episode1.4
テントの片付け、使ったスタンドや鍋、カップの片付けも終わり、タウリーのバックパックに収納されていく。
慣れているのか、その小さな体が背負うにはとてつもなく大きなバックパックにどんどん荷物を入れていく。
そして重そうにしながら、よっこいしょ、と言いながら背負って歩き始める。その横にルミナ、ホープが並んで歩く。
「それじゃ、しゅっぱーつ!!」
そう言うと、川から離れて廃墟群と自然の中を歩き始めた。
心地良い風が吹く中、タウリーはどこか足取り軽く歩いて行く。その横では、半歩分程後ろを並んで歩いて行くルミナがいた。
しばらく歩いていると、タウリーが、あっ、と言って何かを思い出したかのようにルミナに話しかけた。
「そういえば、ルミナにはまだ目的地を伝えてなかったね」
「目的地、ですか?」
「うん、勿論旅の目標は"大陸制覇"なんだけど、それを叶えるには他の集落や村の協力を仰ぐしかないんだ。今から向かうのは、僕らがいた集落とも交流のある場所で、ここからさらに東にあるんだ」
「ここからさらに東……海がある方向ですね」
「……?そうだけど……なんで知ってるの?あれ、前に言ったっけ?」
「……どうしてでしょう……私にも、分かりません。でも、今突然思い出した、と言うか、急に来たんです」
無表情ながら、少しだけ困惑の色を見せたルミナに、タウリーも驚いていた。
「もしかしたらルミナは、そこの集落の人なのかな……ん?でも、ルミナはアンドロイドだし……う~ん、よく分からないや」
眉毛を逆ハの字にしながら少し考えていたタウリーを真似して、ルミナもそんな風に悩んでみせた。
するとタウリーはその顔を見て、吹き出して笑った。
「ぷっ、あはは!ルミナが悩んだ表情してる!なんか面白いね」
「面白い、ですか?」
「まあ面白い、というか……ルミナがそんな表情してるの初めて見たから、つい笑っちゃった。ごめんね」
「……タウリーの真似ですよ」
「え、僕そんな顔してたの!?……何だか恥ずかしくなってきた……」
「恥ずかしい……」
「いやいや真似しなくて良いからね!?ちょっと、やめてよ!そんなじっと見ないで!!」
タウリーが恥ずかしがっている顔を、また真似をするために覗き込むルミナをタウリーが追い払った。
ルミナは少しだけ残念そうな表情になったが、すぐにいつもの表情へと戻った。
タウリーは少し恥ずかしそうに、顔を片手で覆いながらしばらく歩いていた。
◎◎◎
廃墟群の中でも、かなり開けた場所へと歩いてきた二人と一匹。その足音だけが、生物が存在している証明をしているかのような静寂が横たわっていた。
木々や草花が無造作に生えているのに、どこかそこに生命感がないように映っている。
そんな場所を歩いていると、タウリーが背負っていたバックパックの横ポケットから、耳に残る不愉快音がけたたましく鳴り響いた。
ビーー!!!!!
「あ、この先はダメみたいだね。少し迂回して行こう」
「タウリー、その音は?」
「あーこれ?大昔の戦争で、大地が汚染されてるんだって。人間が生身で通っちゃうと、命の危険があるから通っちゃダメなんだって。この音は、それを知らせてくれるんだ」
そう言いながらタウリーは迂回する道を探していた。
結局、迂回するといっても道無き道を行くことになるので、その少し近くで休憩することにした。
手頃な岩や倒木に腰掛けて、休む。タウリーは持っていた皿に水を入れ、ホープに差し出す。
「ほら、ホープ。お水だよ」
「ワンッワンッ」
喉が渇いていたのか、美味しそうに水を飲むホープに、タウリーは顔を綻ばせた。
そうしていると、何処からか足音が聞こえてくる。タウリーがいち早く気づき、持っていたナイフを素早く構えた。
ルミナはタウリーの行動に疑問を持ったが、特に口にする暇もなくその対象は現れた。
熊である。
大きくその黒々とした体毛を見せつけながら、のしのしと堂々と現れた。
まるで、獲物を見つけたかのように。
この瞬間、ルミナは言い表せない恐怖を覚え、立ちすくんでいた。相変わらず、表情は固まったままである。
熊が近づくと同時に、タウリーは必死にナイフを振りかざす。
熊は歩みを止めたが、それも一瞬である。まるでナイフなど恐怖するに値しないもののように見ながら、こちらに近づき続けた。
タウリーはそれでもナイフをしまわない。表情は引き攣っていた。
ホープも唸り声をあげながら、少しずつ後退りしていた。
やがて、そんな沈黙を破るかのように熊がこちらに向かって走り始めようとした瞬間——
バアァァン!!!
辺り一帯に響いた銃声が、それを遮った。
それを聴いた熊は歩みを止め、廃墟群の木々の闇の中へと消えていった。
しばらく二人と一匹が固まって、辺りを見渡すと、遠くに初老の男性がいるのを見つけた。手には猟銃を持っていた。
◎◎◎
「危ない所を助けていただき、ありがとうございます」
「いやいやぁとんでもない。遠くから熊が見えたから警戒してたんだけど、まさかあんなに近くに人がいるなんで思わなくて、急いで銃を構えたよぉ」
話し方はゆっくりだがしっかりと話す老人は、タウリーと同じくその身体に合わない巨大なバックパックを背負い、少し腰を曲げながら佇んでいる。
ボロ切れを何度も修復しながら着ているであろう服は、燃やしたらよく燃えるだろうと思う程に乾燥している。
「何かお礼したいんですけど、困ってることとかあります?出来る範囲で何でもしますよ!」
「ふぉっふぉっふぉっ!ありがたい話じゃ。それじゃあ、ちと薪を集めてはくれないか?年寄りにはキツくてな……」
「はい、それぐらいで良ければ!」
「助かるのぉ、じゃあ向こうにわしの家がある。まずそこに荷物を置いて来なさい。背負っていては何かと不便じゃろうからな」
そう言って指差した先に、木々が邪魔でよく見えない所に小さく煙突が出ていることが視認出来る。
「はい、分かりました!」
タウリーは元気良く返事すると、そこへ向かって歩き始めた。
その後ろを、ルミナは表情をこわばらせたまま着いて行くしかなかった。
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