第13話:渇き

アバディーン王国歴100年11月10日、王都王城王宮、カミラ視点


 苦しい、欲しい、もう我慢できない、喉が渇いて死にそう!

 

 あれほど責め苛まれた飢餓感はもうなくなったわ。

 今あるのは、とても激しい渇き、喉が渇いて仕方がない。


 なのに、水道はもちろん、井戸も濠も枯れてしまった。

 王宮はもちろん、王城も王都も一滴の水も無くなってしまった。


「飲ませろ、お前の血を飲ませろ!」


「黙れ種豚、お前こそ私に血を寄こせ!」


 今の私たちの飲めるのは、人間の血だけ。

 王都中を探し回っても、飲める物は人の血しかない。

 誰も彼も、他人の血管を引き裂いて血を飲むしか渇きから逃れられない。


 何百回も喰い殺されては蘇る、生地獄から解放されたと思ったのに。

 今度は血を飲まなければ渇きから逃れられない。


 まあ、いいわ、人間の血は美容に良いと聞いた事があるし。

 時期が来たら生意気な令嬢の血を飲むつもりでいたから良い機会だわ。


 ただし、こんな臭い種豚の血は飲みたくない!

 絶対に飲みたくないのに、飲まないと狂いそう。

 

「ギャアアアアア」


 やってしまった、無意識に種豚王太子の首に咬みついてしまった。

 血が臭過ぎて吐きそうなのに飲むのを止められない。

 これが地獄なの、精霊が言っていた地獄なの?


 ふん、だったら地獄で力を手に入れてやる。

 どうせ飲まなければいけないのなら、美しくなれる血を飲むだけよ。


「種豚はそこで這いずっていなさい!」


 どうせ蘇るのは分かっているわ!

 この一カ月で、私たちが死ねない事は嫌と言うほど理解したわ!


 だったら死ねない事を利用してやるわ!

 死ねない間に力をつけてやる。

 これまでは不要だと思っていた、筋力も武術も死ねない事を利用して手に入れる。


 それに、こいつらが相手でも通用する女の魅力を手に入れられたら、この世界のどこに行っても、誰が相手でも、意のままに操れるわ!


「ふっふっふっふっ、お父様、マーガデール侯爵、私は美しいでしょう?

 抱きたくない、抱きたいのなら抱いても良いのよ?」


「やかましい、売女、お前がカーツを裏切ったからこんな事になったのだ!

 お前がカーツを裏切らなかったら、私はこんな苦しまずにすんだのだ!

 私に汚らわしい売女を抱くような悪趣味はない。

 血だ、血を寄こせ、血を飲ませろ!」


「キィイイイイイ、誰が売女よ!

 私はこの国で一番高貴で美しい令嬢よ!

 国を売った売国奴のお前に、売女呼ばわりされる謂れはないわ。

 しね、しね、死になさい、死んでしまいなさい」


 え、なに、景色が一変してしまった!

 いたい、いたい、首、身体、私の身体はどこ?

 首だけでは身動きが取れないわ。

 

 やめなさい、やめるのよ、私の頚から血を飲むのを止めなさい。

 父親でしょう、父親なら娘の血を飲むのを止めなさい!


「くっ、くっ、くっ、くっ、良いざまだな、カミラ。

 お前がチャールズを誘惑しなかったら、こんな事にはならなかったのだ。

 カーツさえ怒らさなかったら、この国は平和だったのだ」


 何を平気で噓を言っているの、愚王!

 最初に私を誘惑してきたのはチャールズの方よ!

 カーツに劣等感を感じて、カーツの婚約者だった私を誘惑したのよ!


 私の方が被害者、犠牲者なのよ!

 チャールズが誘惑して来なかったら、私はカーツの婚約者のままでいられた。

 そしたら無能なチャールズを廃嫡して、王太子妃に成れたのよ!


 言い返してやりたいのに、肺が無いから声が出せない。

 口が動かせるだけで声が出ない。


「どけ、カミラの血は余の物だ!」


「黙れ愚王、お前が無能なチャールズを王にしようとしたから、カーツを排除しようとしたから、こんな事になったのだ」


「やかましい、社交界の嫌われ者だった売女の娘をチャールズの妃にして、この国を思いのままに操ろうとしたお前が、カーツを排除したのだろうが!

 全てお前の所為だ、だからカミラの血を寄こせ!」


 やはり私の血は誰よりも美味しいのね。

 愚王と愚か者が争うのもしかたがないわね。

 

 しかたがないけれど、気持ち悪いわ!

 どうせ飲まれるのなら、筋肉美の騎士か美少年に飲まれたいわ。

 いえ、私が飲むの、私は飲まれる側ではなく飲む側よ!


 もうしばらくよ、もうしばらくの辛抱よ。

 も少ししたら、精霊の呪いで身体と首が一緒になる。


 その時に愚王と愚か者を殺してしまえば良い。

 手足を破壊して動けないようにしたら、王宮から出て王都に行けば良い。

 王都の方が美味しい血の美少年や筋肉騎士がいるはずよ。


「死ね、死ね、死ね、死んでしまえ!

 ぎゃっはっはっはっはっ、俺様を馬鹿する奴は王であろうと父であろうと許さん!

 死ね、潰れろ、蘇る度に手足を潰してしまえば二度と動けないだろう?」


 どうしようもない馬鹿だと思っていたのに、少しは知恵をつけたの?

 種豚の分際で、王と宰相を動けないようにして何をしようというの?

 何か良い方法を思いついたのなら、利用してあげるから正直に言いなさい!


「カミラ、お前もだ、お前も俺様を馬鹿にしているだろう?

 許さんぞ、俺様を馬鹿にする奴は誰であろうと許さない!

 こいつらと一緒にここに並べて、蘇る度の手足を叩き潰してやる。

 そしてこの地獄が終わるまで俺様専用の血袋になれ!」


 嫌よ、誰がお前のような臭い種豚の血袋になるものか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る