“オタクに優しいギャルはいない”



鈴宮視点




《――「よく言うやろ、“オタクに優しいギャルはいない”って」――》



愛花ちゃんがこの前言っていた言葉。



《――「このXとYを入れ替えてな、んで更に言葉を変換すると――“陰キャ女に優しい陽キャ男はいない”でもある。完璧な方程式! 語呂がちょい悪いけどな!」――》



まるでの歴史上の人物の至言を語る様に。



《――「ほんま名言やね。やっぱ二次元最高や! “オタクに優しいギャルはいない”、“オタクに優しいギ」――》



あまりにも自信有りげに言ってたから、凄く印象に残っている。

連呼してたから流石にうるさかったですけど。


そして今――愛花ちゃんが言っていた至言? は私の中で覆り掛けていた。



「うん、その蓋してしばらくしたら火は消えるよ。危ないから触らないでね」


「あぁ洗い物は俺やるよ、手汚れるし」


「? ……あー、じゃあゴミ捨てやってくれる?」



優しい、なんてものじゃない。

何から何まで朝日君はやろうとしている。


……それが、まるで当然であるかのように。



「大丈夫?」

「わ!? だ、大丈夫です」


「そう? しんどかったら休んでてね」


「」スヤァ

「ヒメは休み過ぎや!」

「ははっ別に良いよ。疲れてるなら仕方ないし――あんな事もあったからね」



ボーっとしていたら、声が掛かる。

そしてそのまま片付けに向かってしまった。


ほぼ初対面なのに、どうしてそんな何でもなく話せるのか不思議です。


バーベキューも凄く手慣れていましたし、同じ人間なのか……。

これが本当に、愛花ちゃんが言う“陽キャ”ってやつなのかな。



「……」

「? 俺、なんかついてる?」


「あっ、その、何でもないです……」



なんだか、彼からは柑橘みたいな良い匂いもしますし。

茶色の髪の毛も輝いてますし。

一緒に居るだけで、どんどん空気が綺麗になっていく気がします。


……これがよく言う清潔感がある、って事なんでしょうか。人間でも空気清浄機ってなれるんですね。


ボサボサの髪の自分が恥ずかしい……。

私は空気を汚しています。歩く環境汚染装置ですね(失笑)。



「み、みずき。お手洗い行くで」

「え? うん」



ある程度ゴミ集めも終えて、愛花ちゃんから声が掛かる。

……彼女がこうする時は大体何か話したい事があるんだよね。


トイレの方向へ歩きながら、やはり愛花ちゃんは口を開けた。



「……ウチら、後で金取られたりするんちゃうか?」

「えっ」

「よく考えてみぃや。絶対おかしいで」

「な、なにが?」

「このバーベキューや!」



ビシっと指を私に刺す彼女。

いつも、私やヒメちゃんだけと居る時はこんな感じで元気なんだけど。元気過ぎるぐらい(笑)。



「……みずき、なんか言いたげやな」

「いっいやいやいや何でもないです!」

「まあええわ話戻すで? いっつもカーストトップのメンバー様がいきなりうちらのとこに来た。おかしいやろ?」

「……先生が言ったからじゃ?」

「いや絶対仕組まれとる!」

「えー……」

「陰謀や!」

「それ言いたいだけだよね」



自信満々に言う愛花ちゃん。

コレは中々気合入ってるなぁ……。



「ええか! 途中に冷かしでお仲間様のマシュマロ強奪失敗涙目敗走イキリハゲ(爆笑)……が来たやろ? アレも裏で繋がっとるんや。ヒメが撃退した時はスーッとしたけどな!」

「もうその名前、絶対元より長いよ……」

「つー訳やから、戻っても気緩めたらアカンで」

「えぇ」

「隙見せたら豹変するんや」

「そうかなぁ……」

「ガオー!! ってな!」

「……うーん」

「ちょっとは驚けや」

「うーん」

「……」



彼女の言葉で考える。

でも本当にそうだったら。



《――「こんなって、なんだよ」――》



私達を馬鹿にした……涙目敗走イキリハゲの人(ちょっと省略)に、あんな苦虫を噛み潰したような表情をするんだろうか。



「まぁ正味しょうみ、朝日さんには千円ぐらいなら渡してもええけど……」

「は?」

「じょ、冗談や。じゃあ行くで」

「うん……」

「(みずきってたまに怖いよな)」

「ん、愛花ちゃん?」

「いやいや何もいってへん! 戻るで戻るで!」

「心の声――聞こえてますよ(笑)」

「ヒエッ」



結局お手洗いに行くことなく、ぐるっと回って帰って来た。本当に愛花ちゃん、話したいだけだったんですね。


そして流石愛花ちゃん、あのイキリハゲさん(省略)を警戒しながら帰ってます。抜け目がない。


ってそういえば、片付けの途中でした。早くゴミ集めしないと――



「――あ、おかえり。一応ほぼ終わったからゆっくりしてよ」

「えっ。あ……お、終わったんですか?」


「? うん、ある程度やってくれてたから。あっまだお茶あるけど飲む?」


「は、はい……」

「……」


「(きっと裏の無い笑顔)」


「……うっ」

「……も、もらうわ」



さっきまでの会話、していた自分が恥ずかしくなる。

朝日君は心配になるぐらいにいい人だ。


……でも、確かにどうして?



「……」グー

「ははっガチ寝しちゃってる……まぁまだ5分ぐらい時間あるし良いか」



机に突っ伏して寝息を立てる姫ちゃん。


「」グゴ

「おっと……」


座っているのに暴れる寝相。

彼はすぐ横にある飲みかけのコップを回収して、触れて落ちない様に離れた所に置いた。


……さらっと、こういう事もしてる。

観察すればするほど優しい。


あのハゲさん(更に省略)とは大違いで、やっぱりハゲ(ハゲ)と同じグループの方とは思えないです。



「皆も疲れた?」


「は、はい」

「……おん」


「あんまり野外で食べる事とかないもんね、当たり前だけどさ」


「そ、そうなんです! 落ち着きません」

「……せ、せやな」


「うんわかるわかる。楽しいんだけど、毎日は良いかな」

「あ、朝日君もですか?」


「もちろん。味噌汁とご飯が一番だよ」


「えぇ!?」

「ははっ驚きすぎだよ。鈴宮さんはどんなのが好き?」

「わ、わたしは家で飲むほうじ茶が一番です……」


「あぁ良いね。甘いの食べた後だから、余計に飲みたくなってきた」

「は、はい」



どうしてこんなに臆さず話せるんでしょうか。

今日、ほぼ会ったばっかりなのに。



「でもほうじ茶か……」

「?」

「それが頭良い秘密かな」

「へっ」

「いつもテストの上位に居るでしょ、鈴宮さん。毎回凄いなって思ってたんだ」

「え、あ、ありがとうございますぅ……」



まさか、私なんかが彼みたいな方に認知されているなんて思いませんでした。

頑張っている勉強で、そんな風に思われていると知って嬉しいです。


炭はもう仕舞ったはずのに、どことなく頬が熱くて。



「じゃあ次は一位狙ってるの?」

「わ、私なんて到底……」

「楽しみにしてるね」

「えぇ!? ぷ、プレッシャーです」


「ははは。冗談だって」



笑う彼がまた眩しい。



「ふふっ、でも頑張ります!」



そんな彼と居ると、自然と笑みが溢れる。


もっと話していたいです。

きっと朝日君とは、これっきりですから――



「――お前ら片付け終わったかー!? 終わり次第こっちに集まれよ、写真撮るぞ!」



なんて、談笑(ほぼ一方的)をしていたら声が掛かる。

もう五分ぐらい経ってたんですね……。



「あぁ時間か。柳さん起こしてくれる?」


「は、はい」

「おん……起きろヒメ――」

「!」ガバッ

「うわっ起きてたんかい!」


「最後にそのコップ捨てたら終わりだから、それ入れたら持って行っとくよ」


「」プハー

「はやっ、んじゃコレもらうね。二人も良い?」


「は、はひ」

「た、頼むわ」



鮮やかに回収されていくコップ。思わず噛んでしまいました……。

テーブルには、もう何も残っていません。


あっという間のバーベキューは、もう——



「――もう終わりか」


「!」



今日一番、寂しそうな顔で彼は言う。

名残惜しそうに。

最後のゴミ袋を縛りながら。



「よいしょっ――と、じゃあこれ持って行っとくから」



終わってしまう。

朝日君との、きっと最初で最後のこの時間は。



「それじゃ」


「は、はい」

「……おん」

「」ペコッ



その背中。私はそれしか言えず。



「ありがとう、楽しかったよ」



日が差し掛かる。

それが相まったのか――あまりにも眩しい彼に。


ただただ皆、静かなままに終わってしまって。



「私も、です……」



遅れて出た声が、届くことはないけれど。


彼がくれたマシュマロの甘さは――ずっと、この舌に残っている。

















▲作者あとがき


一章終わり! お付き合い頂きありがとうございました。まだまだ更新は続くので良ければ明日も読んでいただければ幸いです。

タイトルも回収出来てませんからね。


あと応援頂いて本当にありがとうございますorz

執筆の原動力でございます。

ハートブクマにホシレビュー、何でも嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る