始まりのマシュマロ





「へ?」

「あ、あとカスみたいな野菜のヘタしかないで……?」

「」キョトン



不思議そうな顔でこちらを見る三人。ちょっと緊張する。

こうして眺めると前髪長いな……鈴宮さんと木原さんは。


いやまぁそれは置いといて。



「バーベキューと言えばこれだよね」



鞄から、それを取り出した。

ピンポン玉サイズの白いフワフワが、袋の中に詰まっている。


このバーベキューには好きなのを持ってきて良い。

生モノとかは駄目だけど。


それで俺が持ってきたのは、定番中の定番だ。

学校に行く途中に、コンビニで買ってきたそれを彼女達に見せる。



「ま、マシュマロ? ですか?」

「今それ食うんか? というかデカない……?」

「」ゴクリ



……って思ってたんだけど、初見なのか?

なんならバーベキューイコールこれだと思ってた。


ちょっと大きめのマシュマロを眺めて固まる三人。

それを見て不安になる俺。



「うん。これ焼いて食べるんだけど…」


「「……?」」

「」ゴク



マジか。

でもそれなら逆にアリか。

柳さんはもうちょっと待って!



「とりあえずやってみるね?」



新しい割り箸を出して、その先にマシュマロをブスっと刺す。

落ちないようにちょっと深めに。


そのまま、火に当ててクルクル回す。

離れて弱火でじっくり当ててやると上手くいくんだよな。

バーベキューも何事も、焦らずに、だ。



「できた」



火から離したマシュマロは、まんべんなくきつね色に輝いている。


我ながら結構綺麗だ。

ただ……どうしようコレ。俺が食うわけには――



「」キラキラ

「あ、食べる?」

「」コクコク

「そっか。じゃ……中は熱いから気を付けてね」

「」コクコクコク



何を考えているのかわからない無表情――柳さんがズイっと近付いてきたので、それを渡す。


興味深く観察する彼女。

目が凄く輝いている。


だいぶん彼女と意思疎通ができた事に、少し嬉しくなった。

頷くスピードが早すぎて首が心配だけど。



「!!」

「うわっ熱かった? 大丈夫――」


「おいしい」

「えっ」



今確実に声出てたよな?

ハスキーボイスっぽい印象に残る声だ。

嬉しいんだけどびっくりした。



「ヒメがそこまで……そ、そんなにか?」

「や、やってみようかな……」



どうやら良かったみたいで、それを見た二人も釘付けになっている。


……うん。

どうせ今日は、翔馬のグループには戻らない。



「二人もやるなら使ってよ」


「! ぁっありがとうございます」

「ど、どーも……」



コンビニでマシュマロを買ったのと合わせて割り箸も貰っておいたんだ。

ちょっとだけ、変な目で見られたけれど。


本当は翔馬達のだったけど……今はもう彼女達の為のモノ。



「こ、こうか……あ!?」

「おっ落ちそうだよ愛花ちゃん!」

「(合掌)」パァン

「炭に落ちたよヒメちゃん!」



火の前でわちゃわちゃする三人。

慣れない動きだけれど、楽しそうで。


身体が動いていた。

その中に、混ざりたくて。

暖かいその彼女達に。



「あー、ちょっとごめんね木原さん」

「ひゃっ!?」


「こうやってゆっくりゆっくり……ほんのり焼色が付くように……」

「……おっ、ぉ……おぉ……」



木原さんの横に付いて。

彼女が握る割り箸を、俺も握って一緒に回す。


手の震えを抑える様に、優しく包み込むように。



「ほら、できたよ」

「…………」



黙ったままマシュマロを見つめる彼女。

顔真っ赤だけど……大丈夫か?



「木原さん?」

「…………っ! す、すまんすまん美味いなコレ!」


「ま、まだ食べてないよ愛花ちゃん」

「…………」ゴクリンコ

「あかんで! 絶対やらんでヒメ!」



そのままテーブルの方に小走りで行った木原さん。

……ま、まあ良いか。



「やってほしい」グイ

「!? あ、ああやろうか。良いよ」


「わ、わたしも……お願いしても良いでしょうか……?」

「任せてよ。二本同時にやっちゃおう」



マシュマロが刺さったそれを受け取って、火の前に両手でかざす。


回して回して……慎重に焼き目を付けていく。


夏休みでも、このマシュマロは大人気だった。女子……美咲さんと真由にずっと焼いてたっけな。俺はあんまり思わないが、コレ意外と難しいらしい。



《――「陽うまーい! 意外とやるじゃん!」――》



喜ぶ彼女達を見て、嬉しくなったのは良い思い出だった。


でも――思えば、あの夏休みからなんだ。

翔馬と泰斗が、俺に一層強く当たるようになったのは。


彼らと居るのが、辛くなっていったのは――



「――じょっ、上手です……!」

「ありがとう。週三でやってるからね」

「 え゛ っ ! ? 」

「 」


「はい、出来たよ」



冗談を挟みながら、焼けたそれを彼女達に渡す。

固まってるその表情は癖になる。


マシュマロを目の間に持っていくと、解ける様に笑顔になるのも。


……そんな喜んでくれるなら、いくらでも焼いてあげるのに。



「」パクパク

「……! す、凄いでふ、これっ……」


「はは。自分で出来たらもっと美味しく感じるよ」


「が、頑張ります!」

「」コク


「うん、まだまだあるから――」



そう言って、テーブルの方に振り返る。

楽しくて、すっかり気が緩んだまま。




「――なあ陽、ずいぶん楽しそうじゃねーの」




だからだろう。

後ろに居る彼に。

わらう翔馬に、俺は気付けなかった。

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