悪魔は禁断の恋をする/"前世から狙われていた俺は異世界で彼女と生きる"

暇人大学生ソニア

プロローグ

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~フィリスの独白~


特異点とくいてん


天使と悪魔という両極端の種族が派閥を握る世界で"唯一"その両方の力を"完全"に扱うことが出来る──


『1000年に1度産まれる、世界から"役割"を与えられしバグのような存在』


それが私。


『私は"特別"であり、強大な力を宿している…所謂いわゆる世界に愛された存在』


という風に言ってしまえば、聞こえは良いかもしれない…しかし現実というものはそう甘くないものである。


本来であれば私が生まれる約1000年前にも"特異点"が産まれていたはずで…


私は次期特異点としてその"生きている"特異点の存在から役割を受け継ぐはずだった───


この世界に存在する"天使"や"悪魔"といった種族達は半永久的に寿命が続くため、寿命が尽きた…という可能性は低い。


しかし、私が物心がついた頃にはすでに先代はこの世界に存在していなかったという事は…つまりそういう事なのだろう…。



ただ、この世界の"特異点"という存在についてはある程度伝説が語られているし、真偽については不明なものもあるとはいえ…


『天使と悪魔の数万にも勝る軍勢に一人で立ち向かい、そして勝利を収め世界を作り変えた』だの


『その力が暴走し世界の大半を破滅に追いやった』だの


やたらと世界の命運を左右する存在風に語られる場合が多い…。


私が特異点として生まれ、世直しをしつつ十数年調べて分かった事の一つに"特異点"とは


───闇に生まれし光を持つもの天魔の救命の双翼にして理の平衡を保つ───


存在であり、それが私に与えられた世界の"役割"なのだという。


特異点は天使と悪魔、その両方の力が使えるとはいえ、少し存在自体は悪魔寄りであるらしい…


その為、世界は多少悪魔が実権を握りやすいように出来ている。


ただ、天使側には"熾天使"と呼ばれる天使より一段階上の存在が居て、悪魔が実権を握った世界に対抗するのがこの熾天使であり


その中でも同じくコチラも千年単位でずば抜けた存在が現れるという話で……


こういう存在達と特異点が居ることによってなんだかんだバランスが取れているのがこの世界だ。



──ただ、結局一人の強大な存在によって種族の均衡など容易に崩れてしまう…。


私はその均衡を崩す元凶であった熾天使ディガルと約半年に渡る複数回の熾烈な戦いの末、紙一重で勝利を収めた。


──ディガルは、真面目で優しい熾天使であった…。しかし、悪魔にも天使にも救いが無い世界に絶望し、変革を掲げクーデターを起こした──



私も概ね彼の意見には同意ではあったのだが、彼のクーデターはとにかく天使と悪魔共に犠牲が多すぎたのだ…。


世界の役割を宿す私としてはそんな彼を放置など出来る訳が無かった…。逆に彼においては目的を果たす為に私の存在を、無力化させなければならなかった──


お互いに望まぬ戦いではあったが特異点として、私は絶対に勝たなくてはならなかった。


『世界の為に私は負けられない』


という意志が責任として私には重くのしかかった。


(もし私が負ければ天使と悪魔の大半を討ち滅ぼしてきた彼によってこの世界は秩序を失う…)


最初戦うことなどこれっぽっちも楽しくなんて無かった…危険因子を排除する為に勝たなければいけないだけの作業であり、苦戦すればするほどただただ苦しいだけのものだった。


いくら特別な存在であっても、過度な力の行使は身を削る。半年間に渡る戦いで私は身も心もボロボロに成り果てた…。



ただ、半年も戦っていれば相手とも心が通じ合ってくるなんて事もあるのだろうか…責任に押しつぶされそうだった私のリミッターを解放させ、覚醒へと導いてくれたのは間違いなく彼だった──


──そして、私は最後の力の覚醒と共に彼に最後の一撃を撃ち込み…そして彼は潔く負けを認め…その鼓動を止めた──


勿論最初は特異点として勝てたことに心底安堵した。しかし、戦闘中にかけられたいくつもの言葉が私の頭の中から離れなかった。


「なんでそんな辛くて苦しそうな顔をして戦う。もっと戦いそのものを楽しめばいい…」


「お前とは色々気が合いそうだな、いつか今度は仲間として出会いたいものだ…」


「もっと笑え、お前は美人なんだからさ、笑ってる顔の方が似合ってるぜ?」


「ハハ…覚醒したお前に殺されるなら…俺は本望だ。どうしてだろうな…お前ともっと早い段階で出会っていれば…きっとこんな風にならなかった気がするよ……フィリス。後は、任せた…。この世界を…」


──彼との最期の問答が終わった時、私は大きな喪失感を感じていた。残ったのは戦いによって身も心もボロボロになった自分自身と、天使も悪魔もほとんどが滅び、荒廃した世界だけであった…


"もっと彼と一緒に生きたかった"


私は世界を選んで戦ったはず、こうするしかなかったはずなのに…この選択が間違いだったのでは…と私は失意にくれた。


私は彼が好きになっていた…いや、彼が反乱を起こす前に出会った時からすでに惹かれていたのだろうか…。


──私は、唯一の理解者を自分の手で殺めたのだ。


私は…その時心に誓った。


「次に彼がこの世界に蘇った時は…一緒に生きよう…と。その時まで、私は世界を滅ぼすほどのこの力を封じ…自分自身も永き眠りにつこうと……」


私は特異点の役割と悪魔の力を捨て、自分自身が倒したディガルの剣を手にしたまま深い眠りにつき、自分自身を封印した。


──そして私が次に目を覚ました時は…数千年経過した世界だった──


世界の様相や状況は多少変わったものの、私はすぐに理解した。彼が…やっと帰ってきた…と。


彼が生き返り(といえば語弊があるが…)私が封印から目覚めた時、私はすぐに決意した。


彼と一緒に生きる為に、私は全ての可能性をひたすら模索しようと──



これから始まるのは


特異点と悪魔の存在を封じたものの、未だ世界から愛され続ける熾天使のフィリス


新たに、特異点としてこの世界に再誕した悪魔のディガルとの


異世界生活である。


【本編へ続く】

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