運命の一曲②



木原視点




「俺、脱ぐよ」



それを言った瞬間、イキリハゲの表情が変わった。

うちもそれを聞いた時――耳がバグったと思ったで。

ASMR聞きすぎてついにおかしくなったんかと。



「今なんつった?」

「聞こえなかった? 今ココで脱ぐって言ったんだけど」


「……はぁ?」

「それで柳さんの事は、きっぱり忘れてよ」


「はっ、ハハハハハ! なんだよそれ!」

「でも条件があるんだ。俺の裸はそんなに安くないから」



聞き間違いでは無かった。

脱ぐなんて正気の沙汰やない。


そして、その提案も正気ではなかった。

カラオケで95点以上の時点でおかしいのに、曲を選ばせるなんて。



「お前バカだろ! 何が安くないよ、だ。安売りじゃねーか」

「そうかな」



この時だけは、コイツと同じ考えなのが嫌やった。

故郷のスーパーよりも大安売りや(困惑)。


普通に考えて無理。

新たな標的を見つけた様な、気持ち悪い笑みから目を逸らした。


笑って出ていく彼の背中を、睨む事しか出来んかった。



「元気出るなら今すぐ脱ぐけど」

「!?」



そしてそれと対象的な、彼が眩しい。

冗談を交えて、元気ないヒメに声を掛けとる。


……これからはもう、朝日様って呼ぶわ。


うちなんかが、さん付けとか君付けとか恐れ多いし。

一番しっくりくる。



「でででもその、は、裸……」

「や、安くないんやろ」


「あ。見たい?」


「ひゃっ!?」

「へ、い、いや、見たいか見たくないかってそりゃアレやけど」


「ははっその時はよろしくね」



あんなことがあったとは思えない程、朝日様は軽く話す。

人見知りのうちでも、そんな雰囲気やったから少しは話せるようになった。


男と話すなんて考えられんかったのに。


男の、その、裸なんて。プール以外で永遠に見れんもんかと……。

っていやいや今見れたらあかんやろ!



「で、でも——私達の為にそんな……」

「え? いやまず俺が原因だから、俺がなんとかしないと」


「べっ、別に無視でええやん……?」

「いやいや」


「どうして、なんですか?」

「!」



だからこそ、うちらもそれを聞けた。

全く朝日様は関わる意味はない。


……彼が露出性癖とかあるんなら、まあ……。



「ただ、俺は、君達と——」



口を開いた朝日様。

珍しい、おぼつかない口調。



「——よう、連れてきたぜ」



そしてそれは、不愉快な声で上書きされたけど。

そんなわけない。

君達と“仲良くなりたい”なんて――うちらに言うわけない。



多分君達とっても陰キャ臭いね(笑)とかや。


……。

朝日様がそんなん言うわけないやろ!





ちっこいカラオケルームに、カーストトップが五人。

それに教室の隅のうちら三人――合計八人。

別世界の人間がいっぱいおってクラクラする。異世界召喚でもされたんか?


で、朝日様の交渉で彼ら五人が歌ってた曲限定になったけど、そんなん焼石に水や。

こーいうんは大体持ち歌みたいなんやないと、95どころか90も取れんやろ。


あのイキリハゲはどうせヘタクソにレゲエとか歌うんやろなぁ……(偏見)。



「ココまで譲歩したんだから、マジで約束守ってもらうぜ――」



《――♪》



気持ちを落ち着かせる間もなく、それは始まってまう。

タイトル画面、選曲したそれがバッと映る。



「『大マジ』や……」



まさか、それを歌うなんて思わんかった。

うちの大好きな作品、アニメ第一期のオープニング。



「『大マジ一億ゴールド』って、あの時翔馬に歌わされてたやつだよね〜?」



“歌わされてた”、その言葉で察する。

コラボの甲斐あって、この曲はココで歌う人も多いんやろ。

選曲の人気曲の中にも入っとる。多分履歴とかにも。


あの気色悪いハゲの事やから、そん中から選んで朝日様に無茶振りで歌わせたんやろ。

それで『なんだよこの曲w』とか笑っとるんやろな。

ほんまムカつく。


まさかあのカーストトップの中に、大マジ好きな人がおるわけないしな。



「――♪」



で、歌い出す彼。


……うっま!!

なんやこの声量。バケモンか? マイクほぼいらんやん!



「わ、私よりぜんぜん上手いです……」

「でっでも95点やで? 絶対ムリや……」

「」シャンシャン



そのまま朝日様が歌っていく。


ただ、やっぱり曲に慣れてないっぽくて、ところどころ詰まっとる。

それでも100万回(100回)ぐらいコレを歌ってたうちより上手い。

慣れてる曲やったら、ほんまに95ぐらい取れとったかもしれん。


だからこそ、悔しかった。



《――「カラオケの採点で、95点以上出せなかったら」「ハッ、却下だな」――》



今考えれば……あのチキンハゲの逃げは正しかったんやって。



「タンバリンとか採点やったことあんのかよネクラ。味方から妨害されてんじゃねーか」

「……」シャンシャン



バカなハゲはそう言うけどな、朝日様のリズムが安定してんの分からんのか?

ヒメはお前みたいなあほやないんや。


……うぅ、むかつく。このまま何もできん自分が嫌や。



「おお、終わっちゃう……」

「ま、マジで脱ぐんか……?」


「終わったな」

「脱げ脱げ〜」

「よ、陽君……」



《採 点 中》



「……ふぅ。どうかな」



《採 点 終 了》



呟く朝日様。画面は暗転。



「「……」」

「」ジー



自己嫌悪の中で、あっという間にそれは終わってもうた。

現れるであろう採点結果を手で隠しながら。

指の隙間でこっそり見ながら。



「ハハッ来るぞ」

「ようやく終わりか、勇敢と無謀を履き違えたな」



《採点結果は……》



ピカッと光る液晶画面。

そこにあったのは――







《 96点!! GREAT!!! 》







その採点画面が、パッと映し出された。

目をこすっても変わらないまま。


綺麗に、金色のその点数表示が輝いとって。



「「「……」」」



固まる朝日様以外の全員。

もちろんうちも入っとるけど――






「………………はぁ?」






そのハゲのバカ面は、うちは一生忘れんと思う。

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