第2話 タピるのには少し遅過ぎた
そんなこんなで約1ヵ月が経った。
今まで努力が続かなかった俺が地道な努力を続けたのだ。
そんな今の俺には自信しかない。
何故なら、俺には恐ろしい程の女装の才能があったから。どこからどう見ても今の俺は女性にしか見えない完璧な仕上がりだ。
自分でも驚いてる。正直そこら辺のアイドルグループのメンバーより何倍も可愛いかったし、自分の声を聞いても違和感がないほど俺は女性になっていた。
といっても、この姿をまだ他の人に見せた事は1度もないのだが……
でも、このまま女装して街に出たとしても絶対にバレないよく分からない自信がそこにはあった。
そうなると試してみたくなるのが人間の性というもの。
俺は勢いに任せその姿のままで街に飛び出してしまったのだ。
目的は、タピオカミルクティーの行列に並ぶ事。
俺はこう見えても大の甘党だ。一度は飲んでみたいと思っていたが、男一人で女子の行列に並ぶのは俺にはハードルが高すぎる。だからこそ今の俺なら並べるはずだと。
都会の街は休日という事もあって非常に賑やかだ。
そんな街に1人だけ自信満々な表情をした女装姿の男が自信満々にタピオカの行列に並んでいる。
そんな彼女に一斉に人々の視線が集中する。
俺はその視線にすぐ気がついた。
だってすれ違う人達全員があからさまに俺の方を見るんだから。
まさか女装がバレた?
その時同時に俺は、もう一つ大事な事に気がつく。
この状況って実はヤバいんじゃないか?って事。
だって普通に考えて女装した男性が優雅にタピオカの列に並んでるんだぞ。
こんなの普通の人からしたら変質者以外の何者でも無い。そう思われてもおかしくない行動を俺はしているのだ。
もしかしたら、そのまま警察沙汰になりでもしたら笑い事じゃ済まなくなる。
俺はようやくここで自分が犯した事の重大さに気付き、冷静さを取り戻した。
今ならまだ警察沙汰になる前に事を終わらせられるはずだ。
俺は急いで1時間以上並んでいたタピオカの列から抜けこの場を立ち去ろうとする。
するといきなり、1人のチャラ男が俺に近づき道を塞いだ。
「ねぇ、そこのお姉さん。よかったら一緒にそこのカフェでゆっくりしない?」
え?
お姉さんてもしかして俺の事を言ってるのか?
俺は慌てて周りを見回したが明らかに男の目線は俺に向いている。
この状況ってもしかして、俺はナンパされている!?
嘘だろ。コイツ、俺の事気づいてないのか?
もし、俺が女装した男だと気づかれたら何をされるか分かったものではない。
この場はとにかく逃げるしかない。俺は、出来るだけ顔を見られない様に黙ってこの場を立ち去ろうとする。
その瞬間、チャラ男は俺の腕を強く掴み動きを止める。
この男、思った以上に力が強い。俺は必至に手を振り払おうとするが微動だにしない。
まずい。
周りの視線がどんどん増えていく。このまま目立てば、チャラ男だけでは無く周りの人間にも俺が女装している事がバレてしまう。そんな事になったら俺はきっと社会的に生きていけなくなるに違いない。
SNS社会は怖いからな。一瞬で拡散されて人生おしまいだ。
どうする…どうすればこの状況を無事に突破する事が出来る?
こうなったら、思い切って声を上げてみるか?今の俺の声とこの姿ならギリギリバレないかもしれない。でも、そんな事したら下手に目立ってバレるきっかけを自分から作るだけかもしれない。それに、いくら声をあげたって誰かが助けてくれる保証は何処にもない。都会の人間は特に冷たいっていうからな。
そんな事を数秒間の間にひたすら考えていると状況は一変する。
一人のイケメンが俺に近づいて来たのだ。
まるで、テレビに引っ張りだこな国民的アイドルな様ないかにもなオーラを纏っている。
正直、男の俺から見ても惚れてしまうのではないかと思うほどの容姿の持ち主だった。
すると、俺を掴んでいた男の腕をさらにそのイケメンが強く掴む。
「俺の彼女に何してるのかな?」
男の発言に周囲は注目する。
はぁっ?
俺は突然の出来事に頭がついていかない。俺がコイツの彼女?いきなり、そんな事言われたら誰だって訳が分からなくなるに決まっている。それが男同士なら尚更だ。俺がこの状況に戸惑っていると事態はより悪化し始める。
「何いきなり彼氏のふりしてんだよ。本当の彼氏でもないくせに舐めた事してんじゃねーよ」
「そっちこそ女の子に対して乱暴なんじゃないのかな?そんなんだからモテないんだよ。」
「「俺の彼女に手を出すな!!」」
この状況は一体どうなってんだ。何で俺の取り合いで喧嘩になってんだよ。この喧嘩のおかげで周囲の視線は全て俺達に集まっている。このままだと本当に警察沙汰になりかねない。
そもそも俺は誰の彼女でもないし、もっと言えば男なんだぞ。どっちかといえば彼氏だろ。いやそんな冗談言ってる場合じゃない。そもそも何でこんな取っ組み合いの喧嘩になってんだよ。
もしかして二人共、俺が女じゃなくて女装した男だって事にまだ気づいてないのか?
二人の喧嘩は止まる事を知らない。このままでは周りの人達を巻き込む程の大事態に発展しかねない。
まずい。どうにかしないと本当に取り返しのつかない事になるぞ。
でも、今の俺にはこの事態を収束させられるだけの力はない。こうなったら周りの人達には申し訳ないが俺はこの場から逃げるしかない。二人の喧嘩は俺が原因で起こっているのだから、俺さえ現場からいなくなればこの喧嘩はきっと収束に向かうはずだ。幸いな事に二人は喧嘩に夢中で俺の事が視線に入ってない今なら余裕で逃げ切れるはずだ。
周りの皆さんごめんなさい。後はお任せします。
俺は全速力でこの場を立ち去り家に帰った。
今の俺のスピードなら余裕でオリンピックのメダルは確実だ。 多分…
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