第10話 ルーリーの目算
翌朝、目覚めたアルフィムが朝食の場に行くと既にメミルスが待機していた。
昨晩、少なくとも自分が寝るまでは見張りのようなことをしていたはずである。
真面目な人物だと感心しつつ、食事をとる。
「朝食が終わりましたら、政庁に参りたいと思います」
極めて事務的な連絡をすると、食堂から出て行った。
30分後、食事を終えて宿の外に出ると、残りの4人は既にそこにいたし、馬車も待機していた。
「あれ、私が最後だったの?」
まだ8時過ぎで大分早い。
エルリザのギムナジウムに通っていた頃、この時間に通う準備が終わったことは一度もないはずだ。
それなのに最後ということは、残りは7時前には起きていたことになる。
シルフィが呆れたような顔をする。
「あたし達は暇だけど、相手は領主様なんだよ? 色々な仕事があるはずだし、朝早くか、逆に夜遅くにするのが自然でしょ?」
「おぉ、なるほど……そうなのね」
「なるほど、そうなのね。じゃないよぉ」
シルフィが頭をガックリと落とし、既に御者席についているメミルスが笑う。
「大丈夫ですよ。早く行きましょう」
その言葉に促され、全員が前後二台の馬車に乗り、街の中央へと向かう。
アネットは人口にすると15万人ほど。
少ないわけではないが、王都ステル・セルアの人口は100万を超えるらしいので、それと比較するとかなり小さく感じる。
街自体もコンパクトな造りになっており、その中心地にある政庁は東西南北のどの門から向かっても30分ほどで到着する。
政庁の建物もとりたてて見栄えがするわけではない。
ハルメリカにあるルーティス家の政庁と比較すると半分くらいの大きさだ。
もっともそれについてはハルメリカの政庁が一際大きなこともある。あの政庁より大きな建物は宮殿くらいしかないだろうが、宮殿には庭園など別の機能もついている。
政庁機能としては、アネットもハルメリカの次くらいには大きいだろう。
まだ8時30分という時間もあり、政庁の中は閑散としている。
メミルスを先頭に廊下を歩き、執務室と札がかかった部屋の前まで来た。メミルスがノックをして「連れてまいりました」と言うと、と「入れ」と返事がある。
扉を引くと、執務室はかなり広い。机が三つ並んでおり、その中央にやや小柄な男が座っている。
年齢は20代半ばくらいに見える。ただ、うっすらと髭を伸ばしているからそう見えるだけで、もう少し若いのかもしれない。
「一部知っている人間もいるけれど、ほとんどは初めましてかな。このアネット領主にして、前王カルロアの四男であるルーリー・ベルフェイルです」
「あ、初めまして。アルフィム・ステアリートと申します」
「フリューリンクでのことは聞き及んでおります。残念ながら、ここベルティでは現在完全に膠着状態なので、どこも動くことができないという状況にありまして、リルシアがあなた方を送り込んで何か流れを変えようという意図は十分に理解できます」
アルフィムは「そうなんですね」と相槌を打とうとしたが、ツィアが先に口を開く。
「それでは、殿下には我々がつくことで流れを変えることができるのですか?」
アルフィムは目を見張った。
随分と挑戦的な物言いに聞こえたからだ。
確かにフリューリンクでビアニー軍を追い払ったとはいえ、落ち着いてみれば自分達は5人しかいない。それで流れを変えることなど不可能と思われてしかるべきなのに、ツィアの方が「俺達がつけば何かできるのか?」と上から問いかける聞き方をしている。
実際、ルーリーもこの質問を挑戦と捉えたようで、一瞬ムッとなったが、すぐに笑みを浮かべる。
「フリューリンクのビアニー軍を追い払ったのが事実という前提で、方法はある」
「と、言いますと?」
「俺の本拠地であるアネットは他の勢力に囲まれていて一見すると不利だ。しかし、他の勢力より機動的に部隊を動かせる自信がある」
ルーリーが「どうだ?」と傍らにいるメミルスに聞いた。「当然ですよ」と確信を持って答えている。
「俺達がどこかの勢力を狙って占領を目論んだとする。他の勢力は当然アネット攻撃を目論むだろうが、決めたらすぐに動けるというものでもない。軍を動かすまでにかなりの時間がかかるはずだ。その間に俺達の攻撃が成功して戻ることができれば、相手は結局動けなくなる。これの繰り返しで勝つことができる」
「そんな短時間で相手を撃破できるのですか?」
「俺達だけでは無理だろうが、君達がついてくれれば可能だ」
ルーリーは「違うか?」とツィアに笑いながら問いかける。
メミルスもそうだが、ルーリーもかなりツィアのことを知っているようだ。
「それに、ただ漠然と待っているほど馬鹿ではない。もちろん、一番上のパルナス兄上あたりもやっているとは思うが、他勢力に対して細かい手は打ってある。それらを駆使して、フリューリンクのビアニー軍を追い払った魔法があれば、どうにかなるだろう?」
「そうでしょうね」
ツィアもルーリーの発言を認めた。
その様子を見て、ツィアの真意が読み取れた。
ここに来るまで、特別ルーリーを贔屓することを口にしていなかったが、結局、彼が一番本命と見ていたのはルーリーなのだろう。
そうであるならば、アルフィムとしても特に断る理由はない。
「では、具体的な方法を教えてもらえますか?」
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