第20話 ギルドでの新たな出会い
《20話》
【魔界─地方都市サタノス】
ギルド本部内─邪竜討伐者待機室─
───フィリスにグイグイと手を引っ張られ、俺はギルドの建物内へと駆け込むように入っていく。
前回、前々回とこの「地方都市サタノス」のギルド本部に来た時は、あくまで時間指定のない魔物討伐…いわば[雑魚狩り]だったこともあり、自分以外に魔物討伐者の悪魔達は数人だった。
しかも雑魚狩りな為ビギナーの魔物討伐者…いわゆる同じレベルの悪魔達が大半…
そのため
(ここのギルド…巨大な地方都市の割にあまり悪魔が居ないな)
と感じていた。
しかし今回は全くの別物だ。
[邪竜ファヴニアル]
コイツはこの地方都市サタノスのギルド本部で受ける事の出来る最大難易度のボスである。中でも邪竜はその上澄みに位置する。
今回ギルドの待機室に入った瞬間、そこに参加する者達の圧で俺は怯みそうになる。
建物内のほとんどは討伐者の悪魔達で埋め尽くされている訳だが…
各々が討伐の準備をしたり、談笑していたりと討伐開始の時まで待機している様子だ…。
俺は熾天使の瞳でだいたいの相手の力を見極めることができる。勿論ソニアが言っていたように、フィリスやフィーゴのように普段時より戦闘時に力が跳ね上がる場合には全てを測れる訳ではないが……
───そんな俺の目は[やはり、超級や上級の討伐者だ…凄まじい…]と語っている。
それでも、やはり通常時のフィリスに到達していないことを見るに、フィリスと同程度の悪魔がほとんど居ないという発言が嘘ではないとわかる。
ちなみに、魔界には4大竜がいるとされ、地方都市それぞれで受けられるオファーは違うものの、基本的にドラゴンが大抵一番難易度が高い。
空を堂々と飛翔し、口からブレスを吐いたり、地面からえぐり取った大地を粉々にして流星のように降り注がせたり…そして属性も多種多様とドラゴンはやはりロマンを感じる───
俺が扉を開けて、ギルドの中に入るとほぼ一番最後の参加者だったこともあり…
本来であれば"一番最後に登場するヤツ…時間ピッタシに現れる奴"なんて者は目立ちたがりというか、自分に酔いしれている奴で実際力も強いという…異世界転生あるあるなのだが
あいにく俺はそうではない、俺は数日前に討伐を始めたばかりの初級者だ。
俺の姿を見て[なんだ、コイツは初級者だな。]という失笑、[ビビらせやがって…俺より強い奴来たらどうしようかと思ったぜ]というような安堵、それぞれ反応はまちまちだが、おおよそコイツは"見学"に来たんだろうなという評価を下される。
────あれ?俺の前にフィリスが入ったのならもっと驚かれてもいいような…
(いや待て、これフィリス気配消して姿も消してやがる!だってそうだよな、俺が入る前にフィリスが入ったはずなのに俺にしか悪魔達の視線向いてないし!)
「フィリス、それは狡いって…俺だけ嘲笑のような目線向けられてるってば…」
小声で俺はフィリスに文句を言ってみる。
「ニャハハ、ごめんごめんディガル君。流石に私は熾天使の姿でここに来るとドラゴン討伐の前に熾天使討伐が開催されちゃうかもだし…しかも、熾天使討伐が開催なんてされたらドラゴン討伐に割ける人員居なくなっちゃうし…私がボコボコにしちゃうから♪」
ともはや笑っていいのかわからないジョークを返してくる。俺はうーん…と妙に腑に落ちないが……
「フィリスの可愛さとさっきの契約に免じて許すしかないかな…」
「さすがはディガル君、心が広い…♪」
「次変な揶揄い方したら擽って無理矢理この悪魔衆の前に曝け出させるよ。」
「ちょいちょい…それは駄目でしょ。こちょこちょは立派なセクハラだよ、ディガル君」
「いや…こちょこちょはセクハラじゃない」
「いやいや、ディガル君のこちょこちょは絶対にいやらしい手付きで擽って来そうだし駄目。」
「えー…俺全然信用されてねーな…」
と少しブツブツとフィリスと会話してたのだが、その超級者の数人の中から1人…多分一番強そうな悪魔が俺の方へと歩いてくる。
周りの悪魔が通り道をわざわざ開けるという事はコイツがかなりの実力者だという証明だろう…
"うわ…厳ついおっさん"とか後ろで言うフィリスやめてくれ…今嘘でも笑ったら俺がぶん殴られるて…
確かに防備をしっかりと固めて、さらに威圧感マシマシで武士を彷彿とさせるような見た目のその悪魔は"厳つい"という感想しか浮かばない…。
「君…」
「は、はい!」
「ドラゴン討伐は初めてか?」
「そうですね…見学だけでもさせてもらおうかなぁと…これから先の目標にしたい訳で…」
「見たところ、まだ初級者といったところか。それにしては纏っている気配が不自然だ…"何かに取り憑かれている"という経験は無いか?」
「さ、さぁ……」
取り憑かれてるって……そういうことだよな…間違いなくフィリスのことだ。
魔界の存在ではない力を纏っているから気配がよめる存在からすりゃ違和感あるのは当たり前だよな…
"ねぇ、誰が取り憑いているですって?失礼しちゃうなー!私は由緒正しき熾天使サマだぞー?"
と後ろでフィリスがごちゃごちゃと文句を並べている…きっと拗ねてる顔は可愛いのだろうが今振り返って確認すればこの目の前のおっさんに怪しまれるだろう……
「とにかく、見学ならくれぐれも前に出たりしないことだ。私はこの討伐隊を取りまとめている、全責任は私が背負っている。君が初級者だとはいえ、私には君を無事に返すという義務がある。忘れないように…」
「…は、はい。」
"思ったより性格いいみたいだね、このおっさん"
(だからおっさん呼び笑うからやめてフィリス…)
「お前も、いきなりガイルのおっさんに目ぇ付けられたか!」
「え?」
あの厳ついおっさんが俺から離れていくと、その様子を見ていたのであろう…人間で言うと25歳くらいの若いお兄さん的な悪魔から話しかけられる。
普通にどこにでもいると言えば語弊はあるが…大学時代にも仲良くはならないが、普通に良い人みたいな先輩は居たものだ…。
纏っている雰囲気は良い人、いや悪魔オーラを発している。この人も超級なのだろうか…
「ほら、あのおっさんな?「ガイルさん」つって、一応このギルドの取締役みたいなもんなんだよ。」
「あの…あなたは?」
「あーワリワリ、俺はヒューガっつうんだ。お前は?新人だろ?このギルドでは初めて見る顔だ。」
「ディガルって言います。はい、新人で見学を…」
「なるほどなぁ…?ま、基本戦うのは俺達上級か超級の悪魔らで戦力は事足りる。緊張しなくとも行って帰ってこれりゃ新人のうちは十分だ。」
「ヒューガさんはこの討伐参加は何回目なんです?」
「ん〜……それ言っちまうと、俺達が邪竜相手に結構これまで苦戦して封印が精一杯だったのバレちまうだろ?」
そうヒューガが言うと周りからギロッと睨まれるような視線が集まるのを感じる…
"へぇ…やっぱ邪竜ってそこそこ強いんだ、これは腕が鳴るなぁ…♪"
フィリス、やけにやる気満々だけど…俺達の出番はこの悪魔達が倒せなかった時だけだからね…(苦笑)
「今回は倒せそうなんです?」
「あぁ…今回は俺達の頭数もしっかり揃ってる。普段なら超級が5人、上級15人位居るんだが…今回は邪竜をそろそろ仕留めるっつーことで超級が10人、上級が25人来てる。まず負けねぇ。」
「悪魔で超級の討伐士って何人位いるんですか?」
「そうだな…100人いるか居ないか…かなり貴重な戦力だ。超級一人は上級の10人分くらいと言っても過言じゃない。それが10人だ…そうやすやすと負けないさ。勿論ここにいる10人の超級者は、あくまで地方都市の10人だ。中央の奴らはもっとつえーかもだが……。あ、いや、口が滑りましたァ!!」
「あ」
ヒューガは後ろから超級討伐士数人につまままれて、
「おい、ヒューガ!お前はそろそろ超級討伐士になれるかもって言われてんのに今から1からやり直すか?」
「おいおい、俺らが中央の奴らに負けるって言いてぇのかよ?」
「お前を超級に推薦した俺達を馬鹿にすんのか、この恩知らずがー!」
と軽くどつかれながら、勘弁してくだせーなどと苦笑いしている。
超級の方らもあくまで冗談なのは理解しているようだ。
───あぁ、結構仲良いんだなこの討伐メンバー達。本来仲良くなければあんな失言すりゃ本気でしばかれているだろうしな。
"ふーん…悪魔も意外とちゃんと仲間意識あるんだねー、意外。これならもし邪竜に全滅させられかけたらディガル君だけじゃなくこの悪魔達も助ける価値はあるかも"
と後ろで、超級の方達よりふんぞり返ってるフィリス……
「フィリス…意外と悪魔も天使も変わらないかもな…」
"ま、天使と悪魔といえど戦争を望んでるのはホントに上の方であぐらかいてるような連中だけだよ"
「フィリスは熾天使で、トップレベルって聞いたけどそれに当てはまらないのか?」
"私はさ…熾天使の中でも次代のトップなんだよ…現環境を決めてるのは私らの親世代みたいでさ…。最近親は帰ってこないしなー"
「そういや…フィリスやフィーゴの親には天界でも出会わなかったもんな」
"まーね…兄(フィーゴ)の方が多分優しいからわたしの親には期待しない方がいいよ?私が大切なものを失って探している時に手助けどころか馬鹿にしてくる位だから…"
「でも挨拶はしときたいよな…一応」
"ふ、ふーん…"
──あれ?フィリス今デレた?
「とにかく、ディガル!俺達に任せとけぇー!」
とそれを遮るようにヒューガの声と、超級討伐士の悪魔達が軽く手を挙げる。
それとほぼ同刻、ギルド内にアナウンスが流れ始める。
《邪竜討伐メンバーの皆さん、準備が出来次第、転送陣へお集まりください。繰り返します、邪竜討伐メンバーの皆さん、転送陣へとお集まりください。》
────さぁ、ついに邪竜とご対面と行こうじゃないか。
討伐隊の責任者であるガイルの掛け声と共に悪魔達が転送陣へと歩き始める───
"ま、私らの出番はあっても一番最後になるだろうけどねー?それにさ、邪竜ファヴニアルはただの竜じゃないって話は聞いてる?中で大元の存在が操ってるって話だよ"
「え、今初めて聞いたんだけど…その話…(汗)」
"あれ、言ってなかったっけ…、4大竜の中身が龍神もとい竜人ってのは割と知られた話だよ?ま、ディガル君はとにかく私に任せてよ♪"
「うん、フィリス…絶対勝とうな」
──しかし、その"勝とうな"という俺の発言に返事は無い。フィリスは気配を絶っている為、いくら俺が熾天使の瞳を持っているとはいえ、視界に入らなければホントに見失いそうだ…
「あれ…?」
"あ、ごめん…勿論だよディガル君…♪"
(今…俺の見間違いでなければ、フィリス…少し泣いてた…?でもこのフィリスの涙は、あの裁判の後に見せたものと似ている感じがする…)
"ところで、ディガル君は討伐用に何か用意してきた?"
「ソニアからの助言で、多少の物は……」
"OK!使うときになったら教えてね、私の力で効果を底上げするから"
「分かった。」
俺は見学だということもあり、割と軽装だが…準備はしてきた。
(勿論フィリスがいるからそもそも準備物は要らないっちゃ要らないのだが…昨日、天界のショップで少しは討伐グッズを買い漁ってきたんだよな…)
討伐隊の悪魔達の大半が転送陣に入った頃、俺はフィリスに手を差し伸べる。
「さぁ…行こっか…フィリス」
「あ…ちょいちょい、それわたしのセリフなんだけど…!」
「ハハ、なんかいつものフィリスの真似したかったんだよね…今、ちょっと俺高揚してるかも…」
「えへへ、私もワクワクしてる…♪」
俺の手をぎゅっと握りしめて、転送陣の方へ歩き出すフィリス
というより、フィリスとしっかり手を繋いだのは初めてかもしれない事もあり…多少興奮しているのもあるのだろう…
ただ、邪竜討伐というのがゲームで培ってきた俺の厨ニ心を擽り、テンションが上がっているのは事実だ…。
「さぁ…一狩り行こうか…!!」
《20話完》
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