(三)-5

 そして言った。

「翔太!」

 その声で翔太はこちらに顔を向けた。彼は短く「加島君……」とだけ呟いた。

 相手の女は、翔太の両頬を量の手のひらでしっかり押さえながら、目を閉じて翔太の顔に自分の顔を向けて、まさしく唇を奪わせようとしていた。

「ちょっと翔太君!」

 女は拓弥の声に反応して横を向いた翔太に気づき、目を開いてそう言った。

 そして女は再び翔太の両頬を捕らえて自分の方に顔を向けさせて、自分の顔を翔太に近づけた。

「ダメだよ、こんなところで、ほら、人もいるしさ」

 翔太は慌てて自分の顔と女の顔の間に手を挟みこんで、女の意図を遮った。

 女も負けじと翔太の手をどかそうとしながら、翔太の顔に自分の顔を近づけた。翔太は体をのけぞらせて後ろに後ずさった。


(続く)

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