第50話 波澄とクリスマスイブ
「やっぱり、この時期になると外は本当に寒いな」
「うん、寒いね」
今は12月24日、クリスマスイブの夜。
波澄と過ごす約束をしていたため、今日は波澄と一緒に出かけに来ている……出かけると言ってもどこかに行く約束をしているわけではなく、街中を適当に歩いているという感じだ。
「見て、イルミネーションやってるよ……綺麗」
「波澄はイルミネーション好きなのか?」
「うん、ああいうキラキラしてるの好きだよ」
波澄はオシャレで、ああいうキラキラしているのとは雰囲気が合っているため、それが好きだと言うなら、とても相性が良いな。
そんなことを思っていると、隣に居る波澄がイルミネーションから俺の方に視線を向けると優しく微笑んで言った。
「でも、イルミネーションよりも繋義の方が好きだよ」
「っ……!そんなこと、よく恥ずかしがらずに言えるな」
「最初の方は気恥ずかしかったけど、今はもう繋義にこの気持ちを伝えたいって気持ちしかないから恥ずかしいとかないよ」
確かに、言われてみれば告白されたばかりの頃は少し恥ずかしそうにしているようなところもあったが、最近は全くそれを見せなくなった。
……波澄は恥ずかしさがなくなったのかもしれないが、俺はいつまで経っても波澄に好きだと言われることに慣れない。
俺と波澄がそのイルミネーションの前まで一緒に歩くと、波澄は俺の様子を窺うように聞いてきた。
「ねぇ、このイルミネーションの前で繋義と一緒に写真とか撮りたいんだけど……迷惑?」
そう言いながら、波澄は取り出したスマホを両手で握った。
「迷惑って、何が迷惑なんだ?」
「もしかしたら振るかもしれない相手とイブに写真だよ?嫌じゃない?」
「……」
俺は波澄の手から、おそらくは最新機種であろう大きなスマホを撮ると、もうカメラはインカメで起動してあったため、イルミネーションを背景にして俺と波澄が映るように画角を調整する。
「つ、繋義?」
「俺は波澄との大切な時間を思い出に残したい……それに対して嫌って思うことなんて、絶対にない」
「繋義……私、繋義のこと、本当に大好き……!」
そう言って、波澄は勢い強く俺と腕を組んできた。
おかげで、頑張って調整した画角が一気に崩れる。
「波澄!画角が────」
「私の方が上手く作れるから!」
波澄は元気にそう言うと、俺の手から波澄のスマホを取り、俺と波澄、そしてイルミネーションの綺麗な輝きがしっかりと映る絶妙な画角をスマホに収めた……一瞬で。
「す、すごいな」
「でしょ?はい、撮るよ!」
それから、俺と波澄は笑顔で写真を撮った……俺と波澄は、二人でその写真を見てみる。
「よく撮れてるな」
俺がそのことに感心していると、波澄はその写真を見て言った。
「……私、今まで撮った写真で、一番良い笑顔してる」
「……本当に、良い笑顔だ」
その後、俺と波澄はイルミネーションが続く道を二人で歩いた……すると、さっきまでは手の平を開いて普通に歩いていた波澄が、手をグーにした。
「寒いか?」
「え?どうしてそう思うの?」
「手、グーになってたから……違ったか?」
「……正解、そんなとこ見てくれてるんだね」
やっぱりそうだったのか……なら一度、暖房の効いてるお店とかに入った方が良いな。
そんなことを考えていた俺だったが、波澄は一度自分の手を見てから、今度は俺の手を見ると────俺と手を繋いできた。
「波澄……!?」
「これなら……うん、寒くないよ」
「寒いならどこかお店に入ろうって話じゃないのか!?」
「じゃあどっか良いお店見つかるまで、手繋いでようよ」
「……お店が見つかるまでだからな」
「うん!」
波澄は、さっきの写真よりも良い笑顔でそう返事をした……その笑顔に対して、不覚にも可愛いと思ってしまった俺は、その感情をその後も少し引きずりながら、波澄と手を繋いだまま落ち着けそうなお店を探した。
そして、しばらく店内で落ち着いて二人で話して店内から出た後も、俺と波澄は手を繋いで帰路につき────波澄のことを家まで見送ると、俺も家に帰って、俺と波澄のクリスマスイブは幕を閉じた。
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