10.なかなかの良待遇
よくできたゲーム世界だからか背景が平面なわけもなく、きちんと村にも家並みがあるわけで。
そんでもって各々のモブにも家はあるわけで。
夜遅い時間だからか人通りは少ない。
子供たちは寝ていて、親たちもそれぞれの家庭の明かりの中で談話しているような時刻。
十時くらいなのかな。
おそらくそのくらい。
人通りが少ない夜とはいえ裸の男児を抱えたままでは正面を突っ切って闊歩する勇気もなく、私は人々の目をかいくぐって進む。
行き先は決めていなかった。
自覚したばかりの頭ではどこに逃げたらいいかなんて全然検討もつかなかったから。
でもなぜか私の足は安全な場所を知っているようで、戸惑う気持ちを無視してどこかを目指している。
意思とは関係なくぐいぐい走って進む。
(え、ええぇ……?)
そんなところで無意識に到着した場所に、私は思わず肩で溜め息をついてしまった。
安心した。よかった。の気持ちと、でも、なんじゃこりゃ。が表裏一体でめまいがしてくる。
だってねぇ、モブなんだから私とてこんな良待遇だとは思わなんだで。
(もしかしてトラウマメイカーさん、どっかのご令嬢だったりするの……?!)
村の一角、いくつかある宿屋のうち一番新しくてお高そうな建物。
その一部屋で私の従者は私たちの帰りを待っていた。
そう、従者が。
私が驚いている理由は色々あるが、まずトラウマメイカーには従者がいたのだ。
名もなき主人に使える執事さんとメイドさんはそれらしい格好で宿屋の受付のそばにおり、私が近付くと宿泊中の部屋に案内してくれた。
その部屋もまた結構なスイートルーム。
村の宿屋って名称からきいてこんな部屋が出てくるイメージなんてない。
装飾は質素だけれど広々とした豪華な部屋。
従者たちが用意してくれたらしい新しめのカーペットをもったいないなと思いつつも、下足のまま踏んで入りテーブルにつく。
私の動き対応してすぐに駆け寄り、乱れた髪を直してくれたのはメイドさんのほう。
名札にミシュレットという名前がある。
主人には名前が無いのに使用人には名前があるとは。
と、思ったところで気が付くこのミシュレットという名前。
(ミシュレットさんのモデル、他のメイドさんにも使い回されてるんだ……)
この名前のメイドさんには見覚えがある。
≪シュテルフスタインⅡ≫の攻略対象のうち人気投票で一位をとった一番人気キャラ、王国第三王子・ロビンソンの専属メイドの一人だ。
数人いるメイドさんたちの中でも歳上(といっても二十五くらいだったかな)で、落ち着いていて優しい綺麗な女性。
ロビンソンを攻略する上では彼女に気に入ってもらうことで攻略対象からの友好度も上がりやすくなるので、ロビンソンルートに必要不可欠な存在だ。
別ルートでのコルフェの行く末を確認したかったので、勿論私もロビンソンを攻略したことがあったし、彼女には何度もゲームの中ではお世話になった。
どうやらこのメイドさんはミシュレットと同じ名前とキャラクターイラストやモデルを使い回されているらしい。
ミシュレットとはそっくりさんの別人のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます