小学生の旧校舎探訪

 地元の小学校の旧校舎には幽霊の噂が次々に出ていましたね。そんなものは良くある噂だと思っていましたよ、実際その通りでした。


 高田さんはそう言って語り始めた。幽霊について聞いたのだが、初手で幽霊を否定されてしまった、しかし何かを見たのは間違いないのだろう、話を最後まで聞いた。


「いやね、当時……まあずっと昔ですね、僕も小学生だった頃があるんですよ、今じゃ想像つかないでしょう?」


 まあ……ええ、などと返答に困ることを言いつつ話は続く。


「当時は旧校舎が使われなくなったばかりで、まだ使おうと思えばしばらくは使えるくらいには頑強だったんですよ。だからか知りませんが入ろうと思えば入れましたし、実際旧校舎を紹介するのも課外活動でありましたよ」


 旧校舎というと不気味そうですがね、実際はただの木造校舎なんですよ。鉄筋コンクリートの校舎が建ったのでそちらに移っただけですね。まあ地震とかもあったので木造では不安ということなんでしょう。ただ作りが悪いとか汚いとかいうことはなかったですね。


 そうして旧校舎はもったいないということで解体を免れていたらしい。旧校舎の七不思議というものもあったらしいが、中は軽く埃が積もっていることを除けば日差しもよく入ってくるのでそれを真に受ける人はほとんどいなかったらしい。


 そんな中、旧校舎を探検しようという提案が悪ガキから上がったんです。肝試しというわけではなく、ただ単に非日常を楽しみたかっただけなのでしょうね、あそこを怖いと思っている人は本当にいませんでした。せいぜい親が通っていたらその頃の話を聞いたくらいでしょうか。それに新校舎にも七不思議というものがあったので、わざわざ旧校舎までいく必要なんて無いんです。


 ただ、娯楽の少ない時代でしたからね、五六人はそれに賛同して行こうとなったわけですよ。僕もその一人だったんですがね。


 ははぁ、それで旧校舎で何かあったと?


 私がそう訊くと高田さんは首を振った。


「いえ、旧校舎に行こうと言ったのは確かですが、昼のうちですよ。小学生だと自由に夜中に出歩けませんからね。だから放課後に遊びに行こうとなったんですよ」


「昼間ですか、それではあまり幽霊が出てきそうにはありませんね」


「そうですね、誰も怖いとは言い出しませんでしたよ。むしろバレて先生に怒られる方がよほど怖いと皆思っていましたね」


 そうして話を続けてくれた。


 放課後、学校で遊んでいる子たちに交じってこっそりと旧校舎に入りました。楽に入れましたよ、警備も無いですし、そもそも使われなくなってからそれほど経っていないので危ないと思う人も少なかったですからね。


 とにかくそうして入ったのですが、特に面白いものはありませんでしたね。一応教室や保健室、職員室なども覗いたんですがね。


 何も無いとやはりつまらないのでもう帰ろうという意見が出るのは当然でしたね。もう何も無いだろうとみんなが同意して出て行きました。僕も案外怖くなかったななんて思いながら出ていきました。


「ところで僕は五六人が入ったと言いましたよね?」


「はい、それが何か?」


「実は僕は七人で入ったと記憶しているんですよ。僕を含めて旧校舎の七不思議を一人一つずつ語ってから入ったはずなんです。場を盛り上げるための準備だったのですが、その時に七つの話が集まったはずなんです」


 ということは人が減ったと?


「そうなんです、七つの話を別々の子がしたので数が合わないんですよね。ただ僕が『誰か残されてない?』と訊いたんですが、全員一致で一人も減ってないと言われたんです。アレが僕の思い違いだったのかとも思ったのですがね……多分僕が数え間違えたんだと信じていますよ、そんなことは信じたくないですしね。それに何より……」


 高田さんは絞り出すように最後に一つ後日談を語った。


「あの日の後から夜に旧校舎に人魂が浮かぶという噂が流れたんですよね……」


 そう言って力なく笑った。なお、その旧校舎は高田さんが子供の頃のものなので流石に現在は取り壊されているそうだ。その人魂の行き先が時折気になると別れ際に彼はそう言った。

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