【ヤクソ・コルメ-要するに第三話-】毒電波遮断怪人その名はミンミンゼーミ☆彡【ヴィースィ・ヴェーリ・ルク-五色の章-03-】

 ビルの隙間を縫うように飛び、その人影はアスファルトの地表に降り立ったと思ったら、そのままひっくり返りました。

「え? なんです? 怪人? 登場に失敗してないですか?」

 遠目で見ている私にはそういう風に見えました。

 けど、ぬいぐるみモドキの妖精、ヴァルコイネンさんは、

「毒電波遮断怪人・ミンミンゼーミって名乗っているんだゾ」

 と、私に教えてくます。

 どうもあの姿があの怪人の正しい姿のようです。

 そんな怪人いるんですか……?

「離れてるのに聞こえるですね。名乗ってるってことは、着地に失敗したわけじゃないんですか? でも、なんか死んだ蝉みたいなポーズ取ってないです? 名前からしてセミの怪人ぽいのはわかりますが」

 そんなポーズをしていて、更に遠目では動きもしていないように見えますね。

 皆も取り囲んでどうしようって感じで見てますけど。

「もしや!? あれはセミファイナルかもしれないんだゾ!?」

「ああ、あの、死んでると思ってると、急にジジジってなって驚かされるやつですか?」

「そうだゾ」

「それでどう戦うっていうんですか……」

 というか、死にかけじゃないですか…… 登場したときから既に。

 やっぱり、これ、私は必要ないですよね?

 もう帰りたいですけども。

 遠くから見てもわかりますよ。

 皆が一斉にびっくりしている様子が。

 でも、それだけです。何のために生み出された怪人なんですかね。

 哀れすぎじゃないですか、流石に。

 そう思ってると、ケルタイネン・アンバーくんちゃんが、しびれを切らしたのかミンミンゼーミに近寄ると、ミンミンゼーミは急に空に飛びあがっていきました。

 ケルタイネン・アンバーくんちゃんが飛びのいて、その後、何か怒っているように見えます。

 ケルタイネン・アンバーくんちゃんはどんな攻撃を受けても即時に回復しちゃうから無敵なので平気だとは思いますが。

「大変なんだゾ……」

 ヴァルコイネンさんが驚いています。

 やっぱり向こうの詳細な状況がわかっているんですね。

「どうしたんですか?」

 と、私が聞くと、

「ケルタイネン・アンバーがミンミンゼーミにおしっこをかけられたんだゾ」

 と、教えてくれました。

「ああ、うん……」

 私はなんて返事していいかわからなかったです。


 空に飛び上がったミンミンゼーミは無事ヴァーレアンプナイネン・ローズピンクちゃんの放つピンク色の光線に撃ち落されて昇天していきました。

 何とも言えない結末だったけど、それを見ているだけで私は自給十五万円なので文句は言えないですよね。

 時給ですよ、時給。普通じゃ信じられませんよ。




「ミンミンゼーミもやられたか……」

 真っ暗な闇の中、モニターの明かりで人影が映し出される。

 何のことはない。自分の影だ。

 膝の上に乗せた、なにかぬいぐるみのようなものを撫でる。

 撫で心地はすこぶる良い。荒んだ心が癒されるというものだ。

「ハカセ、ハカセ!」

 少し甲高い声がその撫でられている存在から発せられる。

「ここではヘルデスラー大総督と呼びなさい、マスタ・ケイジュよ」

 そう言ってワシは撫でるのをやめる。

「ヘルデスラー大総督ッピ! なんで死にぞこないの蝉を怪人にしたんだッピ?」

 黒いクマのぬいぐるみのような存在、マスタ・ケイジュはもっともな質問をぶつけてくる。

 確かに一見して死にぞこないの怪人のように見える。

 そして、それはその通りでもある。

 何よりあれは死にぞこない蝉を怪人化させたものだ。そこになんだ間違いはない。

「ただの実験じゃよ。怪人の強さは人々に与える恐怖で決まるといったのはマスタ・ケイジュではないか」

 少し考えた後、そのようなことをゆっくりとした口調でマスタ・ケイジュに伝えてやる。

 ワシの有り余る余裕が、言っていることが嘘ではないことを保証している。

 なにも! なにも疑う余地もないほどにな。

「た、確かに、セミファイルナルは驚かされるッピ! でも、ハカセ、怪人の強さは元になる虫の状態にもよると教えたッピよ?」

 マスタ・ケイジュはそう言うのだが、ワシはそれをフッと鼻で笑う。

「ここではヘルデスラー大総督と呼びなさい。言ったであろう、実験じゃと」

「確かに言っていたッピ!」

「セミファイナルで襲られる恐怖度、そして、死にぞこないの蝉。その極端な条件の怪人を作ることで、その強さの割合を調べたかったのじゃ」

 そう、ワシが死にかけの蝉を怪人にしたのは実験のためだ。

 怪人化に伴う不明瞭な部分を明確にするための実験である。

 決して、買出しに行った時、コンビニの前に死にかけの蝉がいたからではない。

「なるほどっピ! 流石ヘルデスラー大総督っピ! コアにアルミホイルを使うことで力を反射させ、本来一度に一体しか作れない怪人を複数体製造した手腕は流石ッピ!」

 毒電波遮断戦闘員・ヴァルヨは実は怪人化というなんでも怪人にしてしまうマスタ・ケイジュの魔法をアルミホイルに使って生まれたものだ。

 毒電波だけでなく魔法の力をも反射してしまうアルミホイルは上手く怪人化できずに最弱の怪人として生まれてきてしまったのだ。

 一見して失敗に思えることだが、アルミホイルにより反射された魔法力を再利用し別のアルミホイルに定着させ、それを繰り返すことで一度の怪人化の魔法で、複数の同じ怪人を生成することにワシは成功している。

 ワシが天才であるからこそ、できたことだ。

「じゃが、毒電波遮断戦闘員・ヴァルヨも量産には成功したが、いかんせん力不足。それでも人手不足は解消できたがな。じゃが、怪人、いや、闇の魔法のことをまだ理解しているとは言い難い。色々実験が必要なのじゃ」

「流石っピ! ハカセ! 流石っピ! 毒電波遮断教団も安泰だっピ!」

 興奮したようにマスタ・ケイジュが甲高い声をあげる。

 それに対してワシは陰で見えないであろうが、その表情を歪める。

「ここではヘルデスラー大総督と呼びなさい。しかし、マスタ・ケイジュよ。聞いてたよりも魔法少女達の力がずいぶんと強いように感じるのだが?」

 マスタ・ケイジュから聞いていた話よりも大分魔法少女の力が強いように思える。

 はじめは魔法適正能力の高い人間を厳選したのかと思っていたが、それだけでは説明できないほどの強さに思える。

「魔法少女は本来五人で一組だっピ! でも今は四人しか見当たらないっピ! きっと隠れた場所にサポートタイプがいるんだっピ!」

「なるほどのぉ、そういうことか。ならば各個撃破が必要じゃな」

 確かにマスタ・ケイジュの言う可能性はある。

 だが、天才たるワシはそれを今の段階で決して決めつけるようなことはしない。

 慎重に、しっかりと対象を観察し、仮説に基づいた実験し、確証を得る。それまで決めつけるようなことはしない。

 ワシは確実な男なのだ。

「でも、それは難しいっピ! 魔法少女の変身能力は正体がわからないようになる魔法がかけられてるっピ! 見破ることは不可能だっピ!」

 確かに魔法少女は毒電波遮断教団の活動に対して受動的であり、こちら側からの攻めで各個撃破は難しい。

 正体も分からないのであれば、それはなおさらだ。

 だが、天才たるワシは既に手は打ってある。

「それは魔法では、の話じゃろ? 幾度もの戦闘で奴らの現れるタイムラグから大体の各活動エリアの特定は既にできておる。そこに同時に怪人どもを出撃させればよいだけのことじゃ」

 しかも、今日の場所は恐らくは魔法少女達の生活圏の中央をわざわざ選んでやった。それが正しかったように四人全員が同時に現れておる。

 天才の名は伊達ではない。

 ワシは何かと慎重な男ではあるが、本当に天才であるのだからな。

 もし毒電波が邪魔しておらぬのだったら、今頃世界はワシの手に落ちていたのだ。

 ああ、もっとアルミホイルを巻かなくては……

「さ、さすがはハカセだっピ! 天才すぎるっピ!」

「じゃから、ここではヘルデスラー大総督と呼びなさい」

 そう言って、ワシは静かにほくそ笑む。




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