第53話 専門用語

ワシは陛下の覚えもめでたい、騎士団の元団長だ。

 ─────元というのは、すでに現役を引退し、後進に道を譲ったからである。

  

 陛下からクリスティーナ姫が城から出る際、護衛に加わってほしいと打診された時は、即座に馳せ参じた。子供の頃から成長を見守ってきた、大事な姫様だ。

 陛下の頼みでなくとも、護衛隊に加わっただろう。現に姫様は自分が現れた時、喜んでくださった。


 現役を引退したとはいえ、現役世代の奴らには、まだまだ引けを取らないと思っていたのだが─────この様だ。


 油断していた訳ではないのだが、魔物集団の強襲を受けて、一小隊をほぼ壊滅状態にさせられた。 アル坊達がいなければ俺はいま、ここにはいなかっただろう。

 だが、足を喰われた俺は、これ以上姫様を守ることが出来ない。

─────やはり、歳には勝てなかったという事か‥‥‥‥。


「それで、どこへ行くんじゃ?」


 カタカタと車輪がついた椅子。姫様が考案した『車椅子』というものに乗せられて、俺はアル坊に寝ていた病室から連れ出された。


「すぐ下の中庭です。姫様が外のが安全だろうと‥‥‥‥」


「安全?お主らワシに何させる気なんだ?」


「俺等じゃなくて、姫様達です」


「─────達?」


 実はですね‥‥‥‥。と語られた話は、にわかに信じがたいものだった。 

『深淵の森』でのグレィモンキーの討伐など、大いに興味がそそられる。


「まだ話が聞けてないですが、空から柱が降りるの見ました?─────あれも彼女が関係していると、にらんでるんです」


 ‥‥‥‥あれか。病室の窓からも見えた光る柱。何事かと思う間もなく消えた柱。


「異国の能力者か。そんな者がここに来たと?」


「ウィル坊のお菓子の試食に、釣られて来ました」


「‥‥‥‥それはまた」


 ─────ぬぅん、と急に大型犬の顔が正面に出てきて、ビクッと硬直する。


 ─────こ、これは。


「今は大きさを変幻させてますが─────フェンリルです」


 二人に緊張感が流れるが、フェンリルはフンフンと何やら匂いを嗅ぎまくり、満足したのが何事もなかったかのように、中庭へと続く方向へ去っていった。


「‥‥‥‥幻の魔獣‥‥‥‥初めて見たぞ。あれも件の人物が連れているのか?」


「本人は、自分は一般人だと言ってますが」


─────ぜってぇ違うじゃろ。彼女といったな?女か?どんな大女なんだ。


 中庭が近付くにつれて、野次馬なのかだんだん人が多くなっていく。そして中庭の方角から、なにやら声が聞こえてくる。

 

─────だから、こうっ!ここまでですっ!

─────え~~

─────それから、こう!

─────うわ~それムズくない~?

─────そして、ここにぎゅっと集中!

─────え~ぱぁ~とやっちゃダメ~?

─────駄目です。


 皆の視線が集中する先には、二人の人物がこちらを背にしてかがみ込み、小枝で地面を何やらゴリゴリと描いている姿だった。


「あれは、何を話しているのだ?」


「‥‥‥‥さあ?二人にしか分からない、専門用語ですよ。─────たぶん」


「どんな大女かと思ったが、普通じゃの。何歳ぐらいなのだ?」


「知りませんが‥‥‥‥本人に聞かないほうがいいですよ」


─────すでに二回落とされた、ラングってヤツいますから。

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