第468話 サイキッカーDFと異次元の魔術師
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
彼とフィールドで相対すると、視線がぶつかり合うだけで昂ってくる。
体中の血が湧き上がり、肉が躍るのが感じられた。
これ以上待てない、早く戦わせろと魂が叫ぶ。
目の前には弥一の姿。唯一自分に食らいつき止めた存在が自分を封じに来ていた。
「弥一、俺は今スクデットを獲得した時を上回る喜びを感じている。分かるか?」
「まだこの試合でゴールもイタリアの優勝も決まっていないのに?流石に分かんないよー」
若きトッププロとして、ミランを優勝に導いたのはあまりに有名な話。それを超える喜びを本当は分かるが、弥一はあえて惚けた。
「お前が日本に帰国し、俺はそれから様々な相手と戦い続けたが……弥一を超えるDFなどいなかった。お前程しつこく食い下がって来る相手と会っていない」
トッププロとなってイタリアの名DFと戦って来た。いずれも弥一より大きく体格あって、経験値を積み上げた選手ばかり。
その全てからディーンはゴールやアシストを決めて勝利。当たり前のように勝ち星を重ねる中、彼は物足りなさを感じてしまう。
弥一ならもっと素早く来ていた、もっと食い下がっていた。
物足りない。
どんなに活躍し、優勝して富や名声を手に入れてもディーンは満たされない。
彼には対等に渡り合える相手が、ライバルがいなかったのだ。
同年代は勿論、プロでもディーンと張り合える者はいない。
そんな彼と唯一対等に渡り合えたのが弥一だった。
ボールを奪われるかもしれない、負けるかもしれないと初めて思わせた存在。
同時に自分を昂らせてくれる存在でもある。
彼との1on1、ディーンにとって刺激的でありクラブでの楽しみがそれだった。
今回は負けが許されない。互いの国を背負った真剣勝負、かつて共に無敵のチームを作り上げた2人が時を経て、再びぶつかり合う。
『これは、ディーンに神明寺がマークに付くようです』
『普段DFラインに居る彼がゴール前を離れたのがどう出るのか、ですね。日本でも立見でもDFの要として無失点記録を築き上げて来ましたからね』
「DF出来んの?君FWやボランチとかだよな?」
ランドの側に光明が居て、駆け引きのつもりかランドは気軽に話し掛ける。
「キーパー以外は基本出来るから心配無用。昔から器用って言われてたんでね」
イタリア語は通じており、光明も彼の母国語で流暢に返していた。
「へえ、そいつは楽しみ」
言葉を聞いてランドがニヤッと笑い、チームの曲者同士が火花を散らす。
ボールを持つのはイタリア。ボルグがキープしていて、視線をディーンが居るであろう中央前方に向ける。
「っ!(流石にあっちにパスは無謀か……!)」
ディーンには弥一が付いている。日本の要注意人物を見て、パスを出すのはリスクが大き過ぎだとボルグは判断。
それよりも弥一のいないDFラインを狙い撃ちする方が確実だ。
「(来い)」
「!?」
ただ、ディーンは構わず来いと、右手を上げてボルグにパスを要求する。
これにボルグがショートパスでディーンに託し、ボールを持つと共に素早く振り向いて弥一と向き合う。
勝負は既に始まっていた。
巧みなステップを踏んでボールと共に踊るかのように、左右へ素早く動いたりと、ディーンが弥一に揺さぶりをかける。
それに弥一は抜かせず、ドリブルと見せかけてのパスも警戒して、感覚を研ぎ澄ませていく。
このデュエルにカンプノウの観客達も、思わず固唾を呑んで見守る。
「ディーン!ディーン!我らがディーン!!」
「ジャッポネーゼに負けるなー!」
「凄いバンビーノもディーンにかかれば一捻り〜♪」
イタリアサポーターの方はディーンがボールを持てば熱狂。歌を交えながら応援している。
『ディーン抜き去りにかかる!神明寺通さない!異次元の魔術師について行ってるぞ!』
少しでも気を抜けば抜かれる、やられる。
互いに僅かの隙も作らずデュエルを続け、共に汗が零れ落ちていく。
「すっげぇ攻防……!」
「「行け行け神明寺先輩ー!」」
「弥一!弥一!弥一!」
立見高校の体育館にて、弥一とディーンの戦いを食い入るように見る摩央の側で、詩音と玲音の2人が声を揃え、巨大スクリーンに映る弥一を応援。
後に体育館内で弥一コールが起こり、遠く離れた日本からエールが送られる。
「!」
弥一とディーンのデュエルの真っ只中で、弥一は驚くような顔を見せた。
強引に抜き去ろうとディーンが真っ直ぐ突っ込んだ時、芝生に足を取られたのか、前へ転倒しようとしている。それと同時にボールが僅かにディーンの背後で浮き上がっていた。
体が宙を舞って倒れようとしていたが、そうはならなかった。
左踵で背後の浮いたボールを蹴り上げれば、彼自身は地面に激突する前に両手をついて、そこからクルッと前宙で着地する。
ディーンのアクロバティックな姿に目が行きがちだが、ボールは蹴り上げられて、日本ゴール前に高く舞い上がり運ばれていた。
「やば!行ったよ佐助さーん!!」
結果としてパスを許してしまった弥一。佐助へと声をかければ彼の方はジージョと空中戦を迎える。
「くっ!?」
肩に乗られ、佐助が思うようにジャンプ出来ず、ジージョは頭でランドに落とす。
ゴール前、ランドが右足を捉えると同時に光明がクリアの為に右足で蹴って、2人の蹴り足がボール越しで激突。
真上にボールが上がった所に大門が飛び出して、両腕を伸ばしキャッチする。
『またも危なかった日本!ディーン、転びそうになりながらもきっちりゴール前にパスを出すとは恐るべし異次元の魔術師!』
『パスを出した後も凄かったですよ!アクロバティックなプレーも行けるんですね彼は』
「やられたぁ、今のビックリだよー。転びそうになりながらあんな事やっちゃうなんて」
弥一としては突破は勿論、パスも出させるつもりは無かったが、ディーンにパスを許してしまう。悔しさがありつつも弥一は何時ものマイペースな笑みを見せた。
「今のは俺も苦し紛れにやったものだ。あまり効率的じゃない」
「苦し紛れ……かぁ、あれが」
ディーンの方も弥一を突破したり、僅かな隙を突いてパスを出そうとしたが、隙を中々与えてもらえない。
なので咄嗟に思いついて、浮かんだプレーでパスを出す事が出来た。
それを苦し紛れと言いながらも本当に実行してしまう。改めて弥一はディーンの独創性溢れるプレーに驚かされる。
「あんなの予測出来る訳無い、あいつ化物か……!」
日本ベンチでは富山がディーンのプレーに度肝を抜かれ、マッテオの方は腕を組んで試合を冷静に見ていた。
「(ディーンはまさにファンタジスタ。彼の数々のアイデア、それを可能としてしまうテクニックと身体能力を彼は兼ね備えている)」
ジョヴァニッシミ時代から彼を見てきたが、マッテオの知る限りであれ程のプレーヤーは見たことが無い。
ただの天才では収まらない異次元の天才。彼ならイタリアを再び頂点へと導き、歴史に名を刻む偉大な名選手の1人となれる。
彼を完璧に封じ込めるのは至難の業。何しろ彼は公式戦と非公式戦含めて、全ての試合で必ずゴールかアシストを記録しているのだ。
彼が試合に出て、チームが0点で終わった事など一度も無かった。
「ファンタジスタって何で攻撃の方にしか言われないんだろうね?」
ジョヴァニッシミ時代、弥一はディーンのプレーをベンチからマッテオと共に見ていた。
当時からファンタジスタと言われていたディーンに対して、弥一は不満そうな顔を浮かべる。
「彼がそう呼ばれているのが気に入りませんか?」
「まさか、ディーンがそう呼ばれなかったら皆呼ばれないよー」
ディーンがファンタジスタと呼ばれるのが嫌なのかと、マッテオから言われると弥一は首を横に振る。
彼の実力なら存分に思い知らされ、称号を受けるに相応しい実力なのは認めていた。
不満なのはファンタジスタの方だ。
「攻撃の方にしかそういうの無くて守備に無いのは、なんか守備はたいしたアイデア無いとか思われて嫌だなぁって」
「別にそうは思われていないと思いますが、考え過ぎですよ」
「でもなぁ〜」
ファンタジスタ。誰もが予想しないプレーで観客を魅了する、主に攻撃の選手がそう呼ばれていた。
守備にはそういうの無くて不公平ではないかと、弥一は言いたげだ。
「守備のファンタジスタとか、そういうのもあったら面白くない?」
そう言う弥一の悪戯っぽく笑う顔、言葉と共にマッテオの記憶に残っていた。
「ファンタジスタを止めるにはファンタジスタ……か……」
現在へと戻り、マッテオはフィールドに立つ両者を改めて見る。
イタリアの攻撃を防ぎ、日本がボールを持つ。
今度は攻守が逆転し、弥一がディーンのマークを受けていた。
「そんな働き者だったっけ!?」
「人を怠け者みたいに言うなよ!」
マークに付いて守備にも積極的に参加する。弥一と戦いたいからという理由だけではない。
弥一が攻撃においても厄介極まりないのは、ディーンだけでなくイタリア全員が分かっている事だ。
カテナチオに唯一穴を空けられる存在と認識し、僅かな隙も与えまいとディーン自ら弥一のマークに努めていた。
ディーンを振り切ろうと動き回る弥一だが、ディーンはピタリと張り付き離れない。
「(守備まで優れてるなんて完璧サッカー超人めー!)」
心でちょっと毒づきながらも、昔1on1で止められなかっただけでなく、突破する事も困難だった事を思い出す。
サッカーにおいて何をやらせても一流、それがサルバトーレ・ディーンだ。
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詩音「弥一コールもっともっとー!」
玲音「声小さいよ皆ー!」
川田「何時の間にか応援団長みたいになってるぞあいつら」
摩央「というか弥一親衛隊、だよな?」
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