【ヤクソ・ウュフデクサントイスタウュクスィ-要するに第十九話-】必殺技☆彡【ケルタイネン・ルク-黄色の章-04-】

「最大の…… 奥義!?」

 ボクも怪人のその言葉に自然と後ずさりしてしまう。

 だって、こんなに強い怪人は初めてだし。

 今まではグルグルパンチすれば大体終わってたのに、この怪人はそもそもボクの攻撃が当たらない。

 まさに武術の達人って感じでかっこいいよね。

 そんな怪人の最大の奥義と言われると流石に後ずさりしちゃうよ。

「行くぞ! まずは精霊飛蝗の構え! 日本最大のバッタであり精霊流しの精霊船に似ることからこの名を付けられし神秘の力を我に!」

 そう言って怪人は奇妙なポーズをとる。

 恐らくはショウリョウバッタを真似たポーズなんだけど、傍から見ていると少し間抜けに思えちゃうよ。

 ショウリョウバッタってどんなバッタ? ボク、バッタの種類何てわからないよ!

 でも、精霊流しの精霊船に似てるって…… そもそも精霊船を知らなかった。

 どんなバッタか少し気になるなぁ。

 家に帰ったらパパに聞いてみようかな?

「続いて、殿様飛蝗の構え! 群生相があり群れるとその性質そのものが変化する! その凄まじき変化の力を我に!」

 トノサマバッタは聞いたことがある!

 でもやっぱりどのバッタかわからないよ。

 なんかまた難しいこと言ってるし!

 あ、あと、怪人はまた変なポーズ取ってるよ。

「雛飛蝗の構え! その名とは裏腹に共食いをするその生への執着と凶暴性、その力を我に!」

 へー、ヒナバッタはかわいい名前してるのに、共食いするのか。

 なんかためになるね。

「疣飛蝗の構え! 実はよく知らんがその疣の力を我に!」

 イボ? なんか嫌な力を借りてる!

 怪人がこのポーズ取ってるときに攻撃しちゃダメかな?

 ダメなんだよね、ボクは特に正義の味方なんだし。こういう時は待つのがお約束って奴だよね?

「最後に菱蝗虫の構え!! 一見してコオロギとも見間違う神秘の形、菱形! その力を我に!」

 なんか最後によくわからないのまで来た。

 うーん、菱形のポーズしているところを蹴り飛ばしたいなぁ。

「これら五種の飛蝗の力を得て打ち出されるは、究極超打! 蝗佃飛蝗喰王掌!」

 ポーズを取り終わった後の怪人は戦いの素人のボクにもわかる。

 怪人に凄まじい闘気が集まり膨れ上がるのが。

 あのへんなポーズにそんな力があったとは思えないけど、ヨガのポーズ的な何かがあったのかもしれない。

 怪人は低い姿勢のまま物凄い速さでボクの眼前迄移動して拳を放つ。

 アッパーのように振り上げられたその拳はボクに直接触れることはなかった。

 それなのにボクは圧倒される。

 振り上げられた拳、その一瞬の後、まるで拳をすかしたことで安心を誘いその瞬間をつく様な一撃。

 それは気の塊だった。

 まるでイナゴの大群のような気の塊。

 ボクはその闘気のイナゴの大群に食い散らかされていく。

 餓鬼のように飢え、全てを喰らいつくす闘気の一撃にして群生の連打、それをまともに喰らったボクは……

 普通にその場に立っていた。

「なっ! 馬鹿な! 我が蝗佃飛蝗喰王掌を喰らって無傷だと! あ、あり得ない……」

「なんか危なかった気がしたけど、何ともない!」

 よし、これで相手の最大の攻撃を受けきったことにはなった!

 けど、ボクの攻撃は一度も当たらないし……

 そうだ、ボクもこの怪人の真似をしてみよう!

 そうすればなんか必殺技を放てるかもしれない!

「ボクもその必殺技を使ってみるよ! ただ力を借りるのは魔法少女の皆だけど!」

 そう言ってボクはかっこいいヒーローポーズを決める!

 それだけで気分が高揚してくる! これがポーズの力か! 確かに凄い! 気分がノリノリで力が溢れて来る!

「赤の構え! その炎は真っ赤に燃える! サポートの力をボクに!」

 ルージュさんの力、お借りします! どんな力まるで分ってないけど、いるだけでボクたちがパワーアップするんだから凄い力だよ!

「青の構え! なんかたまに冷たい視線を送られている気がする! その冷たい力をボクに!」

 アクアさんには多分ボク、嫌われているんだよね、凄く冷たい眼で見られるんだ。

 でも、今だけはボクに力を貸してください!

「桃の構え! ボクよりちっちゃいのに凄いしかっかりしている! しっかりさんの力をボクに!」

 ローズピンクちゃんはちっちゃうのに凄いしっかりしてるんだ。多分ボクのママよりしっかりしてるよ!

「緑の構え! なんかたまにじっとりと見られている気がする! じっとりの力をボクに!」

 グリーナリーさんは、アクアさんと違ってなんが凄い見られている気がするんだよね。

 なんでボクのことそんなジロジロ見てるんだろう、ちょっと恥ずかしいよ。

「黄の構え! えっ、えーと、なんかヒーロー的な力をボクに!」

 一番大好きな、パパがヒーローやっていた時の決めポーズ!

 うんうん、凄い力が湧いてくる気がする!!

「そんなでたらめな構えがあるか!」

 ボクのポーズを見て怪人がそう言うけどさ。

「キミだって割とでたらめだったじゃないか! いくぞ! 究極超打! えーと…… 魔法…… 魔法の力でなんとかなーれ拳!」

 ボクは怪人がした動きを真似て、身を低くして怪人にまっすぐ向かい、力の限りを込めて、怪人の手前でアッパーを放つ。

 異常なほど強化された肉体の放つ渾身の一撃は瞬時に周囲の空気を全て弾き飛ばし、真空を生むだけではなく無そのものを創り出す。

 まあ、ボクがそれを無と認識したのは、少し後の話なんだけどね。

「な、なんだこれは! 我が蝗佃飛蝗喰王掌より飢えた拳だというのか!」

 ボクが創り出した無は周囲のすべてを飲み込んでいく。

 怪人も校庭の大地も等しくすべてを。もちろんボク自身も。

 でも、それは一瞬のことで無はすぐに消滅する。

 その場には無に半身を飲み込まれ、抉れた校庭に横たわる怪人だけだった。

 それとその場に立つ無傷のボク。

「バッ、馬鹿な、貴様も無に飲み込まれたはず…… なのになぜ無傷なのだ!?」

 その怪人の言葉でボクが創り出したのが無、そのものだと認識できた。

 そうか、魔法の力は無の力だったのか! よくわかんないけど!

「ボクはどんな傷も瞬時に治っちゃうからね!」

「無敵ではなく瞬時に修復だと? いや、もはやそれは無限復元ともいうべき能力…… なるほど我が敵う通りではなかったわけか」

 え? なに、無限復元とかかっこいい!

 その言葉、今度から使わせてもらおう! 無限復元のアンバー! わー、かっこいい!!

「ありがとう、怪人。おかげでよくわからないけど凄い技を習得してしまったよ!」

 後、ボクの通り名も決まったよ、ありがとう。

 怪人、えーと、名前なんだっけ……

「さあ、止めを刺すがよい! 我は佃煮の怪人ゆえ喰らってもよいぞ」

「それは遠慮します」

 甘い匂いがすると思ったら、この怪人、佃煮だったのか。

 ということはイナゴの怪人だったのかな?

「そうか、ならば他の魔法少女達への助けに向かうがよい」

 そう言われて魔法少女になった時に渡されたスマホを確認する。

 既に解決した、という内容のメッセージが数件届いている。

 恐らくだけど、まだバレてないルージュさんを除けば全員もう解決しているのかな?

「んー、もう他の皆は勝ってるみたい? ボクが一番最後なのかな」

 倒すのに時間かかっちゃったかな。

 でも、すごい必殺技を覚えたからいいよね!

「なっ! 馬鹿な…… 毒電波遮断怪人の精鋭四人が全滅だと!?」

「四人…… か、やっぱりルージュさんのことはまだバレてないのか、良かった」

 ルージュさんだけ普通のお姉さんだから、まずかったけど、今日はルージュさんのところに怪人は出てないみたいだね。よかった。

「ルージュ、それがサポート役の五人目なのだな……」

「え? なんでそんなことを知ってるの!」

 どうやってボク達の情報を?

 今、ルージュさんって言ったのもまずかったかな?

 えー、どうしよう、ボクのせいでルージュさんが襲われでもしたら……

「だが、力の差がありすぎる! いくら何でもこの差はおかしい!」

「そ、そうなんだ。でも今日はルージュさんいないよ? 元からじゃない? 普段はもっとパワフルだし」

「なっ、そんなバカな!? サポートもなしでこの力量さなのか…… ハハハッ、アハハハハハ! さっさとトドメを刺すがよい!」

 あなたのボクの中で武術の師匠だよ。

 でも怪人だから、倒さないとダメだよね、ありがとう師匠。師匠から学んだ必殺技でボクはヒーローをもっとがんばるよ!

 後この必殺技の名前もちゃんと考えなきゃ! 今日は帰ったら辞書と睨めっこだよ!

 まずは師匠にちゃんと止めを刺してあげないとね。

「うん、わかった! 正義のために! えいや!」

 ボクはよくわからない佃煮の怪人をそうやってやっつけた!




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