第2話:公爵公子、王都を追放される。

アバディーン王国歴100年8月21日、王都王城王宮、カーツ公爵公子視点


「問題はお前だ、レンウィック公爵公子カーツ。

 腐敗獣討伐では何の役にも立たなかったようだが、それでも余の甥だ。

 チャールズを殺そうとした罪は許し難いが、処刑するのは忍びない」


「良くそんな大嘘を口にできるな、愚王。

 令嬢や貴婦人を嬲り者にし過ぎて嫌われ者になった、種豚が可愛いのだろう?

 無能で品性下劣な種豚を、どうしても王にしたいのだろう?

 そのために邪魔な俺を殺したくて仕方がないのだろう?

 だが、俺を殺した事で起きる混乱をどう治める?

 耄碌したあんたでも、国内は権力で抑えられるだろう。

 だが近隣諸国は、耄碌したあんたじゃ抑えきれないぞ」


「余は精霊に愛されている。

 近隣諸国が侵攻を企てても、国境を一歩も越えられぬ」


「愚王、あんたが精霊に愛されている訳じゃない。

 建国王陛下の遺勲、精霊との契約が惰性で続いていただけだ。

 だが今回の腐敗獣討伐では、王も王太子も何の武勲もたてなかった。

 これによって健国王陛下と精霊の契約は無効になった」


 それでなくても俺と愚王の舌戦で静まり返っていた大舞踏会場が、精霊の加護を失ってと聞いて凍り付いた。


 この国の建国意義、根本を破壊する言葉だからだ。

 周辺諸国の圧政に苦しんでいた人々を救うために、義軍を立ち上げた建国皇帝。

 その義挙に精霊が力を貸したから建国できたのだ。


「ふん、そう言えば、継承順位を押しのけて王に成れるとでも思ったか、恥知らず!

 王家と精霊様の絆を揶揄するような奴に情をかける必要はない。

 追放だ、近隣諸国に亡命できると思うなよ!

 魔境に追放してやるから、魔獣の餌になるが良い!

 文句はないな、ジャスパー?!」


「何の文句もございません、国王陛下。

 愚息の度重なる無礼をお詫びさせていただきます」


 この世界の父親であるレンウィック公爵は俺を売った。

 最初から国王、宰相と取引していたのだろう。

 俺の命を、名目だけの栄誉、大公の地位を得るために売った。


「父として最後の恩情だ。

 謀叛を画策したお前に馬と武具だけはくれてやる」


 全く愛情のない表情と声色で言われてもなぁ。

 こんな奴が父親だから、この世界にも公爵家にも愛情がもてなかった。

 命懸けで救う気にはなれなかった。


 それに、この場でこいつらを皆殺しにて国を良くする気もない。

 そんな事は、建国王と契約した精霊の責任だ。

 この世界を腐敗させた全ての精霊の責任だ。

 

 民から搾取した金銀財宝に目が眩んで、誘拐拉致召喚をした堕精霊の責任だ。

 俺が守らなければいけないのは、可哀想な被害者、聖女だけだ。


「この恩知らずが!」


 俺が何も言わず、聖女をお姫様抱っこし出て行こうとすると、この世界の父親、レンウィック公爵が背中に罵声を浴びせて来た。


 恩知らずも何も、愛情をかけられた思い出が全く無い。

 こいつも女性を物としか扱わない腐れ外道だ。


 何十何百もの女性を嬲り者にしてきた。

 そんな下劣な行動の中で生まれたのが俺だ。


 母性豊かだった母親は、命と引き換えに俺を生んでくれた。

 運悪く妊娠した他の犠牲者が全員堕胎を選んだのにだ。


「恩を受けた覚えなど一切ない!」


 我慢の限度を超えた、殺さない程度に痛めつけてやる。


『この世界の管理を神々から命いられている精霊よ、子殺しを企む者に罰を与えろ。

 死ぬまで無くならない痒みを与えろ』


 俺は心の中で、痒みを敏感に感じる女性ホルモン、エストロゲンが増える事をイメージして精霊に伝えた。


 更に免疫が異常反応するアトピー性皮膚炎になるようにイメージした。


 この2つの前提を作った上で、亜空間に閉じ込めておいたノミとダニを放った。

 10年間の腐敗獣討伐では、夜営の度に虫に悩まされた。


 後半では快適な亜空間を創り出して休めるようになったが、最初の頃は害虫を殺すか排除するかしか方法がなかった。


 聖女が出来るだけ生き物を殺したくないと言ったから、ノミやダニも隔離するようになったが、その時の虫を幾つかの亜空間分けて飼っている。


「ぎゃあああああ、かゆい、かゆい、痒い!」


 痛みよりも痒みの方が辛いのは、前世で何度も経験している。

 思っていた通り、恥も外聞もなく大舞踏会場でのたうち回るくらい痒いようだ。

 対象をレンウィック公爵だけにするのは勿体ない。


『この世界の管理を神々から命いられている精霊よ、己の罪を分かっているなら、大舞踏会場にいる悪人全員に罰を与えろ。

 死ぬまで無くならない痒みを与えろ。

 その代償に必要な魔力は全て与えてやる』


「「「「「ぎゃあああああ、かゆい、かゆい、痒い!」」」」」


 公爵に加えて、愚王、種豚王太子、売女公爵令嬢たちが激しい痒みに苦しんでいるのを背後に感じながら、俺は聖女を守りながら謁見の間を出て行った。


 俺は眠り続ける聖女をお姫様抱っこして公爵邸に向かった。

 王宮は直系王族が暮らす場所であり、王国に仕える貴族士族が仕事をする場所。


 王宮の周囲は、防御施設である王城となっている。

 公爵邸も王宮を守る王城の防御施設の1つだ。

 だから城壁と濠さえあれば良いのに、王宮のように金銀財宝で飾られている。


 領民から搾取した税で造られた恥ずべき場所だ。

 幼い頃に一度だけ諫言したが、公爵に殺されかけたので二度と諫めなかった。

 俺は救国の旅で得た武具と金銀財宝を持って魔境に行こうとしたのだが……


「カーツ様、公爵閣下から、討伐で得たモノは公爵家の物だから、何1つ渡すなと言われております」


 公爵の側近がニタニタ笑いながら言い放ちやがった。

 ずっと以前から、聖女と俺を追放する計画だったのだろう。


 救国の旅で手に入れた金銀財宝や武具は強欲な公爵に奪われた。

 まあ、表に出てしても問題のないガラクタばかりだから全く惜しくない。


 本当に価値のあるモノは全て亜空間にしまってある。

 だが公爵や使用人が自由に使えるのは腹立たしい。

 亜空間で蟲毒にまで育てた毒虫を公爵邸の宝物庫に放っておこう。


 城門を出ようとすると、公爵に仕える騎士や使用人がニタニタと笑っている。

 主人に似て性根の腐った連中ばかりだ。


 10年も救国の旅に出ていた俺の事を後継者とは思っていないのだろう。

 こいつらの事だ、必ず宝物庫に盗みに入るだろうから、近いうちに死ぬ。


 王城、王都を出て魔境に続く街道を進む。

 誰も見ていない事を確認して必要なモノを創り出した。


『地中の元素を使って我が理想の剣と鎧を造り出す。

 その為に必要な魔力を神々に捧げる』


 俺は心の中で精霊を無視する魔術を使った。

 神々からこの世界の管理を命じられた精霊たちは堕落している。


 そんな連中に頼まなければいけない魔術など使う気にならなかった。

 命じるのなら兎も角、頼む事だけは絶対にない。

 だから直接神々の力を借りる魔術を開発したのだ。


 実際に神々の力を借りているのかは分からない。

 魔力を行使するのに勝手が良いから、神を想像しているだけかもしれない。

 精霊に命じなくても魔術が使えるのを、定期的に見せつけておく。


 この世界の土も地球の土とほぼ同じ元素で出来ていた。

 場所によって大きな偏りはあるが、全体的に考えればほぼ同じだった。


 土の中から、鉄、炭素、ニッケル、クロムなどを抽出して合金を造った。

 この世界で一般的に使われている鉄とは比較にならない硬度と粘度の合金だ。

 更に呪文を刻んで魔力を通せば、この世界の鉄など楽々と断ち斬る。


 魔境まではまだ先が長く、王都から馬で30日はかかる。

 俺はゆっくり旅を楽しむ心算だった。

 救国の旅は苦難の旅だったので、ほとんど楽しめなかった。


 とはいえ、いずれ目を覚ます聖女を、お姫様抱っこしたまま旅するのは何かと不便だから、土でゴーレムを創り出す。


『地中の元素を使って我が理想の軍馬を創り、ゴーストの魂を入れる。

 その為に必要な魔力を神々に捧げる』


「え、あ、なんだ、俺は腐れ貴族に殺されたはずだが?」


 近くにいたゴーストを簡単に呼び寄せる事ができた。


「お前は恨みの余り精霊の転生を拒んで地上に残っていたのだ」


「当たり前だ、あんな殺され方をして、恨みも晴らさずに転生できるか!」


「だったら丁度いい、必ず王侯貴族が俺を殺しにやって来る。

 丈夫な軍馬の身体を貸してやるから、その時に恨み重なる貴族を殺せ」


「丈夫な軍馬の身体?

 うっお、なんじゃこりゃあ~」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る