運命の一曲②
☆
木原視点
☆
「俺、脱ぐよ」
それを言った瞬間、イキリハゲの表情が変わった。
うちもそれを聞いた時――耳がバグったと思ったで。
ASMR聞きすぎてついにおかしくなったんかと。
「今なんつった?」
「聞こえなかった? 今ココで脱ぐって言ったんだけど」
「……はぁ?」
「それで柳さんの事は、きっぱり忘れてよ」
「はっ、ハハハハハ! なんだよそれ!」
「でも条件があるんだ。俺の裸はそんなに安くないから」
聞き間違いでは無かった。
脱ぐなんて正気の沙汰やない。
そして、その提案も正気ではなかった。
カラオケで95点以上の時点でおかしいのに、曲を選ばせるなんて。
「お前バカだろ! 何が安くないよ、だ。安売りじゃねーか」
「そうかな」
この時だけは、コイツと同じ考えなのが嫌やった。
故郷のスーパーよりも大安売りや(困惑)。
普通に考えて無理。
新たな標的を見つけた様な、気持ち悪い笑みから目を逸らした。
笑って出ていく彼の背中を、睨む事しか出来んかった。
「元気出るなら今すぐ脱ぐけど」
「!?」
そしてそれと対象的な、彼が眩しい。
冗談を交えて、元気ないヒメに声を掛けとる。
……これからはもう、朝日様って呼ぶわ。
うちなんかが、さん付けとか君付けとか恐れ多いし。
一番しっくりくる。
「でででもその、は、裸……」
「や、安くないんやろ」
「あ。見たい?」
「ひゃっ!?」
「へ、い、いや、見たいか見たくないかってそりゃアレやけど」
「ははっその時はよろしくね」
あんなことがあったとは思えない程、朝日様は軽く話す。
人見知りのうちでも、そんな雰囲気やったから少しは話せるようになった。
男と話すなんて考えられんかったのに。
男の、その、裸なんて。プール以外で永遠に見れんもんかと……。
っていやいや今見れたらあかんやろ!
「で、でも——私達の為にそんな……」
「え? いやまず俺が原因だから、俺がなんとかしないと」
「べっ、別に無視でええやん……?」
「いやいや」
「どうして、なんですか?」
「!」
だからこそ、うちらもそれを聞けた。
全く朝日様は関わる意味はない。
……彼が露出性癖とかあるんなら、まあ……。
「ただ、俺は、君達と——」
口を開いた朝日様。
珍しい、おぼつかない口調。
「——よう、連れてきたぜ」
そしてそれは、不愉快な声で上書きされたけど。
そんなわけない。
君達と“仲良くなりたい”なんて――うちらに言うわけない。
多分君達とっても陰キャ臭いね(笑)とかや。
……。
朝日様がそんなん言うわけないやろ!
☆
ちっこいカラオケルームに、カーストトップが五人。
それに教室の隅のうちら三人――合計八人。
別世界の人間がいっぱいおってクラクラする。異世界召喚でもされたんか?
で、朝日様の交渉で彼ら五人が歌ってた曲限定になったけど、そんなん焼石に水や。
こーいうんは大体持ち歌みたいなんやないと、95どころか90も取れんやろ。
あのイキリハゲはどうせヘタクソにレゲエとか歌うんやろなぁ……(偏見)。
「ココまで譲歩したんだから、マジで約束守ってもらうぜ――」
《――♪》
気持ちを落ち着かせる間もなく、それは始まってまう。
タイトル画面、選曲したそれがバッと映る。
「『大マジ』や……」
まさか、それを歌うなんて思わんかった。
うちの大好きな作品、アニメ第一期のオープニング。
「『大マジ一億ゴールド』って、あの時翔馬に歌わされてたやつだよね〜?」
“歌わされてた”、その言葉で察する。
コラボの甲斐あって、この曲はココで歌う人も多いんやろ。
選曲の人気曲の中にも入っとる。多分履歴とかにも。
あの気色悪いハゲの事やから、そん中から選んで朝日様に無茶振りで歌わせたんやろ。
それで『なんだよこの曲w』とか笑っとるんやろな。
ほんまムカつく。
まさかあのカーストトップの中に、大マジ好きな人がおるわけないしな。
「――♪」
で、歌い出す彼。
……うっま!!
なんやこの声量。バケモンか? マイクほぼいらんやん!
「わ、私よりぜんぜん上手いです……」
「でっでも95点やで? 絶対ムリや……」
「」シャンシャン
そのまま朝日様が歌っていく。
ただ、やっぱり曲に慣れてないっぽくて、ところどころ詰まっとる。
それでも100万回(100回)ぐらいコレを歌ってたうちより上手い。
慣れてる曲やったら、ほんまに95ぐらい取れとったかもしれん。
だからこそ、悔しかった。
《――「カラオケの採点で、95点以上出せなかったら」「ハッ、却下だな」――》
今考えれば……あのチキンハゲの逃げは正しかったんやって。
「タンバリンとか採点やったことあんのかよネクラ。味方から妨害されてんじゃねーか」
「……」シャンシャン
バカなハゲはそう言うけどな、朝日様のリズムが安定してんの分からんのか?
ヒメはお前みたいなあほやないんや。
……うぅ、むかつく。このまま何もできん自分が嫌や。
「おお、終わっちゃう……」
「ま、マジで脱ぐんか……?」
「終わったな」
「脱げ脱げ〜」
「よ、陽君……」
《採 点 中》
「……ふぅ。どうかな」
《採 点 終 了》
呟く朝日様。画面は暗転。
「「……」」
「」ジー
自己嫌悪の中で、あっという間にそれは終わってもうた。
現れるであろう採点結果を手で隠しながら。
指の隙間でこっそり見ながら。
「ハハッ来るぞ」
「ようやく終わりか、勇敢と無謀を履き違えたな」
《採点結果は……》
ピカッと光る液晶画面。
そこにあったのは――
《 96点!! GREAT!!! 》
その採点画面が、パッと映し出された。
目を
綺麗に、金色のその点数表示が輝いとって。
「「「……」」」
固まる朝日様以外の全員。
もちろんうちも入っとるけど――
「………………はぁ?」
そのハゲのバカ面は、うちは一生忘れんと思う。
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