26.一緒に解決!
「メイカさん、それって……!」
「そう! 解除薬よ!」
薬を見たコルフェが希望に目を輝かせる。
揺らいでいた不安げな表情が一気に晴れて、私の手を見上げるコルフェ。
彼の視線の先、私の手の中にあるのは万能の解除薬。
あらゆる病気や呪いをも一瞬で治してしまう、最強の状態異常回復ポーションである。効果はコルフェで実証済み。
万が一なにか起きたときのため、コルフェの発情を使用して止めたこの薬を私はミシュレットさんから一つもらっておいたのだった。大正解な判断だ。私グッジョブ。
(よし。これを使えば神父をもとの姿に戻せるはず!)
本当に持っててよかった。
恋愛が主体で戦闘シーンが限られたゲームでは使うタイミング限られてたし、地味なアイテム欄の肥やしみたいな解除薬だったけど。こういうときは頼りになるんだなぁ。
用途万能のスーパーアイテムとして役に立つ時がきた。
この解除薬をジルに渡して神父に使ってもらえばいい。そうすれば、人狼の呪いも解除できるはず。事件はそれで解決だ。
うん。どうにかなりそう。私は目を合わせてコルフェとうなずき合う。
「ジルーー! これをその人に向けて使って! 受け取って!!!!」
「ご婦人?!」
呼び掛けと同時に振りかぶって小瓶を投げ渡す私。
対するはまだ名乗っていないので私を名前で呼べないジル。彼の反応は素早い。
今、最強の投手捕手(バッテリー)をその身に憑依させた私たち二人は、完璧なフォームで攻め手をまやかす。バッターアウトで勝利のファンファーレが鳴り響く。
……はずだったんだけど。
「あっ」
私とジルの間をさえぎる人狼の片手。紙切れのようにあっさり叩(はた)かれて宙を舞う小瓶。
(うそおっ?!)
まっすぐ飛んでジルの手に収まる予定だった解除薬が、弧を描いて逆方向に吹っ飛ばされ地面に落ちていく。
ファンの少年からの大きな期待を受けた私のスローイングは失敗に終わった。
やっちゃった。コントロールは一直線(ストレート)で完璧だったのに。そう簡単にはいかなかった。
「っ……! ぼ、僕が……なんとか! しますっ!!」
「コルフェ?!」
だめだった。失敗した。そう思って唖然としていた私の前に、コルフェが飛び出し両手を前にかざす。
放られた小瓶が地面に触れて割れてしまう直前、間一髪。
瓶がふわりとその場で浮き上がる。
「こっ、のおおぉ……っ!」
コルフェは魔法を使っていた。
昨晩、得意気に私のところへティーカップを運んで見せた、呪文を唱えず、物にも触れずに物体を動かせる力を。私の目の前で必死になって制御している。
小さな体の彼にできる精一杯の魔法なんだろう。目を細め歯を食いしばっている一生懸命な姿に思わず私も、
「頑張って! コルフェ!」
「はい……!」
コルフェの肩にそっと手を置いて励ます。そっとのつもりだったんだけど、つい気持ちが入ってしっかり握っちゃう。
私の応援に反応して元気に返事をし、コルフェは上げている両腕をぐっと自身に寄せた。
彼の動作に合わせ重力を無視した小瓶は人狼の頭上に飛び上がる。
「!」
「キャウゥゥッ?!」
キュポンッ。と、蓋が外れて中の薬が撒き散らされる。
キラキラ輝く光の粒が、人狼とジルの立っているところにだけ細かい雪のように降った。
犬みたいな間抜けな声を出して困惑する人狼。頭を押さえて苦しげに暴れたが、ジルが押さえ付ける。
呪いは解除されみるみるうちに人間の姿に戻っていく。
「これは……?! 神父殿は……元に戻った、のか……? ああ、よかった。お二方! 神父殿はご無事ですよ!」
薬を浴び、変身が解けて人の姿に戻った神父を肩に担ぐジル。私たちに片手を挙げて安否を伝える。
傷だらけでぐったりとはしているが、神父も一命はとりとめたみたい。気を失ってジルに身を預けている。
「よ、よかった……。やりました、メイカさん!」
にっこり笑うコルフェと片手同士のハイタッチ。
そのまま手のひらを握って私に抱きついてくる彼を受け止める。
安堵の気持ちを伝えるコルフェの頭を優しく撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます