第29話 代行者〜魚座〜
「バーキ、いるかい?」
「はい、ここに。イクエス様」
イクエスに仕えるて下級神バーキが呼ばれて姿を現す。
「そこにいたのか、バーキ。気づかなかったよ」
腕を上げたなと笑顔で言うもバーキは嘘だとわかっている。
自分のような下級神などイクエス達十二神にとっては石ころと大して変わらない。イクエスがどう思っているかは別としてそれくらいの力の差はある。
「今日俺、王に呼ばれてたじゃん。そんなん久しぶりで嬉しくて広間まで行ったのにさ」
そう言うと悲しそうな表情をしてバーキを見て話しを続ける。
「そしたら、そこに俺以外にもいたんだよ。最悪だよ。もー」
今度は上半身を倒してションボリするもすぐにパッと上半身を起こし「そこに誰がいたと思う?」少年のような悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「他の十一神の神の誰かがいらしたんですか」
イクエスと他の神が呼ばれるとしたら黄道十二神以外はありえない。他の神々とでは立場が違い過ぎる。
イクエスはその事をわかってなくそう尋ねた。
「半分正解で半分不正解」
もう楽しくて楽しくて仕方ないといった様子で言う。
チッチッチと声に出して人差し指を振り違うと表現する。
「正解は十一神全員がいたんだ。俺を含めた黄道十二神がその日王に呼ばれてたんだよ」
イクエスは大袈裟に驚いたと楽しそうに言うが、バーキはとても嫌な予感がした。
バーキの勘はよく当たる。それも、悪い方のみ。
そもそも黄道十二神が一堂に会する事なんて滅多にない。最後に全員が揃ったのは八百年前の会議のとき。次の会議まで後二百年ほどある。
それなのに、王が直々に十二神を呼びだしたということは何かあったということ。
バーキにはそれが良いことでは無いと何故か確信できていた。
「王は何故イクエス様達をお呼びになったのですか」
本来なら王に呼び出された理由など自分の様な存在が聞いていいことではないとわかっていたが、どうしても気になりイクエスに尋ねた。
「ああ、それはね、俺ら十二神同士で殺し合いをさせるつもりらしい」
「…え?今何とおっしゃいましたか?」
自分の聞き間違いかと思いもう一度言って欲しいと頼むバーキ。
バーキの願いも虚しく同じことをもう一度言うイクエス。
「ん?殺し合いだよ、殺し合い。俺ら王のこと怒らしちゃったみたいでさ、おかげで一神以外の神は力、権利、地位、名を剥奪されちゃうんだよね。本当最悪だよ」
口では最悪だとそう言うも本当は楽しみで仕方ないイクエス。
「でも、それじゃあ…もし、もしですよ、イクエス様が負けたら…」
死んでしまうのですか、そう言おうとしてやめる。口に出してしまえば本当にイクエスが死んでしまいそうな気がした。
「大丈夫。そうだろう。バーキは俺が死ぬと思うか?」
イクエスにそう聞かれて「はい」と返事しそうになるバーキ。
何故なら十二神の内二神にイクエスが勝つ姿を想像できないからである。
一神は圧倒的な力を持つ獅子座のレオン。その力は同じ黄道十二神の神々も時に恐ろしく感じる程の力。
そして、もう一神は天秤座のジュゴラビス。その理由は誰も彼の力がどれ程のものか知らない。彼が力を使った姿を見たことがない。強いのか弱いのかすらわからない。
ただ、バーキはレオンと同等それ以上の強さを持っているのではと予想している。
そのため、どう贔屓目で見てもイクエスがその二神に勝つ姿が想像できない。
「バーキ。もしかして、神同士が直接戦うと思ってない?確かにそれなら俺の勝つ可能性は低いけど、そもそも俺ら十二神が本気で殺し合いをしたら三界の全てがただではすまないよ」
バーキの顔を見て何を考えているのかがわかり、そうではないと教える。
それに、もしそうなったら天界に住む神々だけでなく、人間界と地獄と呼ばれる鬼界もただではすまない。
「では、どうやって戦うのですか?」
その質問を待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべて「代行者に戦わせるんだよ」と言い人差し指を立て話しを続ける。
「この戦いの勝敗を決めるのは神の力ではなく、人類の中から選ばれた代行者の力によって決まる」
今まで見てきた顔で一番の悪い顔をして笑いながら言うイクエス。
「人類からですか?」
何故代行者が人間なのか不思議に思うバーキ。自分の予想では神々の中から選ばれるものばかりだと考えていた。
「うん。俺も何で人類から選ぶのかよくわからないけど、王の命令だから仕方ない」
まぁ、神同士より人間同士の方が面白い戦いになるとわかっているイクエス。
王が人間から代行者を選べと言った瞬間唯一喜んだ。
「王がですか?」
王の考えはいつも理解できない。想像を超えている。自分達には見えていないものが王には見えている。
でも、それは自分が下級神だから。そう思っていたが、今回だけは王の考え理解できないというより許せなかった。
イクエスを殺し合いをさせることに。バーキにとってイクエスは自分の命より大切な存在。
そんなイクエスが死んだら自分はどすればいいかわからない。どうやってこれから過ごしていけばいいのか。
自分にも出来ることがあれば何でもするのに。それすらできない。自分の無力さに呆れてしまう。
「そう。そこでバーキにお願いがある。いや、バーキにしか頼めない」
イクエスがそう言うとバーキの瞳に光が宿る。さっきまで絶望で視界が真っ暗だったが、イクエスの一言で光を取り戻す。
「俺に似た人間を見つけてきて欲しい。俺が捜してもいいけど、俺よりバーキの方が俺のことよく知っているから。頼んでもいいか」
さっきまでのふざけた雰囲気は一切消え、真剣な眼差しでバーキを見つめる。
「もちろんです。必ずイクエスに似た人間をみつけてみせます。最高の代行者を必ずみつけます」
イクエスが自分を必要としてくれていることが嬉しいバーキ。自分でも力になれる。
必ずイクエスの盾となり矛となる代行者をみつけてみさると意気込む。
イクエスに早速取り掛かると言い部屋から出ていくバーキ。
「さーてと、代行者が見つかるまで何しようかな」
イクエスも部屋から出ていきバーキが報告に来るまで、いつものようにして過ごそうと町に向かう。
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