第3話 攻城計画と第三の存在
5月4日、アネットを出発したルーリー・ベルフェイル率いる軍はステル・セルアの北15キロの地点に待機していた。
ツィア・フェレナーデはアルフィムとファーミルとともに、最前列のすぐ後ろ、第二部隊の中で移動している。その後ろ、第三部隊にルーリーとメミルスがいる。
目標地点に到達したところで、ツィアは隊列を離れて、ステル・セルアの街の方を見た。
「軍は出て来ていないのか……」
ステル・セルア城内では10万ほどの軍が編成できるはずであるから、普通に考えれば籠城するという選択肢は考えづらいはずだ。
ただ、城外には出て来ていない。
ということは、事前にルーリーとメミルスが予想していた通り、アネットの軍がステル・セルアまで移動してくる8日の間に編成が間に合わなかったということだろう。
「私は軍事のことには詳しくありませんが……」
ファーミルが呆れたような表情で言う。
「8日間の間に、防衛軍も編成できないというのはにわかには考えづらいことですね」
「全くだ」
このまま、何もせずにステル・セルアから撤退したとしても、第六王子サイファと宰相ブルフィンのダメージはとてつもないものだろう。相手に圧倒する兵力を持ちながら、自分達の根拠地までやすやすと進軍を許してしまったのであるから。
もちろん、ルーリーは何もせずに帰るつもりはない。
相手が準備不足であるうちにステル・セルアをいただいてしまおうと考えている。
当初は「そんなことが起こりうるのか」と考えていたが、今となっては実現可能と思う方が理にかなっている。
第六王子と宰相は、ステル・セルアの城を固めて待ち受けるつもりであろう。
編成では大きなミスをしたが、相手より圧倒的に多い軍勢が籠城すれば、攻めるのは難しい。
とはいえ、それは普通に攻城戦をすれば、の話である。
この軍にはアルフィム・ステアリートが帯同している。
その気になれば、城門や城壁を一撃で飛ばせるだけの魔道士だ。
侵入路を作られて一気に城内に侵入されれば、城内にいる大軍はかえって運用しづらいし、同士討ちの可能性を起こすことにもなりかねない。
そこから先の計画もルーリーは持っているだろう。となれば、相手が立ち直る間もなく、ステル・セルアの主要箇所を占領して勝利へと持っていくことは充分に可能だろう。
その夕方、テントを作った中にアルフィム、ファーミルとともに呼ばれた。
ルーリーがアルフィムを見上げる。
「姫、先ほど、城門を確認されましたか?」
「はい。確認しました」
「人が通れるくらいの穴を開けることは可能でしょうか?」
アルフィムは少し考えて、頷いた。
「……できると思います」
「それでは」
ルーリーは机の上に地図を置いた。
「我々は北門を攻撃する。その間に、姫はツィアと、第一軍とともに東門に移動し、東門の城壁を破壊してほしい。破壊した後は無理に動かなくて構いません。余裕があるなら、周辺の城壁も破壊してもらえると助かります」
「破壊するだけで良いのですか?」
アルフィムが確認する。ツィアもそこは気になっていたところだ。
「それだけで大丈夫です。あとは第一軍が動いてくれますので」
「……」
たいした自信だ、とツィアは思った。
つまり、プラスアルファの一撃があれば1万でステル・セルアを陥落させることができると考えているわけだ。
通常、攻城は難しい。防御側の三倍の兵力を用意しなければならないという理論もある。
しかし、相手の出足の遅さなどは全てルーリーの読み通りである。
となれば、ここから先の展開も読めているのだろう。
この戦いも簡単に終わるかもしれない、と考えたところでふと嫌な予感を覚えた。
このまま簡単に行くわけがない、という思いが頭の中に広がる。
(ひょっとしたら何か見落としていないか……?)
考えるツィアの脳裏に、ハッと閃くものがあった。
(あいつだ! ベルティに入ってから、全く姿を現していない)
ジオリスに頼まれて、オルセナ王女を暗殺すると公言していたにも関わらず、ティレー・ヴランフェールは依然として出て来ていない。
あるいは諦めたのか、自分達の行動を見落としてしまったのか、という楽観的な予想もできなくはないが、そこまで甘くはないだろう。
(あいつ、俺達が別の相手と戦闘になる時を待っているのではないだろうか?)
ノコノコ出て来て、「狙っている」と言ったのだから、当然、ツィアもアルフィムも警戒すると想定するのが自然だ。こっそりつけ狙うと言っても、徹底的に警戒していれば突き止めることはできるはずだ。
しかし、自分達が別の相手と戦闘状態に入っているならばどうか?
集中力は当然、相手の方に向かう。今であれば、ステル・セルアにいる第六王子サイファの軍である。
その分、ティレーに対する警戒心は緩むことになる。
ツィアは確信した。
(間違いない。あいつは、俺達がここで戦闘に入るタイミングで、暗殺を狙ってくる……)
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