第27話 一方その頃 ※ギオマスラヴ王子視点

「どうして、そんな事をしたんだ!」

「だって、寂しかったんだもん!」


 俺が問いかけると、彼女は目に涙を浮かべながら答えた。少し前なら、それだけで許してあげたかもしれない。けれど、今は違う。


 俺が愛していたリザベットは、実はとても愚かな女だった。裏切っておきながら、許してほしい、まだ愛して欲しいと泣きついてくる。


 こんな女に騙されていたのかと思うと、情けなくて仕方がなかった。


 イステリッジ公爵家と交渉するために、俺が王都を離れている間の出来事だった。彼女は、人目を忍んで別の男と会っていたのだ。婚約相手がいるというのに。


 その事実を知った時、俺は激しい怒りを覚えた。そんなの当然だろう。王国の将来のために必死になって働いている俺の傍で、他の男と関係を持つだなんて。


 王都を離れていたのは、ほんの数日のことだった。その短い間に、俺を愛していると言った口で、別の男を愛していると言っていた。もしかしたら、今回の件が発覚する以前から関係があったのかもしれない。


 目撃情報があり、本人も認めている。もう言い逃れは、できないだろう。


「寂しかった!? そんな理由で……」

「そうよ! 寂しくてたまらないのに、私は一人ぼっちだったのよ! 愛しているのなら、ずっと一緒にいて欲しかった!!」

「俺は、王国の将来のために働いていたんだぞ! 君1人の面倒だけを見ることなど出来ない!」

「でも、失敗したじゃない」

「貴様はっ!」

「痛いッ!?」


 問い詰めたら、本当に馬鹿な理由が飛び出してきた。寂しかったからなんて、そんなふざけた言葉を聞いて開き直り始めた彼女。そして俺の働きを馬鹿にした。思わず怒鳴って、頬を打ってしまった。


「女に手をあげるなんて、酷いわ! 最低の男よッ!」

「最低なのは、浮気をした貴様の方だろう!! この尻軽女め!!」

「何ですって!? 私が悪いと言うのッ? 悪いのは側に居てくれなかった、貴方でしょう!?」


 打った頬を押さえながら、醜く泣き叫ぶリザベット。本当にイライラする。彼女が何を言おうとも、全て浮気した責任から逃れるための言い訳にしか聞こえなかった。


 こんな女だったなんて、思いもしなかった。やはり、最初から騙すつもりだったに違いない。目的は、王妃という地位と権力か。それとも、王国の金か。


 そんな彼女の本性を見抜けなかった俺も、愚かなのかもしれない。嫌だが、それは認めよう。だけど、間違いに気付いた。これは大きな収穫だった。まだ、やり直せるかもしれない。


 最初の形が良かったんだ。エルミリア・イステリッジが婚約相手だった頃が一番、幸せだった。あの頃に戻ろう。そうすれば、俺が今悩んでいる問題も全て解決する。王国の将来も、明るくなる。


 イステリッジ公爵家との関係を元通りにする。そのために、エルミリアとの婚約を再び結ぶのが良いはずだ。


 彼女に突きつけた、婚約破棄を撤回しよう。この愚かな女との婚約は、間違った。それを、正さなければ。


「もう沢山よ! 貴方なんか、嫌い! 大嫌い!!」

「ああ、そうだね! 俺も、同じ気持ちだよ!! さっさと、この女を連れて行け」

「は、はいッ!」

「離してよ! 嫌ぁああっ!!」


 俺の命令を聞いた近衛騎士達が動き出し、喚き散らす彼女を連れ去った。これで、良い。浮気をした罪で彼女を処刑する。リザベットとの関係を清算する。


「はぁ……」


 そして、エルミリアに謝罪する。彼女には酷いことをしてしまった。だから、前の関係に戻れるように誠心誠意、謝らないと。きっと、彼女は許してくれるはず。

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