなぁって思った。そして、こんな権力者に嫌われている事を少しだけ同情していた。
それらの情報をまとめ私が少しの金と一緒にタレコんだ。金を送ったのは冴島が既にこの手の者達も買収している可能性があると思ったからだ。
だがそんな心配は必要無かった様で、こちらが金を払うどころか情報料としてこっちが貰う事に。
ま、それはいいとしてこれで樹に対しての世間の見方は大きく変わった筈だ。
既に樹の事を支持するファンもコメント欄にどんどん現れて来ている。
代わりに冴島のファンの声は非難の声で見ることすらままならない状態だ。生配信でこれだけの事がバラらされたのだから冴島お得意の情報操作も役にたたないだろう。
以前まで冴島をしたって樹を責めていた者達が逆に冴島を責め樹の事を守っている。
本当に世間の手の平返し程怖いものは無い。
正に魔女狩りの様だ。
いや、この場合は魔王狩りとでも言うべきかもしれない。
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