JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない

尾駮アスマ オブチアスマ おぶちあすま

プロローグ

 最近の私は自堕落じだらくで毎日を有意義に過ごしているとは言えませんでした。


 私の人生において彼女たちとの出会いと、今回の特異な事件は何かの間違いであって有り得ない事だったのです。


申し遅れました、私の名前はしき 馬瑠蛇まるだと言います。


 変わった名前だとよく言われます。

この名前は、私の生まれ故郷の東北にてる御方に付けていただいたのだそうです。

詳しいわれも聞けぬまま不仲だった私の両親は他界しました。


現在、顔見知りや商店のおばあさんに頼まれたりと人探しを数回こなすうちに馴染みの刑事さんに勧められ最近、警察に営業登録を済ませたばかりの駄目な私立探偵です。


―2023年・三重県


三重県の山村に榊原一族の住む村がある。

其処の『榊原』と表札のある家は皆、普通の農家だった。


大体200メートル間隔で道沿いに榊原一族の家々があって、どの家も畑が目の前に広がっており思い思いの作物を育てていた。


そして山の麓に家があり目の前の畑で毎日、野良仕事をしていた静華しずかと母・水仙すいせんが居て時折、近所から男衆や静華の姪・和華わかも手伝ったり遊びに来たりと家族として働いていた。


 その静華の住む家が榊原一族の本家にあたり、家の裏には山に続く道があった。


 裏山を登って行くとやがて鳥居が立っていて、さらに進むと森の木々に守られるように大きな神社が建立こんりゅうされており、

とりわけ境内と御社おやしろの裏には立派な御神木が何本もそびえ立っていた。


 神社境内の右側に小さい御社があって、その後ろには7メートル程の大きさがある巨石が鎮座していた。


 この隠された神社から100メートル奥に秘密の蹈鞴場たたらばがあり榊原家専属の刀鍛冶衆の住処すみかがある。


 村では、この神社で村祭りが行われることはなかった。


あるとすれば、榊原一族と許可のある氏子衆などで執り行われる

『感謝集会』があるのみであって、

あとは事件や祭りの時に一族が祈りを捧げ皆が神の使いとなり

を執り行うための祭場であった。


 感謝集会は榊原家専属の神楽衆の練習と、お披露目も兼ねており、しまいにはアイマック・プロを持ち込んでの朝まで懐かしディスコやボーカルトランスと樽酒が空になるまで踊ったり騒いだりと無礼講の飲み会になることも、しばしだった。

 

 この神社では、あらゆる奇跡が何度も起きていて隠密で国の重要人物が度々参拝に足を運ぶという最重要機密事項にも登録ほどの

「聖地」であった。


国のお偉いさん達の間で変化が起きた。

『ご加護が無くなった』

『天罰なのか・・・』

『今からでも間に合わないか?』


榊原家に国の使から電話が入る。


「あ、静華様ですか」

「ハイ」


「私、菅原です。国土交通省の・・・・」

「はい、なんでしょう」


「実はですね、そろそろ祭事まつりごとの再開を、お願い致したいのです」

「そうですか、やる気はありませんので」


「予算もっ!予算も付きました、明日にでも不足分大幅にプラスして決済いたしますのでぇー、以降、毎年ですね・・・」


「金の話など興味ないな、我らを、なめるな、ふざけるなっ、誰がどうなろうと知ったことかっ!」


「ちょっと待ってください、実は〇〇省の〇〇〇〇宮様から頼まれまして一度、静華様から御連絡を入れていただけないでしょうか?」


「あー、それでか・・・御くらげ様が飛来してきたので変だとは思ってたが・・・あい!わかった、すぐ連絡する、じゃまた」『ブツリ』


「あっあのっ・・・」


静華の表情は冷たく、愚かな人々に対する悲しみで溢れていた。

『政治家達め仇をなして恐ろしくなったな・・・神様が罰など与えるものか、すべて己が生き方、なるべくして物事は起きて進んでいく・・・』


もうずいぶん前に国の予算配分を決める会議で二世三世の政治家たちは海外の財閥たちへの信仰は厚かったが、いにしえよりの日本の神々へ対する信仰心がほとんど無くなっており榊原家への予算配分を打ち切りにすると一方的に通達してきた。


 さぞ揉めるかと思われたが榊原家からは、なんの反応もなく国との関わりも自然消滅した。

よって定期的に行われてきた日本各地の山・海での神事しんじも打ち切りとなった。


 すると重要人物たちが順番に突然死、病死、暗殺、自死、病気、事故、不祥事発覚と皆おかしな塩梅になり


 「梅の毒が消えなくなってしまった」


ここ最近の日本が衰退していくのも榊原家は無関心を決め込んでいた。


 移民が増え、純粋な日本人が見る見る減少していく、若者も含めた国民の自殺も跳ね上がるように増え、日本国民の破滅が目に見えて来た。


そんな中、大手銀行の頭取が静華に会いに三重までやって来た。


 榊原家の本家はL字型で建てられていて庭を含まず100坪の家だった。


納屋と車庫が別にあって車庫にはトラクターと静華の父・城一郎の形見

1970年代のトヨタ・セリカLB・2000GTツインカムおまけターボ付き改が

ミッションメンテナンスを終えオーバーフェンダーで雨天対応レーシングタイヤを装着

いつになるかわからない出番を静かに待っていた・・・


「ごめんください、ごめんくださいまし」


静華の家の玄関に、お遍路さんの格好をした70歳くらいの男性が来た。


「はい、いま・・・」奥から返答があった。


静華が玄関に行くと大手銀行の頭取が立っていた。

その服装は、お遍路さんのようだったが一箇所違っていた。

男は着物の合わせが逆で死装束然となっていた。


「いらっしゃったのですか・・・それでは靴箱の上にある風景の絵皿に通行手形を魚の絵皿に、その物騒な柄モノを置いてください、おっと、その前にゆっくりと・・・後ろを振り返って見てください、ゆっくりと・・・」


頭取が開けたままの引き戸を振り返ると榊原家の氏子さんが、

いつの間に居たのか外で長い鉄砲を構えて頭取に狙いを定めていた。

『あっ』

頭取は震える手で玄関の靴箱の上に置いてある絵皿に

さかき 護符』と書かれた和紙の包と頭取が自害するために用意し持ち歩いていた短刀を皿の上に置いた。


 静華の住む村には強力な催眠結界が張られており

身内の者以外は、この通行手形となる護符を持たぬ限り村に入る前に道に迷うか体調を崩すかして決して榊原家までは、たどり着けないようになっていた。


 見張り役は人間ではなく『白龍』と『青龍』の龍神ふたりだった。


「奥へどうぞ」もんぺ姿にすっぴんの静華が言う。


「しつれいいたします」


薄暗い廊下を歩き静華が案内した部屋には祭壇が安置されており

御神体らしき丸い鏡が置いてあった。


 鏡なので誰であろうと覗き込んでも自分の顔が映るだけであった。


神がかりの神社、筆頭神官・榊原静華が言う。


「先言っとくけど、いきさつとか、おのれの人生、回りくどい言い訳は聞く気がないから単刀直入に要件のみ述べよ?ヨイ?わかった?」


正座をして畳に手をつき頭を下げたままの頭取が返事をした。

「はい」


その時、母・水仙が、お茶と水と手製のいなり寿司、おはぎを、お盆に乗せて祭壇部屋にやって来た。


「はいりますよ、まぁまぁ遠いところぉーご苦労様でしたー

さぁお顔を上げてください。

まぁうちの娘は無作法で失礼いたしました、

常日頃から目上の人をうやまいなさいと教育してきたのですが、

まぁーなんといいましょうか難しい年頃でしてー


あらっ!座布団使ってください、お足崩してください、

あぐらで結構ですから、まぁー今日は天気も良くて歩いてらしたんですか・・・

あらっ!息子さんの運転で!じゃお車でお待ちですか息子さんは・・・

なぎ彦ぉー、なぎひこっ!・・・」


静華は

「母っ!長いっ!クドイっ!誰が難しい年頃だってぇー?あー?

それになぁーにーいい年こいてヘップバーンみたいなワンピース、あははっ」


張り詰めていた空気が一瞬で、ぶにゃぶにゃになった。


「なによーヘップバーンさんに失礼よっ!将棋ひとつ私に勝てないくせに後でまたやっつけてやるから覚悟しなさいっ!」


「はぁーーーー(゜Д゜≡゜Д゜)?ばっかりで何言ってんの私が負けてやってんのっ!」

親子ゲンカです・・・


「あ、あのー」頭取が蚊の鳴くような声であっけにとられています。

そこへ

薙彦なぎひこです、入ります」


「あ、なぎちゃん、この方の息子さんが車にいらっしゃるんですって台所に稲荷寿司とおはぎあるから、お茶と、お持ちして頂戴」


「はい」


静華が頭取に向き直った。

「おじさん名前は?」

「はい、黒島たかし、と申します」

「ふーん、で、そのクロちゃんは何だっていうの?」


母が口を挟むかと思われたが無言でお茶を飲み、おはぎを食べている。


「はい、私、悪魔と契約をして現在の地位を手に入れたのです」


『ブッッ!!!』母がおはぎを思わず吹き出した。


「も、やぁーだぁあーはは、きたなあーい、もおーー」


吹き出したおはぎを慌てて、ふきんで拾いながら母上が言う


「ごめんなさい・・・続き・・・どうぞ」

母の顔色が暗くなった、なぜなら死んだ自分の旦那様は

悪魔との対決が元で命を落としていたからだった。


「よろしいでしょうか・・・」

「ハイ、どうぞ」


「実は私の命、もう永くはありません、私の家では先祖代々その悪魔の言いなりでして

毎年、上納金を収めていたのですが、ある夢を見まして、このままではいけないと思い、悪魔の言いなりになるのをやめることにしたのです。


 すると階段を一段づつ降りるように悪いことが続くようになりました。


最初は会社で不渡りや不良債権を掴まされる程度だったのですが、

やがて身内の者が事故や病気になり命を落とすものが増え始めて、

心配していたところ巡り巡って

地方の支店で債権の担保として差し押さえた不動産の、

があるのですが、

ここで私と無関係の者たちが事件の果てに何人も亡くなってしまい、

しかも驚いた事に、その現場こそ二十歳で東京に来てから

一度も戻っていなかった私の生まれ故郷・実家の敷地内と言っても良い場所だったのです。

私の契約した悪魔の報復なのは一目瞭然でした。病気も・・・」


真剣な表情の静華が言う。

「黒島さんの見た夢は、どんな夢だったの?」


「はい、夢なんですが今でもハッキリ憶えています。


なぜか私は山の中にいて、だんだんと陽が暮れてきました。

すると前方に無人の小さな山小屋があって私は小屋の中に入りました。


小屋の中はカラッポで部屋の中央で立っていると小屋の外から音が聞こえてきました。

『シャン!シャン!シャン!・・・・・』

あの山伏さんなんかが持っている長い棒の・・・・」


錫杖しゃくじょうね」


「あぁ、です、あの音が聞こえてきて、その音は小屋の周りをぐるぐると回っていたのですが、そのうち屋根に誰かが上がって


『ガツン!シャン!ガツン!シャン!』と上から聞こえ出すと今度は床が

『ドコン!ドコン!ドコッ!ドコッ!ドコッ!ドコッ!ドコドコドコドコドコッ!』

と激しく鳴ってやがて床板に穴が空き細長い石像が何本も床を突き破って飛び込んできて私に襲いかかると、ものすごい重さで私を押しつぶして苦しくなってもがいていると襲いかかってきた石像の顔が私の親だったり妻や子供達、会社の部下たちになっていて・・・


そのどれもが青白く生気のない死人の顔だったのです・・・

そこで私は汗をびっしょりとかいて布団で飛び起きました・・・」


は身振り手振りで、まるで現実の体験だったように夢中で話し終えた。


話を聞いていた母・水仙が真剣な表情で静華を見ました。


「静華」


「母上」

静華も母の目を見ていました。


『神様の、お怒りか・・・』


「黒島さん、やんごとなき、〇〇様はここへ来る前、あなたに何と言っていましたか」


「はい、祭師様に祓いをお願いしなさいと・・・そして死んで償ってこいと・・・言われて来ました」


「そうか、それで死装束か・・・私にも、その悪魔、心当たりがある。

金魂様とか呼ばれているが、そんな神はいないし金魂と呼ばれる妖怪はいるみたいだが、そもそもソレは現象を人間が勝手にそう呼ぶものであって、そんな名前の神も悪魔も居ない。


 いるとすれば管狐と呼ばれる人の魂を食物にしている悪魔だ。


元は西洋の呪術師や魔道士が魔法陣を編み出して

異空間から召喚した超古代の地球にいた最初の忌まわしき住人たちだ、

やがて共鳴する堕天使や

人間の醜い悪魔化した魂が魔道士の儀式によって召喚され

人間の持たない超能力で小さな奇跡を起こしたのだ、

人間の魂と引換にな・・・・」


聞いていた黒島が、がっくりと肩を落とし言う。


「私は良いのです、ですが親族や部下たち・・・それと、あの忌まわしい私の生まれ故郷の土地、何とかなりませんでしょうか・・・」


静華が言う。

「まぁな、おくらげ様も来たし、もう神様は我らの守護に廻り出していらっしゃるようなんだ。

クロちゃん、おまえ死んでこいって言われたからって死ぬなよ・・・寿命が延びるように計らってみるぞ。

二、三日泊まっていけ。


うちのオヤジのかたきも獲りたいしな・・・

おいっ!クロちゃん面倒みてやるか、久々に・・・

まず、その土地の調べをしたいな・・・

誰か適当なやつ現地に居るか?クロちゃん?」


「はて、どうでしょうか・・・そういう事であれば手を尽くしますが・・・」


静華が母に向き直った。

「母、腹減った、ちょっと頂戴」食べ物に手をだした。


「あぁ、あれ、まだまだ沢山あるから取ってくるね」


「お願い・・モグモグ・・・おい!クロちゃんも食え!いいから!」

片膝付いた静華が頭取に指を差した。


「えっ?はぁ・・・では、遠慮なく・・・」

頭取は恐る恐る、お稲荷さんをつかんだ。


「モグモグ・・・」


「どうだ紅しょうが入りだ、うまいだろう?」

「はい、おいしいです・・・」


そういうと頭取・黒島は思った。

『おいしいなぁ、そういえば食欲がなくて何にも食べてなかった

ココ数日、おはぎも・・・うん、おいしい・・・

あれっ・・・なんで・・・』


生きている実感があるのか黒島は小さな子供が夢中で、ご飯を食べるようにしながら目からは

『はらり・・・はらり・・・』と感謝と安堵の涙が止まらなくなっていた。


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