第6話 誰がための婚約者
クレディオス・フリ
アーヴィッコ侯爵家四男で、私の婚約者。
私が幼い頃に、魔力が高く精霊の守護があるという条件で、上位貴族の中から選出し、将来女公爵を継ぐ時に支えとなるよう定められた人。
私の配偶者となることが決められていたのでそれなりの教育を受け、魔法学校にも通っていた。同じ年だというのも、選ばれた理由の一つかもしれない。
精霊術の使い手を多く輩出する家門、アァルトネン公爵家の第一子として生まれ、魔力の高さから期待されてきた私。
多くの魔法士は、生まれて最初に祝福に来た精霊が守護精霊になるのだけど、たいていは一属性の精霊で、精霊の大きい小さいは時の運と、本人の才能による。
私の守護精霊は、光の精霊が長く生きる内に気紛れで他の属性の魔法を覚えた結果、水と風の属性をも持つようになった変わり種である。
水は光を通し、屈折率で光に干渉する。
風は目に見えないし触ることも出来ないが、風は強く吹くことで感じることが出来、砂や水分を含んで光を遮る。
光を集めて熱を帯び、風を起こして火を熾すことも出来る。
水を通し風で力を加えて、地を動かすことも出来る。
本来の属性と新たに得た属性で、複雑に多くの魔法を操る守護精霊ルヴィラ。
一見、たんぽぽの綿毛が数本束になって光っているかのようにも、蛍か何かの小さな蟲が光っているようにも見える。
こんなに小さいのに、その存在値と内包魔力は高く、かなりの上級精霊のようである。
父の守護精霊も火と風を司る精霊で、やはり複数属性の精霊は少ないので、王宮でもそれなりの地位に就いて重用されているらしい。
私がまだ幼い頃に、宮廷の魔法省で副長官をしていた母が亡くなった。
しかし父は官職を継げなかった。爵位で継いだり世襲制ではないからだ。当然である。
爵位や魔力が高いだけでも、多くの強い魔術を使えても、それだけでは官職には就任できない。
今の母と妹は、母の死後出来た家族だ。
義母とは
なのに、私は、この十数年、疎外感と孤独感を抱えて生きてきた。
──「家族」とはなんだろう
そうした、魔法省の副長官であった亡き母の娘として、精霊術の使い手を多く輩出する事で名高い家門であるアァルトネン公爵家の後継として、お国のために家門のために、マナーと教養を身につけ、魔法の発展のために魔法士学校へ通い、精進してくる日々が嫌だった訳ではない。
誇らしく思っていたし、母のように立派な魔法士になって、王家に仕え、国に仕えたかった。
その一方で、家族と温かい日々を過ごしてみたかったのも本音だった。
厳しい教育の中で、時々会える婚約者。
歳も同じで共に魔法士学校へ通い、より効率的な魔術を模索したり論じ合ったり、教養と慈善事業の一環として、観劇や美術鑑賞、食事会などに出掛けるのも楽しかった。
家族と縁が薄い分、彼に精神的にかなり頼り切っていたのかもしれない。
それが、まだ未成年の彼には重荷だったのかもしれない。
気がついたときには彼の心は私から離れ、妹と共にいる姿をよく見るようになった。
学園内でも必須授業以外あまり会わなくなり、帰宅すると、妹と談笑しているクレディオスがいて、それを温かく見守る両親。まるで近い未来の家族団欒図のようだった。
もはや、誰の婚約者だか判らなくなりつつあった。
来年の魔法士学校卒業と同時にクレディオスは我が家に同居し、頃合いを見て結婚の予定だった。
でも──
「やっぱりそうなんだね」
エリオス殿下のため息が深かった。
「今朝、父から婚約解消を聞かされました」
「第六子で四男の彼が魔法士学校へ通えたのは、君の支えになるためだろう? なのに、恩を仇で返すようなことを?」
「わたくしと婚姻はなくなろうとも、妹と新たに縁を結ぶから同家の関係性に問題はないと」
「は?」
聡明で有名なエリオス殿下が、眉を寄せて気の抜けた声をあげ、訊き返したそうにしている。この方がこんな
「ごめん。意味が解らない。クレディオスは、公爵家を継ぐ君の配偶者として支えになるために、
「ですが、そう言われたのです。妹も婚約者を得て嬉しそうでしたし、義母も喜んでいました。アーヴィッコ家からの言葉はまだ頂いておりませんが、父がそう言うからには、そういうことなのでしょう」
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