種明かし
「……ど、どうも」
「ひ、ヒメがすまんな……」
結局、柳さんの圧に押されて部屋へと戻った。心配そうにドアから見ていた二人の視線もある。
……駄目だな。やっぱりこの場所は居心地が良い。
「大丈夫だよ」
まあ確かにこのまま行ったらホントに96点取ったみたいになるし。
もう少し居るぐらい許されるだろう。
「」トントン
「え、ああ。そうだった。ごめんごめん」
操作タブレットを受け取って、ここに来た理由を思い出す。
早く教えてあげないとな。
「け、結局イカサマやったんか……?」
「どっどうなんでしょう」
「イカサマだよ。100%」
「「えっ」」
操作タブレット、曲を選択。
流れるのは――
《♪》
「な、何ですかこの曲。『サーファー』?」
「歌手名ダイナマイトて……」
《採点中》
「ってはや! 終わったで!?」
「歌詞一瞬過ぎて見えませんでした……」
「これ2秒しかないからね」
この裏技を見つけた時、まるでセットかの様にこれも見つかった。
確かめるには最適な曲? だからだそうだ。
歌詞も三文字しかないから採点のしようがないはずなんだけど――
《採点終了》
《98点! GREAT!!》
《素晴らしい歌唱です、プロ顔負け!》
「えぇ……」
「んなわけないやろ! 一言も歌ってないで!」
なんか、100点の反応するから面白いな皆。
「で……」
《精密採点 スタート》
《♪》
《採点中》
「ほ、ほんと早いですね」
「曲なんかほんまにこれ……」
《採点終了》
《69点 練習しましょう》
「練習しようがないやろ……って戻っとるやん!」
「ほんとだ、急に冷めちゃったね」
「なにしたの」
「!? えっと――」
気付けば隣に居た柳さんに焦る。
不思議な子だ、いつの間に。
「カラオケって色んな裏技があるんだけど、今回は選曲の所に特別な番号を打ち込むんだ」
「」コク
「『接待用コマンド』って言って、絶対95点以上になる採点に入れるようになるよ。こんな風に――」
タブレットを操作。
十秒程色々操作して――
《遊ぶゲームを選択して下さい》
《かんたん採点 スタート》
《♪》
「……別になんもおかしなところないな」
「そ、そうですね」
「『接待モード』だからね。バレないように上手く出来てるよ」
《採点終了》
《99点! GREAT!!》
《プロになりませんか?》
「なんか煽られてる様に聞こえてきたで」
「う、裏を知っちゃうと、ね……」
「ははっまあそういうことだよ。手品と一緒」
知ってしまえば、酷く
逆に知らなければ、歌ってる本人は気持ちよくなれる。
“接待モード”。まさしくその通り。
あの時翔馬に美咲達を連れてくるよう誘ったのも、彼が居ない内にこのモードに入る為だ。
後ついでに、彼女が居る事でゴネられない状況を作る為でもある。
選曲を急かしたのも、変に精密採点とかに行かれない様にする為。
「……でもこんなん、あの時“交渉”とかせんでよかったような」
「確かにどんな曲でもこんな点数が出るのなら……あ、でも流石にあのハゲでもそれは」
「ハ……うん、そうそう。もし、俺が全く歌えずに98点が出たら流石に怪しまれるからね」
今日歌った曲限定と提案したのも彼女の言った通り。
最初から勝ちは決まっていたけど、流石にイカサマだと一瞬でバレるから演技した。
《精密採点 スタート》
「……で、あとは適当な採点モードを起動したらリセットされるから。これで大丈夫」
「はぇ……」
「こんなんあるんやなぁ……」
「――なんで、こんなの、知ってる?」
隣、柳さんの純粋な目。
凄く輝いてる。
思わず背けて、操作タブレットに目を戻した。
「あー、調べたらたまたま出てきたんだ」
「……なんで、調べた?」
「それは――」
カラオケ、それは翔馬達とは良く行く場所。
そして翔馬はいつも、“トリ”を歌いたがる。
一番最後というのは一番盛り上がるから。
そして――それが“高得点”であれば尚更。
正直言うと彼は歌が下手だ。
声が大きいだけで、音程も外すしリズム感もない。
だから、最初にそれを歌った時は74点……当然彼は不機嫌になった。
もちろん、採点が歌の全てじゃないんだけどね。
「……?」
「ごめん。本当に、たまたまだよ」
「……そ」
「うん」
それでも、目立ちたいのか度々トリを歌う。
採点なんて止めれば良いのに、他二人がまあまあ上手いのもあって彼は譲らなかった。
そしてその度に空気が悪くなる。
だから俺はネットで調べた。そして、見つけた。
“接待コマンド”。
会社の上司や、部活の先輩を持つ人々。
SNSを覗けば……世の中には同じような考えの人がたくさん居て、俺はそのコマンドの存在を知った。
しかし結局使うことは無かった。
翔馬の番になる度に、この操作をする必要があるってのも理由の一つだ。
でも一番は、70点代がいきなり98点とかになっては流石にバレるリスクが高いから。
彼がもう少し歌が上手ければ。
上手くなっていれば、使うことも出来たんだけど――
「まさかコレが役立つと思わなかったよ」
結局の所、翔馬を喜ばせる為に覚えたソレは。
最後には、彼を
皮肉って――こういう事を言うんだろうか。
なんて。
もう、行かなきゃいけないな。
「それじゃ。騒がしくしちゃってごめんね」
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