第86話 ちめいしょう

「あ、ワンちゃんっ」


 階下がカオスなので二階に逃げて来ると、女の子が駆け寄ってきた。

 あの『深淵の森』で会った女の子だ。笑顔でこちらに寄ってくる姿は、自分にとって稀だ─────隣にいたシロ君に向けてだけど‥‥‥‥ぐすん。


「あ、お姉さんっ!お姉さん!」


 妹ちゃんに続いて、お兄ちゃんが小走りにやってきた。

 ─────お兄ちゃんこっちに来てくれた~元気そう。

 ‥‥‥‥あれ?女冒険者達は、ガクピル筋肉痛だったけど‥‥‥‥。お兄ちゃんは大丈夫なのか? ─────あ、特別扱いで、『付与』増し増ししたわ。


『後は、若さですね』


 ─────ぐふぅっ。‥‥‥‥やべぇ‥‥‥‥レッドゾーンまでメンタル削られたわ‥‥‥‥


「妹の目を治してくれて、ありがとうございましたっ!」


 ─────目?この子目悪かったの?いつ治したっけ?

 お兄ちゃんの言っているのが、よく分らなくて思わずウィル少年を見てしまった。


「僕たちと合流した時には、すでに普通に見えてるようでしたよ~」


 ぬぅ、私か?いつやった?無意識の『治癒』の垂れ流しは、後がいろいろ怖いから、気を付けたいんだが‥‥‥‥。


『 森で「治癒」を使った後、この子撫でましたよね? 』


 ─────あ、アレかっ!! 撫でたよっ! いやちょっと待てっ!あれだけで?

 ‥‥‥‥フェンリル母さんの「 雑! 」の一言が今にも聞こえそうだわ‥‥‥‥


「‥‥‥‥ほお」


 ‥‥‥‥きぃぃぃぃと建付けが悪そうな音を鳴らしながら、扉が開く。


「‥‥‥‥面白そうな話だな、私も参加させてもらおうか‥‥‥‥」


 ─────その顔は止めなよ‥‥‥‥。子供たちがビビってるじゃないか‥‥‥‥。


 大人のおっさんが食い気味の顔で寄ってくるのは、精神的に子供にはよくないので早々に退散させた。

 

 ─────お礼?お兄ちゃんが頑張って妹を守ったから、神様がちょっとだけ『願い』を聞いてくれたんだよ~。と適当に誤魔化した。

 

 とっても素直に喜んでくれたお兄ちゃんの笑顔に、荒んだ大人の心はビシビシ総攻撃を喰らったさ‥‥‥‥。

 ‥‥‥‥自分にもあんな頃はあったのだろうか‥‥‥‥。やめとけ!考えるんじゃないっ!‥‥‥‥立ち直れなくなるぞ‥‥‥‥。

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