【ヤクソ・カクスィクュンメンタセイッツェマン-要するに第二十七話-】ボク、ヒーローになれたきがします!☆彡【ヴィースィ・ヴェーリ・ルク-五色の章-07-】

 この間の佃煮怪人の動きを真似して、怪人の群れへと低い姿勢でボクは飛び込むように駆け込んでいく。

 小さく身を縮めて飛び込んで、敵の中心に来たところで両手を大きく広げて回転!

 それだけで悪の怪人達が宙に舞っていく。

 あの佃煮怪人との戦いはボクに多くの学びを教えてくれた。

 ボクに限ってはだけど、武術なんて学ばなくてもいい! ただそれっぽい動きをするだけで、この無敵の魔法少女の肉体は怪人達を薙ぎ払うことには十分なんだ、ってことを教えてくれたよ!

 襲いかかってくる黒い角のない甲虫に腰を深く落としてから、正拳突き、それっぽく拳を捻って突き出す!

 それだけで甲虫の怪人の体に風穴ができる!

 凄い! まずは形から入ってこういうことだったんだね、師匠!

 そんなことは師匠から教わってないけど、なんかそれっぽいからそれでいいだよ。

 佃煮怪人の名前ももう覚えてないけど、彼はボクの心の師匠となってくれたよ!

「な、なんだコイツ、こちらの攻撃は爪も顎も、毒さえも効かない! なのにあいつが触れた怪人達は皆吹き飛んでいくぞ!?」

 よくわからない虫の怪人がそんなことを言っている。

 蹴り飛ばしてやろうかと思ったけど、別の怪人がその怪人に話しかけたので、ボクはそれに聞き耳と立てつつも、また別の怪人を叩きのめしていく。

「おまえ、聞いてなかったのか? こいつは一番最後に毒電波から解放するんだ。今はとにかく時間稼ぎをするんだ。まともにやり合おうとするな!」

 毒電波から解放する?

 何を言ってるんだろう?

 とりあえず、この怪人達はボクを足止めさせるための物なのかな?

 なら、急いで倒さないと! でも、もう少し怪人達の話を、情報収集? していたい気もする。

「んなこといっても、どうやってだよ!」

 そう言って絶望している怪人にまた別の虫の怪人、あっ、この虫は知ってる!

 カメムシだ! 臭い虫だ! 臭いのはヤダなぁ。

「お、俺に任せるんだな!」

「おまえはカメムシ怪人カメムッシュ板岡!」

 やっぱりカメムシの怪人だ!

 確かおならするんだよね、すんごく臭いの!

 こういう敵は嫌だから早く倒しちゃおうかな? でも、もう少し話を聞いて情報収集したい気持ちもあるなぁ。

「ど、毒電波遮断怪人の中でも、唯一苗字を与えて貰えた、お、俺が奴を、あ、足止めするんだな!」

 唯一苗字? 板岡って名前の事?

 どういうことなんだろう?

「屁の臭いが板岡とか言う大総督の上司と同じくらい臭いという理由でつけられた名か!? が、がんばれカメムッシュ板岡!」

 上司? 板岡さんの部下が悪の黒幕ってこと? それとも大総督っていうヤツにさら大ボス的なヤツが?

 でも大ボス的な上司なら、おならがくさいからって理由でカメムシには名前を付けないよね?

 怪人と同じ臭さって、板岡って人、相当おならが臭いんだね。

「く、喰らうんだな、我が必殺の屁を!」

 そう言って、カメムシの怪人はおしりではなく、おなかのほうをボクに見せてくる。

 虫のお腹ってなんか気持ち悪くて好きじゃないんだよ。

 と、思った瞬間、脚の付け根辺りから何かが噴き出た。

「うわっ、くっさい! 何この臭い!」

 想像以上に臭い!

 あまりもの臭さで目も開けてられない。これはまずいぞ!

 こ、これはあれをやるしかない!

「緊急なので数々のポーズは以下略で、いきなり無無拳!」

 ボクが床すれすれのところから全力で天に向かって振り上げた拳から、無が生成される。

 それは一瞬しか維持できない偽りの虚無だけど、正真正銘の無には変わりなくすべてを飲み込むんだ。

 しっかりと名前を考えて、無無拳って名付けたよ! かっこいいでしょう!

 そして、この必殺技はその名の通り必殺なんだよ!

 無はすべてを飲み込んで無に帰すんだ! だから無無拳!

 話していた怪人達もカメムシの怪人も、怪人の放ったおならも、ボク自身すらも他の怪人達も一切合切すべてを飲み込んで消えていく!

 そして、その場になっているのは、やっぱりボクだけだ。

 この必殺技がある限りボクは無敵だよ!




 更衣室、その中のロッカーの中に隠れてって言われましたが、この部屋のロッカー、どれも細くて人が入れるような物じゃないです。

 それ以前にちゃんと鍵が閉まってて、どれも開かないですね。

 でも、更衣室の前にはローズピンクさんがいてくれるので安全ですよね。

 って、あれ? このロッカーだけ鍵が掛かっていない。

「森田……」

 ロッカーには森田と名札が張られています。

 そして、今開くロッカーここだけです。

「ゾ?」

 と、抱えているぬいぐるみ、ヴァルコイネンさんが何か反応します。

「ヴァルコイネンさん、どうしたんですか?」

「い、いや、なんでもないんだゾ」

 少し焦りながらヴァルコイネンが答えますが知り合いでしょうか?

 なら、この森田って人が魔法少女の緑担当だったり?

 そうだとしたら、なんで敵地にいるような人を選んじゃうんですかね。このぬいぐるみは……

 まあ、それは置いておいて、一応、入れるかどうか、開けてみますか。

 ロッカーを開けると、そこには書類ですか? 紙の束がいっぱいしまってありますね。

 とりあえず何か情報はないかとその一枚を手に取り読んでみます。

 これは…… 書類じゃないですね……

 漫画ですね…… え? えええ!? ええええええええええええええええ!!!!!

 こ、これは……

 わ、私の見ちゃいけないタイプ漫画ですよ!

 え? しかも、これ、主人公がアンバーくんちゃんじゃないですか!

 この漫画だと…… アンバーくんちゃんは男の子で、なんで相手が何でキリギリスの怪人なんですか……

 こ、これ以上は無理です…… み、見れません、私には毒です!

 けど、やっぱりこの森田って人が…… グリーナリーさんなのは間違いなさそうですよね?

「プナイネン・ルージュ何見てるんだゾ? これは…… プナイネン・ルージュそう言う趣味があったのか? 知らなかったゾ」

 ぬいぐるみなのに目をしかめて、ヴァルコイネンさんが私を見てきますが誤解です!

「ち、ちが、違います! でも、やっぱりこの森田って人が、グリーナリーさんなんですね?」

 私がそう聞き返すと、ヴァルコイネンさんがわかりやすいように固まります。

 そして、少ししてから、

「こ、個人情報だゾ」

 と、言って来ました。

 まあ、これで決まりですね。このロッカーの主、森田さんがグリーナリーさんですね。

 驚愕の、しかも色々な事実を知ってしまった私の元へ、更衣室の扉を開けてローズピンクさんが入ってきます。

「ふぅ、終わりました! 鏡は全部はたき割りましたよ! ルージュちゃん無事ですか?」

 一仕事終えた、という顔をしているローズピンクさんに、私はロッカーで見つけた漫画を渡します。

「はい、無事です! それよりローズピンクさん、これ見てください!」

「え? なんですか? え? うわっ! これは…… ルージュちゃん、そういう趣味があったんですね。でもこれは内容が内容なので、もう少し大人になってからが……」

 と、ローズピンクさんは私を白い目で見て来ますが、違う、違うんですよ!

「いえ、違いますよ! その漫画の主人公の名前を確認してください!」

「え? えーと、宗家壮志郎? これがなんですか?」

「そこじゃないですよ、変身後! 魔法少女の時の名前です!」

「えーと…… ケルタイネン・アンバー? あれ? これってアンバーちゃんの名前じゃないんですか? アンバーちゃんって男の子だったんですか?」

 あれ? この反応はローズピンクさんはアンバーくんちゃんのことを女の子って思ってたってことですか?

「そこは知りませんけど、その漫画がこの森田っていう人のロッカーに入ってたんです!」

「じゃあ、その森田さんが……」

「そうです!」

「この漫画の作者さんなんですね」

「そうですけど、そうじゃないです! 森田さんがきっとグリーナリーさんなんですよ!」

 私がそう言うと、ローズピンクさんは一瞬きょとんとした顔をしました。

 その後頷いて、

「あー、そういうことですが。寄りにもよって敵の本陣のある場所の方を魔法少女に選んでしまったということですか?」

 ゆっくりと私とローズピンクさんが抱えているヴァルコイネンさんに鋭い視線を送ります。

 そうだ、何が敵の近くで変身してだ! ヴァルコイネンさんの過失じゃないですか、これ!

「い、いやぁ…… こ、個人情報だから言えないんだゾ……」

 ヴァルコイネンさんはぬいぐるみなのに冷や汗を流しながらそう言いました。




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