第56話 ユンの献身

《ユンside》

 



「アミ!気にするな!コイツの言う事は聞くな!俺は何とも思ってない!だから無視しろ!」


「うわぁ(笑)酷くね?(笑)俺はユンを思って言ってあげてんのにさぁ。」


「もう喋んな!」


「アミちゃんは知らない間に、男をその気にさせちゃうのかもなぁ(笑)」


「あぁ…。私の…私が、いけないんだ…。」


「違う!そうじゃない!アミは悪く無い!」


「じ、じぶんの…せい…なん…はぁ。」


「ジヌの事、ユンに言っとけは良かったのにぃ。黙ってるからこうなるんだよ(笑)秘密にしたってロクなこと無いんだからさぁ(笑)」


「スホ!やめろ!頼むから黙ってろ!」


「はっ。はっ。」


「アミ!俺を見ろ!」



顔を両手で掴んで上を向かせた。

目が合わない。

涙を流し、呼吸が荒い。

このままでは過呼吸になってしまう。

阻止すべくアミだけに集中した。



「アミ!俺の目を見ろ!アミ!頼むから!俺を見ろ!そう!目を離すな!ゆっくり息しろ!」


「はっ。はっ。」


「一緒にやるぞ!吸って!止めろ!違う!もい一回!軽く吸って!スゥ。」



アミは俺の目を見ながら、俺の言う事を聞こうと必死に食らいついた。



「長く吐け!ハァー。ダメだ!ゆっくり息しろ!短く吸う!スゥ。止める!長く吐く!ハァーー。もう一回!」




過呼吸を和らげる呼吸法をしばらくさせると、俺の目をまっすぐ見つめる様になった。

焦点が合い、眼差しに意思を感じる。

落ち着いた様だ。

危機的状況は脱したと言って良いだろう。

フラッシュバックについて、調べておいて良かった。


アミの危機を回避する事が出来てホッとした瞬間、アミを危険な状態に追い込んだスホにも怒りが湧いている。

何も知らないとはいえ、このままで済ませる訳にはイカねぇなぁ。




「アミ? 大丈夫か?」


「うん、ありがと(泣)怖かった…。」


「俺も怖かった…(苦笑)」



スホの前ではあるが、気にしてなんかいられない。

アミを強く抱きしめ、頭や背中を何度も撫でた。


「はぁ。良かった…。大丈夫。大丈夫…。もう大丈夫だよ…。」


アミが、俺の胸の中で小さく震えている。

でも、抱きつく力強さに安心した。




「だ、大丈夫?何があったの?」


スホは状況が読めず、心配そうにオドオドしていた。


「お前のせいでこうなったんだろ!」


「お、俺!?」


「次にまた、アミを責めるような真似したら絶対に許さないからな。覚えとけよ。」


「え、えぇ?」


アミを胸から離してスホと向き合った。

スホの顔が引き攣っている。


「秘密にしてるとロクな事ないんだよな?」


「まぁ、そうじゃないの?」


「誰にでも秘密くらいあるだろ。お前には秘密はねぇのか?」


「別に、悪いことしてるって事もねぇしな。」


「ふーん。じゃあ、あれは秘密じゃないのか?。そっか。スホ。お前、俺の隠れファンなんだってな!?」


「!!!な!なんで、そ、そ、そ。ア、アミちゃん!?言ったの!?」


「い、言ってない!」


アミがブンブンと首を横に振った。



「だからぁ!!アミは人の気持ちを笑う人間じゃねぇの!!」


「じゃ、じゃあ何で?」


「昔っから試合のたびに写真撮りに来てたな?毎回毎回スマホ向けられて、気付かないと思ってんのか?」


「うぇ…(恥)」


「俺、人気あるの知ってるか?」


「ぷっ(笑)それ久しぶりに聞いた(笑)」


「ふふん(笑)」


アミが笑ってくれた。

スホは笑えない様だ。



「俺の周りには男も女もいっぱい集まってくるわけ。聞きたい事も聞きたく無い事も耳に入ってくるし。ちょっと探りを入れるだけで何でも情報は集まるんだよ。」


「い、いつから、知ってた?」


「高1? かな。」


「そ、そんな、前から…くわぁ!!」


もう一押し、いじめてから許してやるとするか。



「ファンサービスしようか?(笑)一緒に写真でも撮ろうか?あ、サインしようか?それともハグでもするか?ほれ(笑)」


手を広げ歩み寄ると、スホはゆっくり後退りながら首を横に振った。


「や、やめろ!そんなの要らねぇ!」


スホはそう言うと、くるりと振り返り


「チキショー!!わーーん!!」


と、走って行ってしまった。




「あぁ!!ムカつくなぁ!」


「ユンくん大丈夫?」


「何で俺なんだよ?(苦笑)心配なのはアミ!大丈夫か?」


「うん。もう、大丈夫。」



小さい庭の中に、石で出来たベンチが置いてあるのが見えた。


「ちょっと座ろ。」




アミの腰に腕を回して座った。

もう震えは止まった様だ。



「ごめんなさい。」


「何が?」


「ユンくんに話しておけば良かった…。」


「う〜ん。まぁ、なぁ。でも、話せない気持ちも分かるよ。」


「皆んなに良い顔してるつもりも、無かったんだけどな(苦笑)」


「アミは、それで良いんだよ。人たらしのアミでさ。」


「また…(苦笑)」


「俺はそんなの出来ないもん。だから好きになったんだ。誰にでも優しくて、一生懸命になれるトコも好きだよ。」


「へへへっ(笑)」



反射的に抱きしめると、アミが強くしがみついて来た。

アミの想いが伝わって来る。

俺の胸の中に収まっているアミが、愛おしくてたまらなかった。

照れながら見上げる顔も、可愛くてたまらない。

我慢が出来ず、キスをした。

付き合う事になった日の、公園のベンチでのキスを思い出していた。

抱きしめたまま離せなかった。




「アミ。」


「ん?」


「やっぱりダメだ。」


「うん…?」


「俺たち、離れたらダメだよ。」


「…(泣)」


「俺たち、ずっと一緒に居よう。離れたらアミを守ってやれない。」


「ユンくん(泣)」


「俺が居ないと、アミが危険な目に合ってしまうんだ…いつも…いつも(泣)」


「…(泣)」


「だから、一緒に居よう。俺から離れるな(泣)」


「ユンくん(泣)私を…離さないで(泣)」


「絶対に離さない。ずっと側に居ろ(泣)」


「やっぱり、離れたく無いぃ。ずっと一緒が良いぃ。ううぇ〜(泣)」



抱きしめたまま2人で泣いた。

強くしがみつくアミを、離すなんて出来ない。

アミと俺は、いつも同じ方向を向いていた。

離れていてもそうだった。

これからも、絶対に変わらない。


なのに、わざわざ離れる必要なんてあるかよ。

アミの夢を優先してやるだけで良いのにさ。


俺の夢…


それは、


どこでだって叶えてみせるよ。





「アミ、愛してる。」


「私も、愛してる(泣)」



高校の時の俺は、アミの事になると自信がなかった。

でも、今は違う。

もう、愛と夢を天秤にかけたりしないよ。


両方…


絶対に諦めたりしない。



アミを強く抱きしめながら

いろんな事が吹っ切れた様な、清々しさを感じていた。

またキスをすると、アミが笑ってくれた。



この顔を見られない世界線になんて、


戻って…たまるか。

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