いらない僕
ゆーり。
いらない僕①
朝
「要、起きなさーい! 朝ご飯できてるわよー」
一階からの母の声で要(カナメ)は目を覚ました。 こんな一般家庭で当たり前のように使われる言葉を素直に受け入れられぬ自分に嫌気が差す。
微睡に飛び込んでしまいたくなるが、それこそ負けた気がして無理矢理身体を起こした。
―――・・・もう俺は大人なんだ。
―――そろそろ母親のことを認めて支えないといけないというのにまだ素直になれない自分がいる。
―――このままではいけないって分かっているのに・・・。
母は父の再婚相手である。 両親は要が5歳の頃に離婚し、その二年後に新しい母がやってきた。 だが最愛の産みの親のことが忘れられない要にとって新しい母はなかなか受け入れられない存在。
どんな親でも親は親。 要は特に小さかったため母親への想いが強い。
―――大きくなるにつれ自然と距離も近付いていくと思ったんだけどなぁ・・・。
それでも次第に距離を近付けていきたいと思っていた。
「・・・あれ?」
そこであることに気付く。 ふと勉強机へ目をやるとあるべきものがなかったのだ。
「・・・まさか!!」
慌ててベッドから跳び起きた。
「嘘!? ない、ない!! どこへいったんだ!?」
机上を散らかしながらも探し漁る。 昨夜まではあったはずのソレは確かになくなっていた。
「またアイツの仕業か。 ということは・・・」
そう確信すると部屋着のまま走って外へと飛び出した。 近くのゴミ捨て場へと行き自分の家が出したゴミ袋の中を探る。
「ない、ない・・・。 あ、あった!!」
奥の奥にまるで隠すように隠れていたソレを手に取った。 青色だったソレは淡い水色になっておりもうボロボロ。 今にも破けそうな封筒を大切に抱え要は家へと戻った。
―――よかった、無事に見つかって。
―――・・・というか捨てられる周期が早くなってる?
―――前は週一とかだったのに今は二日置きだよね?
そう思いながらドアを開けると丁度弟の良(リョウ)がやってきた。 部活があるため高校生の良は朝が早い。
「あ、兄さんおはよ。 いいよね、大学生は朝が遅くて・・・。 って、臭ッ!!」
ゴミ袋を漁っていたからか臭いが付いてしまったようだ。 良は咄嗟に鼻を塞ぎ嫌そうな顔をする。
「失礼だなぁ」
「その状態で大学へ行かないでよ。 というかまたゴミ捨て場を漁ってきたの?」
要が持っている手紙を見て良は言った。 それに頷くと呆れられる。
「まだ捨てられずにいるの? いい加減に目を覚ましなよ、兄さん。 昔の最低な母親なんか忘れて今のいい母さんを見てあげたら?」
今持っている手紙は要が三歳の頃に実の母からもらったものだった。 中にはバースデーカードが入っており母の字で温かいメッセージが綴られている。 実の母親に関係している唯一の私物である。
「ううん、最低なんかじゃない。 この手紙をくれたということは俺に少なからず愛情があったということなんだ」
「愛情を持っているのに子供に暴力を振るうの? いや、暴力なんて生易しいものじゃなかったはずだよ。 しかもそれの一番の当事者は兄さんじゃないか」
「・・・そうだけど」
「でもよかったじゃん、兄さんの傷は綺麗に消えて」
そう言う良の腕には前の母に負わされた傷が少し残っていた。
―――・・・そんな皮肉を含めた言い方。
良が生まれてから仕事が上手くいかなくなったのか急に暴力を振うようになったのだ。 それを見た父は激怒し母とは離婚。 DVが裁判でも認められ親権を容易に取った父が要と良を引き取ってくれた。
―――良はお母さんと関わる時間が少なかったし物心がなかったから憶えていないのかもしれない。
―――だけど俺には少なからずお母さんとのいい思い出があるんだ。
―――・・・だから暴力を振われたからってお母さんを嫌いにはなれないんだよ。
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