第4話 謀略に打ち勝て! 激戦! 不正戦士ズルガイム!
4-1
「ありがとうございましたー」
「ご苦労様でーす」
2人組の業者は深々と頭を下げるとつま先から外に出て行った。
生体認証でしか開かないというのは、こういうときに不便だなと思う。わざわざ俺までエレベーターを降りて入口まで行かなきゃいけないからだ。
「……今の業者さん、なんですか?」
「水道屋だよ。というか普通に入ってくるんじゃない」
知世建設の営業員の儀武君枝が、水道屋と入れ替わりでつま先から入ってくる。
彼女はこの家の担当だが、普通に入って来られるのはなんか嫌だ。また良からぬことでも考えていそうだ。
「なーんで水道業者なんか呼んだんですか?」
「なんでって、急に水が出なくなったからだよ」
寝起きのシャワーを浴びようとしたのに、蛇口を捻っても何も出てこないのだ。そのせいで、10時を回ろうというのに目が覚めた気がしない。
「まったく……こんな変な家にするからトラブルが出るんじゃないのか?」
「それが原因かはともかく……この度は大変申し訳ございませんでした。原因を速やかに調査し、再発防止に努めてまいります」
儀武が深々と頭を下げる。
「再発しないようにいたしますが、今後住宅に関するトラブルが起きた際には、直接業者に連絡する前に、私どもにまずご連絡を頂ければ……」
「何言ってんだ? 俺は知世建設さんに連絡して業者を手配してもらったんだが」
「え?」
「え?」
儀武の目が丸くなる。鳩が豆鉄砲食らったような顔とは、このような顔を言うのだろう。
今朝からの流れはこうだ。
朝、水道が止まった。
すぐに儀武に連絡したが通じない。
なので知世建設に連絡したら男性社員が対応してくれたので、トラブルの内容を伝えたら、水道業者を手配してくれた。
「おかしいですね……」
「何がおかしいんだ」
「まず、私のスマホに履歴が残ってないんですよ」
儀武が見せてきたスマホには、確かに俺の着信履歴は無かった。
「それに
「なんだと?」
「あと、先ほどの業者さん、この辺じゃ見ない顔だったんですよね。少なくとも弊社がいつも頼んでいる設備屋さんではありませんね。あれどこの業者さんなんだろ……?」
儀武は口元に手を当てて考え込んでいる。何か懸念があるのかもしれないが、水道が直った今、そんなことはどうでも良い。俺が気にしてるのは——
「で、アンタはうちに何をしに来たんだ?」
「そんな嫌な顔しないでくださいよぉ、佳美奈様と約束してるから来たんですよ」
「佳美奈と? 見え透いた嘘をつくな。ウチの愛娘がアンタみたいな胡散臭い人間と用事なんか作るわけがない」
「……最近言葉を選ばなくなりましたね。これ見てくださいよ」
儀武はスマホの液晶上に指を滑らせる。チャットアプリの画面が開く。
『じゃあ明日10時にウチ集合ね』
『りょ』
なんてやり取りがされている。
儀武が相手している人間の名前は「棚橋佳美奈」になってる。残念ながら、間違いなく、我が愛娘である。
「じゃあ、そういうわけで通してもらいますよ」
そう言うと、儀武は俺の横をすり抜けようとする。俺は横に素早く動いて立ちはだかる。
「いーや、ここは通さんぞ。どこへ行くつもりだ、何をするつもりだ、何時間いるつもりだ、何を吹き込むつもりだ、どうするつもりだ」
「やだなあ、ちょっと遠くに連れて行って新しい知識を教えてあげるだけですぉ〜」
「やっぱりいかがわしいことを吹き込む気満々じゃないか! そんなことは絶対にさせんぞ! 佳美奈を連れ出すというなら俺を倒してかr ボヘぇッ!?」
掌打。脇腹に突き刺さっていた。激痛が、全身を駆け巡る。俺は地面でのたうち回った。
「きみちゃんお待たせ〜」
「私は今来たところなんで少しも待っていませんが……これ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫、内臓に直接ダメージを与えただけだから」
俺はまだ転がり回っていた。全身が痛い、息が出来ない、声が出ない。
「まあ大丈夫だと仰るなら介入しませんが……」
「きみちゃん?」
「はい?」
「今日オフだよね?」
「そうでした! じゃあ行こうか佳美奈ちゃん。詠美ちゃんは現地集合だっけ?」
「そうそう、だから直接向かっちゃって」
「了解〜」
クソ。なんなんだあの女は。棚橋家を乗っ取る気か。志門を懐柔して佳美奈を懐柔して、陽子もそうするつもりか。
待て。叫んだつもりだが、声にならなかった。右腕を伸ばすが、2人の歩みは止められない。
「あ、仁様。16時までには戻りますので」
儀武は振り返ると、いつもの貼り付けたような笑みで言った。
そのまま、佳美奈を車に乗せ、物凄い音を立てて走り去った。儀武のくせにイタリア車なんか乗ってやがるのか。
今日は日曜日。第4回の戦闘の日。
ただでさえ憂鬱な日曜日が、更に憂鬱になる予感がした。
スーパー庭付き一戸建てロボットツヴァイフォーマー第4話
「謀略に打ち勝て! 激戦! 不正戦士ズルガイム!」
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