第4話 フリューリンク解放戦・2

 三日後、アルフィムとジュニスは近くの集落に二つ立ち寄り、10頭あまりの馬を購入することに成功した。


 お世辞にも立派な馬とは言えない。


 ビアニー軍が引き連れる馬とは馬体が全く違うし、速力も違う。


 それは百も承知のうえで贅沢は言っていられない。


「この馬だと、大きな丸太は引きずれないだろうし、攪乱の砂煙は魔道の力も必要だろうな」


 もちろん、ビアニー軍に攻撃するアルフィムとジュニスはそちらには参加できないから、必然的にイサリア魔術学院長の息子であるファーミルの出番となる。


「分かりました」


 ということで、後方で馬を走らせて砂煙をあげるのはシルフィとルビアに女性1人にファーミルともう1人という布陣になった。



「俺達もこの馬に乗るか」


 ジュニスも一頭の馬を選ぶ。


「俺はホヴァルト国王で、アルフィムも自由騎士だから馬に乗っていた方がいいだろう」


「……いの一番に突撃する国王も騎士もないと思うが」


 ツィアの突っ込みが聞こえたのか、聞こえていないのか、2人は馬を選んでそれにまたがる。


「……そういえば、陛下は馬にも乗れるのか?」


 さっと馬にまたがったジュニスにツィアが驚いた。


 ミアーノ侯爵家という貴族の家に生まれたアルフィムが馬に乗れるのは理解できるとしても、ホヴァルトという山上に暮らしているジュニスが乗れるのは意外らしい。


「あ~、そういえば乗ったとことなかったわ。でも、ま、逆らうならそれはそれで構わないし」


 あっけらかんというジュニスに対して、馬が本能的に恐怖を感じたのか嘶いた。


 魔力で無理矢理従えているのか、あるいは馬が強力な魔力を感じて従わなければいけないと感じているか、そのいずれかのようである。



 準備が整ったので、一行は崖を降りて大きく南に向かった。


 ビアニー軍から20キロほどの地点で、シルフィとルビア達が丸太をくくりつけて準備をする。


 それを確認して、ジュニスとアルフィムが先頭に出る。


 残りの48人、アルフィム側ではツィアとエマーレイ、ホヴァルト側ではミリムとディオワールらが集まった部隊が徒歩で走ることになる。


 これで、先頭切って進んでくる特攻隊の後ろに、具体的に見える中規模の部隊がついてくる形になる。その後ろには砂塵があがっており、更なる援軍が来ているように見えるはずだ。


「これでうまくいくのかなぁ?」


「いくのかなぁ? ではないのよ。うまくいく。うまくいくと思うの。必ずうまくいくのだから」


 自分に言い聞かせるように繰り返しているルビアの言葉に、シルフィもまた「うまくいく、うまくいく」と呪文のように繰り返す。



 ツィアが空を見上げた。


「もう夕方に近い。ゆっくりと近づいて、明日の夕暮れ時に攻撃をしかけよう」


 夕暮れ時であれば、攻撃を受けたことは分かるし、砂煙も見える。


 ただし、程なく暗くなってきてビアニー軍からは相手の数が見えなくなる。それだけ反撃に慎重になるだろう。


「しかし、夕方に攻撃したらフリューリンクからも見えなくならないか?」


 ジュニスが疑問を呈した。アルフィムも続く。


「そうよ。暗い時間帯だと、ステレア軍がますます城の外に出てこなくなるんじゃない? 攻撃するのは朝にするべきよ」


「朝だとこちらの人数が少ないのが丸見えなんだが」


 ツィアがげんなりとした顔で答え、シルフィが支援に入る。


「昼間なら太陽を背に受ける分、こちらが有利だから昼にしようよ」


 シルフィの提案に、ルビアもツィアも賛成した。この2人が賛成した以上、残る全軍も従うしかない。反対するということはジュニスとアルフィムの玉砕作戦に従うことを意味している。


「そうか。仕方ないな」


「2人が言うならねぇ」


 ジュニスとアルフィムも従うことにして、その晩は一回戻ることにした。


「ビアニー軍の攻囲は半年以上続いているし、毎日こまめに巡回しているとは思わないが……」


 近くで休息していた場合、ビアニー軍が巡回していた場合に怪しい連中が停泊していることに気付くはずだ。相手から先に攻撃された場合、ジュニスとアルフィムは別として残りの53人が全滅しても不思議ではない。



 翌3月7日、早朝。


 一行は改めて準備をすると、そのままフリューリンクへの街道を北上する。


 街道をそのまま通行しているので人目にはつきやすいが、半年以上攻囲されているフリューリンクと内戦中のベルティとの街道を行き来する者は全くいない。


 誰からも気づかれることなく、城の南側にいるビアニー軍から20キロほどの地点まで迫った。遠く目をこらすと、相手の陣地らしいものが見え、北からの物資を搬入している様子も見えてくる。


「よし、行こう」


 ジュニスの合図に一同が頷いた。


 敵が近くにいるため、大声ではないが、作戦は既に理解している。


 ホヴァルト王ジュニスと自称自由騎士アルフィムを乗せた二頭の馬が、街道をゆっくりと北上していき、徒歩の兵士達がそれに続いて北へと進みだした。



戦況図:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093088046172162

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