加助

 加助かすけ兵十ひょうじゅうが黒いススキ原の端から出てきて、小豆あずきより更に小さくなっていくのを腕を組んで見つめていた。周りで可愛らしくなく鳴く虫達はやがて次々につがいになり、冬の向こうへ送り出す新しい命にどんな名前をつけるか、彼らだけがわかる体温を重ねて伝え合うのだろう。黄金製の月はそれを励ます様に光っていた。


 命に優しい夜。


 しかし、加助だけは違って見えた。彼の頬は青白く、陰惨に輝き、両目はまるで殺人者であるかの様に冷たかった。


 実際、殺していた。


 加助は兵十がすっかり見えなくなると、自分の家へ向かってゆっくりと歩き始めた。


 ――まずいな、奴等が鉢合わせて、ちょっとでも。兵十の馬鹿はヤワだから、すぐほだされてしまって、奴を家へあげて一緒に飯を食ったりする。親父おやじの話題になるだろう、必ず。その為に奴は村を出されたんだからな。


 まずい、まずいぞ。


 兵十は、奴が親父をあやめたって話に、完全には納得してなかった筈だ。


 まずいぞ。


 神だの仏だので、騙されてくれてりゃいいが――

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