第8話 思わぬ人達の登場
「息子も来ましたし、呼び出した理由をお伺いできますね」
冷静で感情のない一定のトーン。
「そういいましたよね?」
捲し立てるように相手に急かすように誘導するクセ。
「そうですね。葵君も来ましたし、端的にお呼びした内容をお伝えします」
学年主任が正面に座る二人に視線を合わせて話を始める。
僕は立ったままの状態で、置いてけぼりで放置される。
「葵君は同じクラスの女の子と不純異性交遊をしていました」
主任の発言に二人はこちらに視線を向ける。
「そして、女の子のお腹の中に今、赤ちゃんがいます」
二人の顔がほんの少し怪訝な面持ちになるのが見えた。
僕はそれを全力で否定するように体を震わせる。
二人は目を合わせて、小声で会話をし始める。
僕はそんな二人の姿をただただじーっと見ている事しか出来ない。
この場にいることを受け入れて、僕を見限った二人の答えが気になった。
「先生方、我々夫婦を呼び出した理由はわかりました。」
父は一度目を閉じて、僕の顔を一瞥した。
「けれど、息子は違うような反応をしていますが。どういうことですか?」
「っ⁉」
いつもと変わらない口調なのに、いつもより強気にみえる。
「証拠はあるんですか?」
母が付け加えるように、強気な姿勢で聞く。
僕を見限った両親には想像が出来なかった反応、やっぱり親は子の味方をするものなんだと余裕のない心に染みわたり、鳥肌が立った。
最近では何も感じなくなっていた親の横顔がカッコよく見える気がした。
「証拠ならありますよ」
主任もまた、冷淡に答える。
動揺が隠せない。昨日はなかった証拠とはなにか、親に抱いた信頼感にすがるように二人へと視線を向ける。
主任は懐からある紙を取り出して、長机に置く。
二人はその置かれた紙に視線を落とす。
「これは、赤ちゃんと葵君のDNA鑑定による検査結果です」
「DNA鑑定……」
初耳だった。
ありえない。僕は何も検査はしていないし、付き合ってすらいなかった。
ゆっくりと近づいて紙に書いていることを確認する。
「野々山葵は赤ちゃんのお父さんであるという事が、証明されています」
いや、おかしい、検査はしていないのに名前は僕で書かれている。
「嘘だ……」
思わず声が漏れる。
状況を整理する。胸の鼓動が高まっているのを感じる。
「信じてもらえましたでしょうか?」
机上に置かれた紙をもう一度確認しようと、手を伸ばす。
「止めろ野々山」
後ろに立っていた担任が、伸ばした手を掴む。
担任のアイコンタクトに反応して、学年主任は紙を懐に戻した。
二人は何も戸惑った様子は無く、こちらに視線を向ける。
見覚えがあった。僕が中学受験に失敗した時の呆れた目だ。
期待に応えたくて頑張ったのに結果にならなかった。
あの、冷たい目。
過去の記憶がいまの光景に重なって、鼓動はどんどん加速する。
冷汗が首元に垂れて、周りの大人の声がどんどんと遠くに聞こえる。
一瞬抱いた親への期待は、元々無かった物へ踏みにじられる。
呼吸することに疲れ、視界が狭くなって、もうほとんどの声が聞きとれない。
体を支えることに限界に感じて、意識が遠のいた。
目を開くとあの橋へと戻っていた。
狭くなっていた視界は広がり日差しを直視する。
人のいない橋の中央であぐらをかいていた。
ぼーっと周りを見渡す。車の音はしない、夕方まではいかない昼過ぎの時間帯であると体感で思う。
今頃、いつもならラジオを聞いて屋上で過ごしてるんだろうなって、イメージしながらにゆっくりと立ち上げる。
そして、秋とは思えない眩しい日差しを避けるように家に戻った。
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