第20話 姉さんと文化祭
「今日は紡と一緒に文化祭回れるんだね!」
「うん」
俺と姉さんは、一緒に登校しながら今日の文化祭について話していた。
今日は文化祭二日目で、二日目は姉さんと一緒に文化祭を回る約束をしていたので、俺自身この日をとても楽しみにしていた。
「文化祭は学生鞄持って来なくて良いから、登校したら一度教室に鞄置きに行ったりせずにそのまま一緒に文化祭楽しめるね〜!嬉しい〜!」
「姉さん、朝から元気だね」
正確には朝から、というよりは昨日の夜から、姉さんはこんな調子だ。
「仕方ないよ!だって私、去年紡が高校生になったから紡と文化祭回りたいって思ってたのに、私が忙しかったから一緒に回れなくて……だから今年は絶対に紡と文化祭回るって決めてたの!」
「そっか……じゃあ、姉さんに楽しんでもらえるように俺も精一杯楽しむよ」
「うん!紡の楽しそうなところ、いっぱい見せて!」
そう言って、姉さんは明るい笑顔で笑った。
姉さんのこの笑顔は、とても好きだ。
そして、そのまま学校に登校すると、時刻は文化祭二日目開始の十分前となっていた。
「姉さんは最初、どこ行きたいとかある?」
「紡が行きたいところ!って言いたいけど、私のクラスの劇を……紡には、どうしても見てほしいの」
「わかった、じゃあ姉さんのクラスの劇を見に行こう……体育館だったっけ?」
「そう!」
俺と姉さんは、体育館に向けて歩き出した。
文化祭で色々と屋台があって直通で行けないなら、十分という時間は体育館に着くまでの時間としては長すぎず短すぎずの時間だ。
俺はその道中、なんとなく姉さんに話を振ってみる。
「姉さんが俺に姉さんのクラスの劇を見てほしいのはどうして?」
「それは……私のクラスのみんなが放課後毎日頑張って練習してたから、その努力を紡にも見てほしい……のもあるんだけど」
姉さんは最初言いづらそうにしていたが、それでも話を続けた。
「それ以上に……私が個人的な理由で、見てほしいの」
「そっか……そういうことなら、楽しみにしてるよ」
俺と姉さんは五分ほどかけて体育館に到着した……まだ門が開くまで五分ほどあるが、その時間も姉さんと話していたら楽しくてあっという間で、すぐに五分が経つと、俺と姉さんは体育館に入って席に座った。
すぐに人は体育館に集まってきて────ほとんど満席になると、早速劇が始まった。
「劇名、愛と血」
ナレーションらしき人が劇名を言うと、ゆっくり幕が上がっていく。
……愛と血、結構重たそうなタイトルだ。
「……」
ストーリー中盤までの展開としては、中世の偉い貴族の息子と娘の話で、お互いが兄弟であることを知らずに育った男女二人が、互いに恋愛感情を抱いて結婚まで約束したけど、本当は二人が兄弟だったという事実を知らされて、それでも愛を貫くかというタイトル通り愛と血に関するような話だった。
イメージで言うと、中世なら血の繋がりがあっても結婚とかはしても良さそうだが、そこは感情移入しやすいように現代と同じ価値観にしているんだろう。
「あぁ!神よ!どうして我らを同じ血のもと産み落としたのですか!」
「えぇ!そうよ!そうでなければ、こんなにも愛という毒に苦しむことはなかったのに!」
いよいよ劇も最終盤で、それぞれが胸に秘めている思いをぶつけた。
「我らは……準ずるべきなのですか」
「それとも……背くべきなのですか」
そしてそれらを全て出し切った後、二人はどこか切なさを感じる表情で抱きしめあった……その切なさが、愛を果たせない故の切なさなのか、それとも何かに背かなければいけない切なさなのか。
その二人が抱きしめ合ったことで、劇は幕を下ろした。
観客席から一斉に大きな拍手が送られた、当然俺や姉さんも拍手をしてから、体育館の外に出た。
「姉さんのクラスの人たちがすごい練習してたことがわかったよ……本当に引き込まれた」
「うん!みんな本当に頑張ってたから、そう言ってもらえて嬉しいと思うよ!……ストーリーは、どう思った?」
姉さんは、声音を少し暗くして聞いてきた。
「ストーリーは……悲しい話だったと思う、二人の気持ちに感情移入したら心が苦しかった」
「うん……苦しいよ」
姉さんもあの二人に感情移入したのか、とても苦しそうな表情を見せた……姉さんがこんな表情を見せるのは珍しいが、それほどに重たい内容だったから仕方ない。
劇自体は姉さんも練習などの時に見たことはあったと思うが、それでもあの劇が重いないようなことに変わりないからな。
「でも……俺はあの二人が、最後結ばれることを決めて抱きしめあったんだと思いたい」
「え……?……紡は、どうしてそう思いたいの?」
「単純な理由だけど、愛したいと思える人が居るなら、その人を愛したように愛せたほうが幸せかなって思って」
「でも、あの二人は血の繋がった兄弟なんだよ?」
現実的に考えると、確かに結婚とかは難しいかもしれない……でも、幸せの形はそれ以外にだってたくさんあるはずだ。
「兄弟っていうのも大事だと思うけど、それが別の形に変わっても、二人が幸せなら良いと思う」
俺がそう言うと、姉さんは小さく笑いながら何かを呟いた。
「私も、そんな感じに割り切れたら良かったのに……でも」
「姉さん?」
姉さんは俺に、いつもの明るい笑顔を見せてくれながら言った。
「紡のおかげで、幸せを望むことが悪いことじゃないんだって思えたよ!ありがとね!」
「そう……?よくわからないけど、姉さんの役に立てたなら良かったよ」
そうして、何か吹っ切れたような姉さんと一緒に、文化祭を回ることにした。
姉さんとの文化祭は、まだまだ始まったばかりだ。
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