第28話 ファヴニアル討伐後① 邪竜の中身
《28話》
【魔界─邪竜ファヴニアルの棲家】
─俺達は邪竜ファヴニアルの討伐に成功した─
正直死ぬほど苦戦した──というより俺は完全にフィリス頼りであった。実際に最後のトドメ以外は基本的に全部彼女が全てやってくれていた訳だしな……。
フィリスにとっては朝飯前ってところかもだけど…彼女は俺という足手まといを庇いながらの戦闘だ…。
それでも俺が5体満足で生存しているのは邪竜ファヴニアルとフィリスの間には圧倒的に差があったと言えるだろう…。
(パッと思い出せるだけでも…俺に纏わり付いていた瘴気を払って…邪竜の翼をカウンターで弾き飛ばし、四肢を縛りあげた後再起不能になる程の光を貫通させ、んでその後俺を連れたまま邪竜の攻撃を掻い潜った後、四肢を切り落とし……)
フィリスが強くなければ今頃俺は……
(レイやソニアからも忠告されていた通り邪竜の強さは間違いなかった…)
俺一人でアイツを倒せる位に強くなる日は来るのだろうか…
何ならあの討伐隊の悪魔達フルでかかっていても勝てていたか正直怪しい。
(やはり封印が精一杯だという話も嘘じゃないな…実際、邪竜の特大炎攻撃でめちゃくちゃ慌ててたしな…フィリスはただ一人冷静だったけど…)
その後、俺が躊躇してフィリスと問答があったとはいえ、最終的にはなんとか落とし所を見つけられた……。
★
俺はフィリスに腕を掴まれて、倒した邪竜の方へ駆け寄った訳だが…
「アレ……頭が無い…」
俺が一刀両断した邪竜の首から上が無くなっていたのだ。
あのサイズの頭を普通なら見失うはずはない…
「んー…多分、瘴気に紛れて消失したかな…」
「逃げられたってことか?」
「いや、逃げられてはないよ?んーと、簡単に説明するとこの世界には魔力とか、天使の加護の力とか瘴気とかあるでしょ?」
「うん…その力によって俺達は戦ってる、で合ってる?フィリスも例外じゃないよな?裁判の時も…」
「そうだね…私は今熾天使の加護無しでどうにか戦えないか模索中だけど……私達は、あくまでこの世界の中のイチ存在で…それぞれが何かしらの"役割"を背負ってる。分かる?」
魔力や加護の力が剥奪されると、存在が維持出来ないみたいな話…フィリスの極刑裁判でもあったな。
(そもそもその為に俺はフィリスとの契約で力の受け皿となったのだから……)
「…んー……"役割"か。ピンと来ないなぁ…でも、俺は今"特異点"の"役割"を背負ってると考えたら良いんだよな?」
「そう…その認識で合ってる。勿論一見分かりにくいものや自分自身にも認識しづらいものもあるんだけどね…」
「つまり、自分の代わりはこの世界では誰一人としていない…ってことで合ってるか?」
なんだか…そういう綺麗事じゃないけどあなたの代わりはいないみたいなのある訳で…それが本質的に当てはまってるのがこの世界なのかもな…
「そうだね…綺麗事云々ではなくて、その"役割"が果たせず志半ばで死んだ時…その役割は次の代に引き継がれる。」
「つまりは、特異点…俺の先代は俺がここに来る前に亡くなった……」
「そ…そうだったかな…ぁ?」
(ん…?今フィリスが言葉に詰まったような…)
「いや…待って、そういや先代の特異点は死んではいないってソニアが言ってたような……今どこにいるんだろな。」
「…どこにいるんだろね。失踪したとも聞いてるけどね、私は」
(フィリスのトーンが明らかに下がった気がするけど、気のせいだろうか…何か知ってる事があるのかもしれない…)
「んで…その役割は俺に引き継がれたと…失踪するほど特異点の"役割"って苦しいのかな…?」
「さぁ…。でも、ディガル君の場合は自分の"役割"が認識しやすい分、進む道についてもそれなりにレールが敷かれてる。」
「ソニアが言っていた、古くから伝わる言葉がそれに関わって来るのかな…」
「古くから継承された特異点の言葉…もしかして
『──闇に生まれし光を持つもの天魔の救命の双翼にして理の平衡を保つ──』
っていうアレかしら?」
「それ……、ソニアに言われたのと一言一句全く同じだ!有名な言葉なのか?」
「どうだろうね…あんまり気にし過ぎない方がいいと思うよ?結局、今の特異点はディガル君な訳だし…好きにしてとは言わないけど、どんどん新たな道を模索する方がきっとディガル君の為になると思う。」
「でも、その言葉を大まかに捉えておくといいかな…だいたい意味は分かるでしょ?」
「さっぱりではあるけど…天使と悪魔の救済の翼だってことなんだろ?つまりは天使と悪魔を仲良くさせれば良いんじゃないかなとは思ってる…」
「ん、それで私も良いと思う。」
「でも相変わらず…フィリスってホント色々この世界の事について知ってるよね……すごく博識」
「ニャハハ……いやいや、熾天使の仕事とか色々やってる中で読まされた文献とか耳に挟んだとかそんなのばっかだよ?」
「それでも俺はフィリスには何度も助けられてるから…」
俺はフィリスには感謝してもしきれないのは事実だ、目の前にいる一人の美少女に目線を向けて…
「んー…たまにそうやって口説くような事言ってくるディガル君は狡いなぁって……私は思うよ?」
フィリスはわざとらしくタジタジするように身体を揺らして…俺を見つめてくる……
───めっちゃ可愛い…ホントにズルい…
「口説いてるつもりは無いって、本心本心!マジでフィリスには感謝してるから!」
「フフン、今はそういう事にしといてあげるね?」
普通に見抜かれてる……けど、今はこれでいい…。
「んで、だ……今脱線しかけてるけど、邪竜の頭が無くったのは、さっき言った役目を全う出来なかったから次の世代へ引き継がれたって事?」
「ディガル君は察しが早いから助かるねー、ま、そういう事、中に居るであろう竜人とファヴニアルは別だから……外郭のファヴニアルの力は誰かに引き継がれた…って感じかな」
「邪竜ファヴニアルの"役割"みたいなのがまだ達成されてないなら、別の場所で復活してるって可能性は…?」
「うん、可能性は0では無いよ?次の代に移ってた場合ファヴニアルの"役割"がこの世界に必要とされてる限りはね…」
この世界に必要な役割か……なんか難しいな、それは多分誰かの一存で決まるものじゃない…。
フィリスは話を続ける──
「でも、正直あれだけ竜が強くなる例って、かなり稀だし、役割は次の世代へ移るまでに結構タイムラグがあるみたいなんだよね……だから私はそこまで心配はしてないかなー」
「なる程、それにもしまた新生ファヴニアルが生まれたらフィリスと倒しに行けばいい話だしな?」
「……ディガル君また死にかけるかもなのに……それってつまり、遠回しにまた私と"討伐デート"したいって事かな?」
フィリスはわざとらしくニヤニヤとした表情で揶揄ってくる。
(ここでいつもの俺ならばきっと焦って違う違うなんて言うのだろうか…だが今の俺は邪竜を討伐して少しだけ高揚してる……ここでハッキリと伝えた方が良い)
「うん…フィリスとはこの1回だけじゃなくて、これから先も俺と討伐一緒に行って欲しい。」
──言った、言ったぞ俺は…!
フィリスは先程のニヤニヤとした笑みをやめると今度は何かを企んでるような含んだ笑い方をしながら…
「へー……ふーん…♪ま、勿論私が言い出したことだから、ディガル君が強くなれるよう討伐の時に面倒見るつもりだけど…まさか次回もディガル君の方からお願いされるとはねぇ…ふーん…♪」
「なんだよそのふーんって反応は…」
「いや、こう見えて私は喜んでるんだよ?ディガル君の方から求められるのは嫌いじゃない。それにディガル君が強くなれば強くなる分、私の暇つぶしに戦える相手増えるから♪」
(物騒だなおい……)
「あのー…フィリスと戦ったらマジで即死しそうなんだけど…」
(暇つぶしで戦うとか好戦的過ぎ……命がいくつあっても足りないから勘弁していただきたい。)
「勿論、手加減はちゃんとするけどね?」
「手加減されても…だよ。邪竜を一方的に蹂躙してたのを見せられた後に聞きたくない言葉トップ10入りしてるよ絶対に」
「ニャハハ、それは失礼しました…♪」
フィリスはニカッと笑ってくるが絶対に反省してないと思う……
事実、目の前で邪竜を斬った俺の刀(元はフィリスのだけど)を加護の力を再付与しつつ、なぞりながら「次はディガル君には、双剣を持たしてみるかー…」なんて言ってるしな…
「ハァ……とにかくフィリスはさ、邪竜の中の竜人はどんなだと思う…?」
「ディガル君ため息ついてると加護の力が逃げるよ?」
「え?幸せじゃなくてそんな明確に弱くなるとかあんの!?」
「さぁ?天使達の間ではなんかことわざ的な感じで広まってる」
「ってか、何の話だよ。話をそらさないでくれ」
「ごめんごめん、邪竜の中身の話だっけ?」
「うん、正直めっちゃ気になってるから」
「そうだねー…竜人って竜の血の影響で全然歳取らないから、幼く見えて数千歳とかザラにあるよ?」
それってさ…竜人に限った話じゃないかもだよな……天使や悪魔だって人間の感覚では考えられないくらい遥かに長生きだろう…つまりフィリスは同い年にみえて……
いや、辞めよう。聴くのも正直恐怖しか感じないし……
俺はその考えを頭から消して話を続ける…
「少女の声が聞こえてきたんだけど、もしやめちゃくちゃ年上だったり……」
「可能性あるねー。ちなみにさ、ディガル君は生まれてからどれくらいなのかな?流石に少年って事は無さそうだけど…でも」
あ、フィリスの方から聴いてくれたなら俺もさり気なく聞いてみても許されるよな…
「俺はついこの間20になったばかりだよ…いわゆる新成人ってやつ」
「新成人…?聞いたことない言葉…」
「あー…簡単に言うともう大人になりましたよっていう意味かな、ちなみにフィリスはもう大人なのか?」
「なるほどね……。んー…天使はその辺結構曖昧なんだよ、実際に年齢とかほとんど数えないし。」
「意外だな…あー、でも長生きし過ぎてると歳とか数えなくなるくらい月日が早く流れる感覚って聞くし」
「む…ディガル君結構失礼なこと言うね?私そこまで長生きしてないよ?だいたいオーラで若さは分かるから…前言った通り、私はディガル君とあまり若さは変わらない」
「ホントかなぁ?フィリス、同い年にしては達観してるし博識だし、オーラとか肉体を若返らせてるだけで、ホントは数万歳とかだったり…」
「失礼もそこまで来るとどこからツッコみ入れたら良いか……」
フィリスは頭を抱えながら苦笑し、軽く首を横に振りつつ、刀を構えて…
(あ、待って待って…斬られそう!)
「と、とにかく早く邪竜の中にいる竜人の確認をしないと…」
「ん?ディガル君何勘違いしてるのかな?もしかして、私に斬られると思った?」
「ギクッ…」
フィリスはニタァとした悪い笑みを浮かべて、俺に近づいて
「そんな事で流石に私は怒って斬りつけたりしないってば…♪」
こう囁いてくる…また俺の中の悪魔の血が滾るような反応をした気がする……相変わらずエロすぎるんだよな、その囁き方…!
「わ、わかってるって…」
「なら良いけど♪あんまり失礼なこと言ってるとなます切りにしちゃうよ?」
「マジで勘弁してくれ…」
「ハハハ、冗談冗談。ほら、今から邪竜の腹掻っ捌くから、ディガル君刺激が強いなら目瞑っといた方が良いよー?」
フィリスなりの配慮なのだろう…だが
「いや、最後まで見届けるって言ったからには貫き通すよ…」
「やっぱりディガル君根性あるねー見てて気持ちがいいよ、じゃ…いくよ?」
完全に動かなくなり瘴気に紛れて消えていこうとする邪竜の外郭の腹へ、フィリスは俺が使った刀と同じ刀を逆手で持ちながら突き立てると、スーッとスライドするように切っていく───
(てっきり内蔵とかが飛び出してグロ!とかなると思ったけど完全に空だ…フィリスが外郭とか言っていたが…ホントに外はあくまで器だったのだろうか…
ハリボテとまではいかないが…あまりに質量が見合ってない……瘴気に紛れて中身は既に消えてしまったのだろうか……)
フィリスが腹を完全に開いてみると、真っ黒でツヤのある黒い球体が転がり出てくる。サイズは人がうずくまれば入れるくらいのサイズ感だろうか…
「フィリス…!」
「間違いない…この中に竜人が封じられてるはず……」
「どうやって開ける?かなり硬そうだよな…」
フィリスは熾天使の瞳で観察している。碧い瞳が薄く光っているためわかりやすい。
「んー…かなり強力な封印が施されてる……私なら力で強引に開けたり真っ二つも余裕だけど、勿論中の竜人の命の保証出来ないね?」
「じゃあ、駄目だよフィリス…」
「ハハ、ディガル君ならそう言うと思ってたよ、私は中の竜人に怖がられてるみたいだからパスね、ディガル君…声でもかけてみたら?内側からも出る意思があれば勝手に出てくるでしょ」
「んな適当な……」
俺はフィリスの大雑把な指示に苦笑いをしながら、黒い球体に優しく手を触れてみる…
──触れた感触はスベスベしていて、少しヒンヤリしている。
イメージとしては子供の時に作った泥団子を限界まで磨いてピカピカの真ん丸にしたもののデカイ版だと想像してもらうと適当だろうか…。
「大丈夫…怖がらなくて良い、君を傷つけはしないから…君さえ良かったら話をしないか?」
フィリスは小さい声で「ヘへッ…♪ディガル君は優しいねぇ」というようなよく分からない意地悪な笑い方をしている…
──黒い球体は俺の声が届いたのか少しずつ光りだした…。
《28話完》
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