咲かない花、叶えたい夢外伝! ララの交際黒歴史。

無月弟(無月蒼)

プロローグ 藤村晃、通称ララ!

 高校の昼休み。生徒は仲の良いグループで集まってそれぞれ昼食を取っていて、私もコンビニで買ったパンをかじっている。


 私の名前は藤村晃。しかし親しい友人の多くは私のことを、名字と名前の最後の一文字をとって、『ララ』と呼んでいる。

 この愛称、存外悪くなく、私も気に入っているぞ。


 おっと、自己紹介の途中だったのに、話がずれてしまったな。といっても、もう話すことはほとんど無いのだが。

 私はどこにでもいる普通の高校一年の女で、取り立てて大きな特徴もないのだから……。


「いや、ララは個性の塊みたいな人だから」


 そう口にするのは同級生の女子生徒、ハナ。

 高校に入ってから仲良くなった親友で、今も机をくっつけて昼食をとっていたのだが、どうやら心を読まれたようだ。

 しかし、個性の塊とはこれいかに?


「君はいったい何を言っているんだ? 私ほど没個性な人間も、そうそういないだろう。久しぶりの【ハナとユメシリーズ】新作なのだからら、情報は正しく伝えなければ」

「だ~か~ら~、そういうメタ発言をする所が個性的だっての! 没個性だって思ってるのは、ララだけだから。コメント欄でもみんな、ララはサムライみたいだって言ってたし」

「君も大概メタ発言をしているぞ」

「誰のせいさ!」


 疲れたように肩を落とすハナ。

 叫んだり疲れた様子を見せたり、忙しい子だ。

 はっ、もしや最近、幼馴染みの夏目夢路君、通称ユメ君と付き合って舞い上がっているから、色ボケしてテンションが不安定になっているのかもしれん。


「うーむ。だとしたら何とかした方が良いか? おっと、言っておくがいかに君が色ボケたとしても、私はハナの味方だからな」

「いきなり何の話!? 絶対失礼なことを考えたよね!」


 おお、また叫んだ……と思ったらまた疲れたみたいに、机に伏せてしまった。


「ハナ、疲れた時には甘い物を食べると良い。そうだ、コンビニで買ってきたこの、生クリーム入りのおにぎりを半分やろう」

「誰のせいさ? そしてそんな奇っ怪なおにぎりを買わない。売り出したコンビニの神経を疑うよ」

「そう言うな。口にもしないで悪くいうのはいささか乱暴だぞ。なあに、企画会議を通って商品化されたものだ、食べてみたら意外と美味しい……」


 言いながら半分に割ったおにぎりを一口食べると、口の中にこの世のものとは思えない何かが広がっていく。


 ……うむ、もう食べるのはよそう。

 食べ物を粗末にするのはよくないが、コイツを食べ物と呼ぶのは他の食品に対する冒涜だ。

 こんなもの、二度と買うか。


「そういやさあ、ララは私とユメのことを色々言ってくるけど、自分のことはどうなの?誰か気になる人でもいないの?」

「生憎今は縁が無いな。それに実は恋愛に関しては元彼のせいで痛い目を見ていてな。当分はいいかな」

「ふ~ん……って、ええっ! ララ、彼氏なんていたの!? と言うか、恋愛なんてしたことあったの!?」


 むう、何だその反応は。

 私だってもう16だ。そういった話があったとしても、おかしくないじゃないか。


「君はいったい私のことを、どういう目で見ているのだ?」

「ごめんごめん。そうだよね、ララってば美人だしスタイルいいし、男子だって放っておかないか」

「ふふ、褒めても何も出ないよ。まあ確かに私は美人だし、スタイルにも自信はあるけど。でも私よりも、ハナの方が全然可愛いじゃないか」


 私は謙遜はしないが、ハナの方が可愛くてモテそうというのは素直な気持ちだ。

 おや、可愛いと言われて照れたのか、ハナが顔を赤く染めている。

 ふふ、そういうところが、可愛いと言うんだぞ。


「い、今はララの話だってば。けど、やっぱりちょっと意外かも。ララがキャッキャウフフって恋に夢中になってるところって、あんまり想像できなくて」

「うむ、それを言われると辛い。まあ正直自分でも、あれが恋と呼べるものかどうかわからないのだがな」

「わからない? いったい何があったの? いっつも私やユメのこと聞いてくるんだから、今日はララの恋バナしようよー」


 興味津々といった様子で、前のめりになってくるハナ。

 これは困った。そんな風に聞かれたら、話さないわけにはいかないじゃないか。


「わかった。それじゃあ少し、昔の話をしよう。とは言えこれは、聞いててあまり気持ちの良い話では無いだろうが、それでも構わないか?」

「いったい何があったの? でもいいよ、ララがいったいどんな恋愛をしてきたか、ちゃんと知りたいもの」

「では、話すとしよう。あれは、中学三年生になったばかりの春の日のことだった……」


 こうして私は語り始める。

 全く甘酸っぱくも面白くもない、最悪の恋物語を……。

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