第378話 決勝点の行方
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
90分では決着は着かず前後半を含めた20分、残された時間で勝負を付けようと両チームがぶつかり合う。
勢いは牙裏にあり、立見を超えるボール支配率を誇り攻めているが得点にまでは結びついていない。
『高柳と間宮の空中戦!間宮クリアー…っとそこに佐竹!』
後方から春樹がゴール前へと上げたボールに空中で競り合う間宮と高柳、頭で間宮が出したかと思えばこぼれ球に佐竹が詰め寄っていた。
「ぐっ!」
ミドルレンジから佐竹の右足から繰り出されるパワーシュート、これを影山がコースに飛び込み背中で受け止める。
立見の我慢の時間帯が続く。
「あと3分…!立見粘ってけー!守り抜けー!」
時間を確認しつつ摩央は声を出し、懸命に守り続ける立見選手達へ声援を送る。
「このまま延長戦、前後半の10分で決着つかなかったらPK戦だっけ!?」
「ああ、けど出来ればそこに突入する前に1点取って勝ちたい!」
共に声援を送りつつ鞠奈は改めて確認、それに摩央が答える中で苦い思い出が蘇る。
立見が最後に敗れた公式戦、それがPK戦だった事を。
だが時間が迫れば迫るほどに行われる可能性は高くなっていく。
『高く上がったボール…!大門掴んだ!此処も立見凌いだ!』
左サイド、優也と攻防を繰り広げる中で正二が左足ではなく右足で上げたクロスボール。
精度を欠いて高く上がった球に大門が飛び出してジャンプ、伸ばした両手でしっかりとキャッチして猛攻の流れを断ち切る。
そのタイミングで延長前半終了の笛が吹かれた。
ハーフタイムには入らず、このまま両者のフィールドを入れ替えて試合はすぐに再開される。
「声出してー!応援足りてないよー!」
応援団にもっと声を張り上げろと要求し、スタンドから輝咲が立見へと応援し続けた。
すると頭に何か冷たさが伝わり、輝咲は空を見上げる。
「雪…降ってきたんだ」
空からゆっくりと白い粒が次々と落ちて来る、延長後半が始まる前に国立で雪が降り出してきた。
『おっと雪です、それほどの量の雪ではなさそうです試合に影響はどうなのか?』
『まだ振り始めですからね、増えてきたら影響ありそうですが』
降り出す雪の中で延長戦後半のキックオフ。
途中交代で出ている選手はともかく90分を戦い延長戦も出続けている、その選手達の体力は既に限界間近だ。
『天宮、佐竹と繋ぎ右の岸川へ…っと岸川トラップミスか!?タッチラインに出てしまった!』
パスを回して右から攻めようと、春樹から佐竹と繋いで岸川へとパスを出したが右足でのトラップが上手くいかず、ボールを弾いてラインを割ってしまう。
延長戦の前の後半で相当攻め込まれて体力を消耗し、そのツケが体にのしかかって来たと思われる。
「相手さん疲れてヘロヘロになって来てるよー!怖くないよー!」
このミスを見た弥一はすかさず味方を鼓舞していく、少しでも流れを立見に持ってこさせようと。
すると後半、弥一から優也へと速いボールが繋がり右サイドの詩音に渡る。
迫り来る正二をスルリと綺麗なターンで躱し、ゴール前へと右足で低いクロス。
明がこれに合わせようとするが、その前に居た津川が頭から突っ込んでのダイビングヘッドでクリア。だが跳ね返ったボールを再び詩音が拾えば再度右足で蹴る。
今度は中へと侵入していた玲音へのグラウンダークロスだった、しかし春樹が玲音の前にボールをカット。そのまま蹴り出して牙裏陣内からボールを遠ざける。
「カウンター!!」
この球を拾った佐竹が即座に叫び、疲れた体に鞭打ってそれぞれが走り牙裏は反撃に出た。
「うおお!!」
闘志剥き出しで三笠が激しく佐竹へと体をぶつけに行く。
「(1年坊主に競り負けてたまるか!!)」
体を当てられるも佐竹は強引に力で三笠を跳ね除け、前を向く。
「走れ走れー!」
佐竹の視線は左サイド、正二へと向いている。守備陣はパスかと判断していた。
たがパスは合っていてもターゲットは違う、正二に向いていたが佐竹はノールックで逆の右サイドを走っていた狼騎へと左足で送る。
「(その類いのパスは立見で見てきたよ!)」
「っ!?」
かつて立見を率いていた先代のキャプテン、成海が得意としていたノールックパス。
これを影山がインターセプトで阻止。
「いいねー!影山先輩ナイスカットー♪」
自分がやろうと思っていた所、影山が気づいていた事を心で分かり任せていた弥一。
後半に入ってまた流れは動きつつあった。
雪が降る決勝戦、後半10分もそろそろ迫ろうとしている。
『左サイド、風見と歳児の攻防!ライン際…ボールが出て牙裏ボール、いや?立見ですね。風見に当たって出たという判定です』
優也と正二のライン際での争い、此処は優也が守りきって立見がボールを持つ。
立見のスローイン、三笠が向かい投げようとする。
「あ、三笠待った。もっちゃんちょっと来てー!」
スローインに向かう三笠を呼び止めると弥一は川田を呼べば何が話し合っていた。
すると川田がボールを持つ。
『おっとこの位置で川田がスローイン?まさか此処で立見の人間発射台炸裂か!?』
超ロングスローを得意とする川田、ほぼ真ん中で自軍寄りの位置とはいえ彼がボールを持つ姿に牙裏の何人かがロングスローの可能性を考えた。
そう見せかけてフェイントもあるかもしれないと、正二が川田の前にいる優也へと張り付く。
「どりゃあーーー!!」
助走から気合の雄叫びと共にボールを投げる川田、その雄叫びを聞いて皆が思いきり投げてくると思った。
だがその雄叫びがフェイント、川田が投げたボールは長い距離でも短い距離でもない。
優也を飛び越えてその後ろにいる弥一へとボールが行く、それを見た正二は自慢の足で弥一に迫っていた。
トラップした瞬間を狙いに行ったが弥一はトラップせず、右足でボールを前へとダイレクトで送る。
一瞬で牙裏DFの包囲網を掻い潜るように、針の穴を通す正確無比なロングスルーパス。そこに反応し明がDFの裏へと抜けて走る。
この延長戦でも衰えないスタミナ、明はボールへと追いつきコントロールしてドリブルで迫る。
「(オフサイド!!)」
春樹は走りながら右手を上げてオフサイドをアピール、しかし線審の旗は上がらない。
『あー!神明寺のパスに緑山反応ー!オフサイド無い!』
「ヤバい!ゴロちゃんー!」
明の前には五郎1人だけ、DFも追っているが間に合いそうにない。
これを見た愛奈がスタンドから叫ぶ。
「(ゴールさせるもんかぁ!!)」
相手のシュートコースを狭めようと五郎は飛び出して明との距離を詰める。
「っ!」
飛び出して来た所に明は左足でシュート。
五郎をこれで抜けると狙ったが飛び込んで行った五郎の体にシュートは当たる。
「(止めた!)」
近距離で受けたボールの痛みが伝わると共に止められた、五郎の頭にそれが過ぎった時。
五郎に当たったボールが弾かれて明へと向かえば、そのまま明の体の一部に当たりボールは転がって行く。
「…!!」
懸命に春樹が追っていた、それも必死な形相で。
転がっているボールの行く先は無人となったゴール、そこへと向かっていたからだ。
「ぐおお!」
春樹が追いつかんと走っていたが、その前にボールはゴールマウスへと入っていく。
「やった入ったー!明ー!」
遠くからゴールを見届けた弥一が明へと走って駆け寄り、他のメンバーも続く。
立見ベンチも応援席も喜び、土壇場でのゴールで優勝を確信。
『は、入ったー!延長後半の終了間際、神明寺から出されたスルーパスに反応した緑山が値千金の先制ゴール!!ついにゴールが生まれた!』
『いや、待ってください?』
立見がゴールに喜び、牙裏が土壇場の初失点で絶望に落とされている所に主審が近づき線審と話す。
「ハンド!ノーゴール!」
「え…ええ!?」
線審と話した主審が立見のハンド、ゴールを取り消す判定を下す。
これに弥一や立見の面々は驚くばかりだ。
「ハンドって、何で…僕触ってないよー!?」
スローインで受けた時、弥一は手に触れてはいない。自分ではない事は確実だ。
だとしたらあと一人しかいない。
「明、触ったの!?」
「どうなの!?」
氷神兄弟に揃って迫られる明。
「あ…その……キーパーと一対一になってシュートを止められた時…腕に…」
明はあの時に五郎が弾いたボール、それが腕に当たってしまっていた。その場面を線審が見ており、ハンドの反則を取られたのだ。
「嘘でしょー!?」
思わず頭を抱えてしまう弥一、サッカーの天才でも心が読める超能力でもこうなると読む事は出来なかった。
ゴールの取り消しに立見ベンチや応援席は落胆。反対に牙裏の方は大喜び、牙裏応援席はまるで優勝したかのように喜びを爆発させている。
決勝点が幻となってしまった立見、このまま試合はタイムアップを迎えて最悪の流れのまま因縁のPK戦を迎えてしまう。
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輝咲「そんな…ノーゴール…」
愛奈「やったー!やったー!まだ負けてない!これ優勝するしかないじゃんー!」
千尋「こ、こんな事あるんだ…ドキドキする…!!」
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