象牙兵戈革命(デンス・ペルデレ・エレーシャ)

フォッカ

第1話 志食月猫(しじきしんげつ)とファント族


 白暦1326年。ある日、地球上から象が絶滅した。

 唐突にではなく少しずつ少しずつと、象を殺し続け象牙を売り捌くこといていた愚か者の集団がいたからだ。


 人々は何にも疑問に思わなかったのかと質問したいぐらいに象を虐殺していた。

 そうしているうちに象の種が途絶えてしまったのだ。なんとも嘆かわしい。


 象が絶滅してから長年の時が経ち、今は人類の脅威に侵されている。

 

 ――現在、白暦1382年。

 夜中、とある山奥で化け物と青年が戦っている。


 化け物の姿は象によく似ていた。しかし違う点を挙げるとすれば、眼がひとつで目がデカく鼻は1メートルも満たない。耳は少し小さく身体には、鎧のようなものを着ている。種族名は“ファント・エレッフ”と呼ばれていた。


 そしてその化け物の名は「ライカ」と呼ぶ。


 その時、化け物ライカは動き出した。

 

 ライカがエルボーを身体より前に出し突進。

 

 青年は華麗に上へ避ける。すると目の前にあった木が、バキバキと折れて倒れる。そして木の葉が舞う。


「ちっ、埒が開かねえ!」青年は愚痴を言うようにつぶやく。


 青年の名は志食月猫しじきしんげつ。とある象狩りのリーダーだ。


「それもそうだな。次はこれを使うか……『死活等処しかつとうしょ』」


 ライカはそう唱えると月猫はニヤリと口元を上げる。


「そうくると思ったぜ!Start up!」


 月猫は手首にかけているリストバンドを触る。


 そう2人が言うと、木の葉の動きは時が止まったように遅くなる。まるで今にも凍りそうな冬の川の流れのように。それでも2人は時が凍る世界で平然と激しく動いている。


 ファント族は世界が時を止まるような速度で戦う生態だ。彼の持っているリストバンドでファント族と同等な速度で戦える。


 その後、月猫は「Exceedエクシード」と言い。空間から現れた眼鏡をかけ、頭に猫耳を、手には2丁拳銃を持つ。


 眼鏡と猫耳をつけた彼の戦闘体制は整った。

 ライカは鋭いパンチを月猫の腹めがけて打とうとするも、華麗に避けられる。

 避けた後、月猫はライカの大きな身体めがけて足蹴りを何発もお見舞い。


 ライカには大したダメージにもなってなかったが、月猫は不意をつき顔面に弾丸を筒先合わせ閃光を通す。


 しかしダメージは入っておらず。無傷のライカは月猫に対し体重を乗せたキックを喰らわせた。月猫は返り討ちにされる。


 まるでナワバリ争いのようだ。ライカに負けそうになる月猫。


「どうした?もう終わりか?」

 ライカが目の前の青年に問いかける。


「……何言ってるんだよ。まだおわっちゃいねぇよ!!」と青年はライカに向かう。


「ほう、象狩りというのは諦めが悪いんだな……」

 ライカは月猫を情けなく見る。


 象狩りとはファント族を駆除する新たな自衛隊の部隊。「Dead Ivory《デッドアイボリー》」のことである。だが彼はその組織に入っているわけではない。

 

 彼の組織は国に認めてない組織。つまり非公認だ。

 国のため、金のために動いているわけじゃなく、善意で動いている。

 

 非公認の組織の名は「Crescent Fangクレセントファング」象牙を三日月に例えた名前だ。


 普段は集団で行動しているが、運悪くファント族のライカに遭遇し、単独行動で挑み現在に至る。


(そろそろ決めるか)


 月猫は拳銃を二丁用意し、こう叫ぶ。


AM暁光サクリフィキウム!」


 叫んだ後、筒先から弾丸を数発放つ。

 それを見たライカはほくそ笑み。

 

「なんだ、弾を打っただけじゃないか。こんなの避けなくても勝てる……」

 

 すると剛鉄のように硬いライカの肩を2、3発貫いた。


「な、なんだこれは」


「教えてやるよ。俺の能力、さ」


 ライカは全然わからなかった。


「俺の能力は時計に関するモノでね。AM暁光サクリフィキウム。つまりは午前7時のことだ。この能力の時刻にとってはな」


 ペラペラと喋っているうちに攻撃したいと思うライカ。しかし体が動けなかった。


(なぜ体が動かない……!)


 ライカは簡単な推理をした。あの象狩りの人間が能力を語っているときは相手は身動きが取れなくなる。そう推理した。

 月猫が語っているところはまるで論文発表会みたいだ。


「簡単に説明すると、これは弾丸の攻撃力を上げる、それだけだ。他にも能力があるが先にお前を始末したい」


「始末……笑わすな。これでもシリウス……言わばトップの組織にも入っている」


「なるほどシリウスというお前みたいに強い奴らがいる組織があるんだな。さてお喋りは済んだな」


 月猫はハハハと笑いながら。


「俺の能力を語っているとき、お前は全然動けないだろ? 多分考えてないと思うが、能力を喋っている間は動けないようになっている」


「お前の思っている以上には考えているぞ。つまりは能力を語り終えたら俺は動けるんだな? そしたらお前の頸動脈を切る」


「あぁ、そうだ。だがまだお前がわかってないことが3つある。1つは俺はお前に勝てないことだ」


「その通りだ、次は?」


「2つは能力を話し動きを止めているが、話し終えたら俺の防御力は無くなり0になる。つまりはお前のデコピンで1発で死ぬことだ」


「ほう、いいことを聞いた。いいのか? もう少しおしゃべりしてもいいぞ。これは情けだ」


「そして3つ」


 月猫は真剣な表情で間を置いてから口を開ける。


「お前の防御力も0になり、さらに俺の能力は3倍に強化する」


 

 能力説明は終わった。

 


 月猫は閃光のように拳銃を早く抜き、弾丸を打ちまくる。

 刹那の出来事なので、ライカは一瞬動けなかった。

 

 一瞬言っても現実では1秒も満たない。

 月猫はその隙にライカの体に風穴を開けまくる。


 防御力が0になっても化け物の体力は凄まじかった。

 少し瀕死になりながらも月猫に襲い掛かる。


 しかし、月猫は華麗に避けて拳銃と体術を合わせた銃の舞をお見舞いする。

 まるで月から落ちた猫のように踊りに踊る。

 右に左に殴りかかったり、拳銃を顎めがけて攻撃したり、足元を弾丸に食らわせたりした。


 その時、止まった世界が動き出した。

 どうやら時間制限があるみたいだ。

 白銀の空気の匂いから森林の匂いが移る。


 その時、雨も降り出した。

 今、月猫とライカは葉に濡れる匂いを嗅ぎながら戦う。


 ライカも月猫の攻撃に慣れてきたのか、反撃をする。

 ライカの攻撃が1発1発は重いので、月猫は体で受け止め、吐血しながら戦う。


 雨粒が君臨する世界で2人の死闘が繰り広げた。

 血と血で洗う醜い争い。雨はまだ止まない。

 


 

 しばらく雨も止み、山の下で探す少女達がいた。

 “尼楠にくするぺ”と“東灯里ひがしあかり”彼女2人は月猫の同じ組織に入っている。


「るぺちゃん、月猫しんげつくんは無事かしら……」


 灯里は、心の奥底から心配する。

 その様子を、るぺはみて、声をかけた。


「わからないけど、彼なら大丈夫だと思うよ」

 るぺは安心するような言葉でフォローする。


 

 るぺは唇を震えながら返答する。

 るぺ本人も心配そうな表情を灯里にみせる。


 しばらく歩くと、人のような何かが地面に横たわっていた。

 2人は恐る恐る見に行くと、彼女達は驚いた。


 その人は“志食月猫しじきしんげつ”だからだ。


 彼女らは慌てふためき、彼女達の本拠地である場所まで、重傷の月猫しんげつを持っていく。




 山の中でライカのような化け物が歩く。

 ライカと同じファント族だ。

 そして月猫とライカが死闘を繰り出した場所まで辿り着く。


「これはこれはライカ殿。こんな状態でなんと痛ましい……。今から貴方様を治療させてあげます」


 化け物は次にこう言う。


「……貴方様は死闘を繰り広げて必死になってたんですね。こんな憎たらしい姿になって……。だが大丈夫です。私たちは貴方様の今の姿でも恨みません。恨むのは象牙を乱獲した愚かな人類ですから……」


 ライカの思われる人物の姿は“志食月猫”と瓜二つだった。

 ファント族は人間に擬態できる生態を持っていた。

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