第4話 サッカー部の惨劇

 ドアが開かれる(破壊される)や否や、サッカー部の面々は笑うのをやめてこっちを見る。

 そしてあり得ない方向に開かれたドアとそこにいた私を見て、誰もが皆凍り付いた。

 特に諸悪の根元である彼は、真っ青になっていたよ。


「や、やあララ。どうしてここに? あ、そうか。お、俺を迎えに来てくれたんだな」


 コイツはこの期に及んで、まだ彼氏面をする気のようだ。

 まさか私が何も聞いていないと、本気で思っているのではないだろうな?

 まあ、どうでもいいことではあるのだが。


「……そうだな。君に用があって来たのだが、先ほど君達のしていた話を聞いて、少々事情が変わってな。ここにいる全員に、言いたいことが出来たのだよ……このクズども!」



 そう言った瞬間、サッカー部員達の顔はまるで鬼でも見たように恐怖に染まったよ。

 そして多くのものは「俺は関係無い」、「悪いのはコイツです」と言って、彼の背中を押して私に差し出してきた。

 

「おいお前ら、卑怯だぞ! なに俺を盾にしてるんだよ!?」

「うるせえ、悪いのはお前だけじゃねーか」

「そうだそうだ、俺達はカンケーねえ!」

「バカ野郎、元々今回のゲームを考えたのは、お前らじゃねーか」


 瞬く間に責任の擦り付けあいが始まる。

 はぁ、醜い。悪党どもの結束なんて、こんなものか。


「さ、さっき言ってた事は冗談だ。俺がララのことを、好きじゃないはず無いだろう? ララならそこのところ、分かってくれるよな?」


 彼は引きつった顔で、それでも無理やり愛想笑いを浮かべたけど、ララと愛称で呼ばれるのも、もはや虫酸が走る。

 必死にご機嫌を取ろうともがく彼はそれはそれは滑稽で、とてもファンができるほどの人気者には見えなかったよ。

 

 本当の彼はサッカー部の人気者ではない。自分に好意を寄せる女の子を、オモチャにしようとしていた外道だ!


「……私のことは、どう罵ろうと構わないさ。私だって、良い彼女とは到底言えなかったからな」

「そ、そうか。良かったー」

「だが……君をこのまま野放しにしていると、いつか必ず泣きを見る者が出てきてしまうだろう。自らの事を思ってくれている健気な後輩の気持ちを弄ぼうと企てるなど、鬼畜にも劣る所業。これに関しては、断じて見過ごすわけにはいかん!」

「ひいっ!?」


 睨みに圧倒されたのか、彼は腰を抜かして後ずさる。そして私はさらに、後ろで震えている彼以外のサッカー部員にも目を向ける。


「君らも同罪だ! なぜ誰も、この愚行を止めようとしなかった?」

「ご、誤解だ。俺らはこいつが、冗談で言ってるんだと思ってたんだ」

「そ、そうそう。悪いのはコイツ一人です!」


 やはりしらを切るか。

 トカゲの尻尾のように切り捨てられた彼は哀れだが、同情の余地は無いな。


 しかし彼らの言うことも一理あるか。

 本当に冗談で言っていただけだと思っていたなら、責めるのは可哀想。とはいえ限りなく黒に近いわけだし、よーし、ここは……。


「お前達、私が何も知らずにここに来たと思っているのか? 君達が今までしてきた事は、既に調べがついてある! 言い訳があるなら言ってみろ!」


 なんて言ってけど、これは完全なハッタリ。

 もしも後ろめたい事があるのなら、態度に出るはずだ。逆にここで凛とした態度で「そんな事は無い」という事が出来れば、そいつは白という事になるのだが……。


「あ、アレはほんの出来心だったんだ」

「確かにふざけた事はあったけど、たった一回……いや二回、いや三回……とにかく、たったそれだけの事なんです」

「お、お、お、お、俺だけは本当に、ち、違うから。き、気のある素振りをして三股とか、い、いろいろ貢がせたりとか、そんな事は全然……」


 ……呆れかえるほど、全員が黒だった。

 うちのサッカー部は、もう本当にダメかもしれない。

 皆が皆言い訳をし、罪をなすりつけ合うその姿はあまりに醜く、見るに堪えがたいよ。


「もういい。どうやらやはり、全員に罰を与える必要がありそうだ」

「ま、待ってくれララ。俺達付き合っているよな? お前彼氏を傷つけるような奴じゃ無いはず……ゲハッ!?」


 半泣き状態で足にすがってくる彼を蹴飛ばした!


「健気な後輩の想いを踏みにじらんとする奴が何を言う? その腐った根性を叩き直すのが、仮にも彼女だった私の務め。そして真実を知った以上、他の者も放ってはおかんよ」

「「「ひいっ!?」」」


 震えているサッカー部員全員に、目を向ける。


「ひ、ひい~!」

「く、来るなー!」


 一人が苦し紛れにサッカーボールを投げてきたけど、私はそれを両手で受け止める。

 そして手に収まったボールに力を込めると……そのまま握り潰した。


 パァンという音を立てて、破裂するサッカーボール。

 そして私の堪忍袋もそのボールのように、とっくに破裂している。


「覚悟はできているな……外道共!」



 こうして後に、『サッカー部の惨劇』と呼ばれる事件は起こったのだった。


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