鼻血
「……」
まるで彼に導かれる様に、俺はその場所に歩いていた。
近付いていくたびに、歩いている人が変わっていくのを感じる。
……メガネ率、高くないか? 気のせいかな。
「!」
アニメ雑誌に彩られたガラスの壁。
アニメキャラのスタンドパネルが出迎えた玄関口。
人波を分けながら建物内に入れば、世界が変わった様に。
本、本。大量の本がそこに並んでいる。
それも大体漫画だ。
沢山の人の中、掻き分けて進めば急に本のコーナーは無くなった。
落ち着くかと思ったらそんなことはない。
クリアファイルにぬいぐるみ、フィギュアにカード、CDにクッションとか服とか、うちわなんかも——
「……おっ、と、ごめんなさい」
「ああすいません!」
ぶつかりかけて、なんとか前に進む。
止まっちゃ駄目だ。ごった返しまでとは言わないけど、人が多すぎる。
土曜日の昼間といえど、こんなにも居るのか。
ちょっと見て帰るだけだったんだけど、ずるずると奥に身体が入っていく。
もう、出口は見えなかった。
☆
人混みは慣れている。
ある程度落ち着いたら、周囲を見る余裕も出来た。
だがその、今度は違う方面で落ち着かない。
辺り見る限りアニメグッズで、それら全て知らないものばかり。
最近じゃ『大マジ』しか見てなかったから仕方ないんだけど。
陸に上がった河童の気分だった。
俺なんかが入っていいのか分からない、別世界。
「……ふぅ」
とりあえずエスカレーター付近まで逃げた。
息が詰まる。全く落ち着かない。
集団客じゃなく、一人のお客さんも居るから孤独感とかは感じないんだけど。
……とにかく、地図を見よう。
柱に記されたそれを眺める。
今居る1階が『総合フロア』。
2階がキャラクターグッズ(一般)。
3階がキャラクターグッズ(男性向け)。
4階がキャラクターグッズ(女性向け)。
5階……キャラクターグッズ(その他)……。
お、多すぎる。
このビルの中に日本中のグッズがかき集められてるんじゃないか?。
もはやマップの意味があんまりない気がする。
一応女性向けとか男性向けとかはあるんだけど――
「ん?」
各階層の表示、俺の視線はその下へ。
ちょっと行ってみようかな。
☆
エスカレーターにて1階の下へ。
要するに地下である。
『B1階 オーディオ・ビデオフロア』。
さっきの表示にはそう記してあった。
「……凄いな」
その中のオーディオエリア。
ずらっと並ぶそれに、思わず呟く。
翔馬達と適当にぶらついていた時は、音楽ショップとかたまに行っていたけど。
そこでは見た事のないモノばっかりだ。
ほぼ全部アニメキャラが写ってる。
たまに実写のものもあるけど。
「うわぁーやっぱ限定版売り切れかぁ」
「やっぱり朝から並ばないと無理だよね~」
聞こえてくる物騒(?)な声を聞き流しながら、広い店内を歩いて行く。
もともと『大マジ』しか知らない上に、特に目的もなく入ってしまった。
適当に見て回ったら帰ろうと思ったけど、軽く見れる品揃えの量じゃない。
傍から見たら、きっと俺は浮いてる。
「!」
探索を続ける事数分、またそれが目に映った。
CD。ジャケット写真に映ったツヴァイが。
……もはや安心感すら感じるぞ。
☆
木原視点
☆
「~♪」
土曜日。
漫研部に休日出勤なんてない。
昨日は学校終わりやったけど……バッチリ朝3時までゲームしてもうた。
中々デレんかったからな、あのツンツン君。
でもその分、デレてくれた時は感動した。
昨今じゃ最初っからデレデレしてる輩しかおらんし、うちも大満足。
まっツヴァイ様には到底及ばんけど(笑)。
「すぅ~」
そっからは朝13時(爆笑)に起きて、駅から走ってアニメートまで。
もちろん、推しと漫画の為。
先週も先々週も来たけど、あくまで寄っただけや。
本番は今日。
あぁこの大量のオタクとグッズの香り。
家よりも落ち着くで。
というか、ココがうちの第二の家や!
☆
「……あ、あざます」
「ありがとうございました~!」
イラスト用の色鉛筆に、漫画用の原稿シートと切れてたインク。あとペンも。
新作のノートも気になったから買った。
財布の残りHPは大体68%。
ここからは、グッズ漁りの時間や……!
推しは推せる時に推せ。
グッズ購入は次作品への投資。
あとは自己満足。
《――「……愛花ちゃん、昼食代貰ってるんだよね?」――》
《――「だ、ダイエットやで」――》
お小遣いに加えて、昼ご飯代500円。あとバイト。
うちはそのほとんどをオタ活に費やしている。
ぶっちゃけ死にそうや。
でも、今日のためを思えば苦しくないで。
あっ鼻血出そう。
「……あ、あった……」
好きなアニメキャラ達の、アクリルスタンドを10個ほどつまんでから。
今日一番の目的やった、その大きな袋を見つけてすぐカゴに入れる。
そして、それを隠す様に予め取っていたクリアファイルを被せる。
「……ぐふ」
マスクの下で、誰にも聞こえない様に笑う。
今まではどこか自分の中で理性という名の枷があった。
しかしながら、それは壊れた。
何時からかなんて分からん。
……あえて言うなら、あのバーベキューの時からやろか。
この人混みが、うちのそれを隠してくれる。
別に誰も気にしてないやろうけど。
誰よりもうちが緊張してるんや。
「……お、お願いします。支払いはメートペイで……」
「! はい、少々お待ちください~。足りませんね、チャージなさいますか?」
「お、お願いします」
鼓動の音がうるさい。
店員様のご配慮によって、中身が全く見えない大きめの袋にそれを入れてくれる。
金額にして20000円とちょい。
想定内。
財布の残りHPはマイナス10%。
来月の昼ご飯も、一日食パン一枚づつや。
「あっ、あざす……」
「ありがとうございました~」
挙動不審なのは、うちが一番分かってるんや。それでもこのドキドキは止められん。
「……ほんまに買ってもうた……」
値段にして13000円。
広げれば掛け布団の半分ぐらいのサイズ。
ただのデッカい布やない。
正真正銘公式絵師(神)直筆。
『大マジ』、うちの最推しが描かれたそれ。
ツヴァイ様の――“抱き枕カバー”が!
この! うちの鞄に入っとる!
うおおおおおおおおおおお!!! (感動)。
興奮し過ぎて死にそう。
あっまた鼻血出そう。
「……あとは、“ボイス”だけやな」
いざ逝かん、地下一階まで。
オーディオフロアや!
待っててな――ツヴァイさまー!
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