第5話 港での調査
セシエルはジュニスとお付の小太りの若者を近くの食堂に招いた。
「紹介するよ。この人はガフィン・クルティードレと言って、ビアニー軍の軍師を勤めている人だ」
まず、2人にガフィンを紹介して、続いてその逆を行う。
「ガフィンさん、彼はジュニス・エレンセシリアと言って、ホヴァルト出身の魔道にたけた人です。その隣にいるのが」
「ライナス・ニーネリンクです。ジュニス様とともにここガイツリーンを回っております」
「……ということです」
紹介が終わったので、今度はジュニスに近況を尋ねる。
「確か、以前、ホヴァルトに戻るというようなことを言っていなかった?」
「あぁ。言っていたけれど、さすがに2人ではどうにもならないようだったからな。俺は親父や姉貴の仇討ちをどうしてもしたいわけではないけど」
「そうだね……」
どうやら当たり前過ぎることを認識して戻ってきたらしい。
そのまま特攻せずに済んで良かったと他人事ながら思わざるを得ない。
ライナスがその後を受ける。
「せっかく下まで降りてきているのですから、ここで準備した方が良いとも思いまして」
「全くだよ。どうせなら、ビアニーと協力するつもりはないかな?」
渡りに船の話になってきた。
セシエルはここ一、二年の状況をかいつまんで説明し、更には現在バーリスの領主がウォリスに変わっていることも説明する。
ジュニスは「解せん」と言いながら腕を組む。
「……つまり、ウォリスというのは出来が悪いのに、王の弟というだけで街を支配しているというんだな? 正直訳が分からん。ビアニーというところは全くもってよく分からないことをするんだな。ホヴァルトだったら、そんなダメな奴や弱い奴はすぐに誰かに殺されて終わりなんだが」
「だ、ダメだったり弱いからといって、すぐ殺すのもやりすぎだと思うけどね……」
苦笑というより失笑を浮かべて答えて、ハッと気づく。
「……ちなみにホヴァルトって、奴隷のようなものは使うのかな?」
セシエルは「ジュニスが敵でないならば」と考えた。
それは、彼があまりにも常識を逸脱しているため、どういう考えをしていても不思議でないからだが、高地山岳に奴隷のような制度があるとは思いづらい。
となると、ジュニスがクビオルクやウォリスと協力するメリットは薄いのではないか。
「どれい? どれいって何だ?」
「人間を労働力としてのみ扱うことですよ。ジュニス様」
ライナスという男は山の下の事情についても大体分かっているようである。
というより、ライナスがいるおかげでセシエルは高地山岳部族に対し、偏見を抱かずに済んだところもある。もし、彼がいなければ、「ホヴァルトにはジュニスみたいなのしかいないかもしれない」と勘違いしたかもしれない。
と同時に、どうもライナスと自分に被るものも感じる。
(ジュニスをエディスと入れ替えたら、僕とほぼ同じ気がする……なんて言ったらエディスは怒るかな)
最初はライナスのことを知らないので、ジュニスを向いて話をしていたが、次第に体の向きがライナスの方に向いている自分に気づく。
この間、ガフィンはずっと無言である。何かまた考えをめぐらせているようだ。
ひとまず、セシエルはジュニスとライナスに協力を求めた。
「実はここバーリスから、奴隷を乗せて船が出るかもしれないと踏んでいるんだ。我々としては、それを止めたいと思うのだけど、協力してくれないだろうか?」
そう提案する。ライナスが「条件によりますね」と当然の回答を示すが、それを打ち消すかのようにジュニスが。
「別にいいぞ」
とあっさり承諾した。
ライナスが目を丸くした。
「あの、ジュニス様、せめて条件くらい話をした方が……」
「何の条件だ?」
「ですので、金とか、今後の協力などの話ですよ。エレンセシリア再興のためには多くの人や物が必要ですから」
「そうだね……」
セシエルも同意する。
ビアニー軍をホヴァルトに連れていって役に立つかは分からない。
正確な高さは知らないが、ホヴァルト山中は相当な高地であるという。高地に行くと人間は普段の能力を発揮できないというし、空気の薄さから体調も崩すという。
だから、兵士が役に立つかは分からないが、どれだけ高地にいても武器は武器だし、食糧も有用だろう。
「食糧については協力できると思うよ」
セシエルとしても、無償協力はどこか気持ち悪い。
何かしらの条件をつけて手伝ってもらう方が気楽である。
「分かった。それなら、ライナスに任せる」
こういうところもちょっと頭が必要なことについては「セシエルかネミリーに任せるわ」と言い出すエディスとそっくりである。
そこから15分ほど話をして、ライナスとの間で食糧や金銭の支払で妥結した。
「それじゃ、僕とガフィン司教とでバーリス港に停泊している船の状況を洗う。ジュニスは港を歩いて、直感で怪しそうな船があったら記憶しておいてもらえるかな」
「分かった」
「ライナスは連絡要員として残りつつ、気になる話や噂があったら書き留めておいて」
各々の役割を決めて、調査にかかることにした。
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