第328話 振り回される小さなGK
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
何時ものようにGK同士で集まって様々な体勢でのキャッチングにセーブ、パントキックと練習を重ねていく。
そうしていく中で1人がこちらを見ている視線に気付いた。
「あれ、誰だろ?見学者かな?」
「女子だ…結構美人じゃん」
五郎と共に練習していた他のGKは愛奈に気付き、声を潜めて話し出す。
「マネージャー志望でサッカー部に入るとかあるんじゃね?」
「おー、そりゃ一気にまた華が咲くなぁ」
牙裏にあるサッカー部は男子だけで女子の方は無い、なので彼らは愛奈が女子マネージャーになってくれる事を想像している。
そんな中で五郎は集中して練習していて終わるまで愛奈の姿に振り向く事は無かった。
「ふー…あれ?」
朝練の時間が終了し、練習着から制服へと再び着替えに部室へと戻ろうとする五郎はこちらへと向かって軽く手を振る愛奈の姿に気付く。
「よ、お疲れさーん」
「向坂さん、どうしたんですか?何か聞き忘れた事でもありましたか?」
タタタっと小走りで愛奈の元までやってきた五郎、わざわざ自分の所まで来たという事はそうなのかと思い尋ねる。
「ちゃうちゃう、朝の授業開始まで時間あっから君の部活を暇潰しで見学に来ただけだから」
「あ、そうなんですか。あの…ひょっとしてマネージャーとして入部とか考えてます?それだったら」
「いや、マネージャーは全く考えてないし」
こうして部活を見学に来たという事はサッカー部に関心を持ち、マネージャーの入部を考えているのではと思ったが五郎の言葉を遮る形で愛奈はその可能性を否定。
「別にサッカー部を応援したい、お世話したいとかそんな気持ち無いしさ。第一面倒くさい」
「じゃあどうして此処に?」
「だから言ったじゃん?暇潰しって、君がその小さい体でどんな事やってんのかなーって興味あったからね」
今の所この学園で五郎より小さい男子学生を見てはいない、小柄なその体で一体どう動いているのかと愛奈は関心があった。
「っと、あたしもそろそろ行かないと…じゃなー、ゴロちゃん!」
「ご、ゴロちゃん…?」
最後に五郎に対してそう呼んだ愛奈は去って行く。
「おいおい、お前の知り合いだったのかゴロちゃんw」
「あの可愛くて美人な子は彼女かゴロちゃんよ?」
「もうー!違いますしからかわないでください先輩達ー!」
五郎と愛奈のやりとりを見ていたサッカー部の先輩達はニヤニヤと笑いながら、からかうように五郎へと話しかけていき本人はほんのり顔を赤く染めていた。
愛奈の影響で五郎に対するゴロちゃん呼びは少し流行りだしたとか。
「はぁ〜、終わった〜」
放課後を迎え、チャイムが鳴ると共に五郎はようやく授業から解放されれば午後に始まる部活の準備に向けて再び動き出す。
「ねえねえ向坂さん、皆で駅前にある喫茶店これから行かない?新作のミルクレープが美味しいってSNSで評判なんだー♪」
「ん?あー、悪い。あたしちょっと行く所あるからパスな」
2階から1階へと階段で降りてきた複数の2年女子生徒、その中に愛奈は居て彼女達に喫茶店へと誘われる。
ケーキは魅力的であるが愛奈の目に教室から出て校舎の外に出て行く五郎の姿が見えると、彼女達の誘いを断ってその場を離れた。
牙裏学園のサッカー部はこれまで戦績で目立ってはいなかった。
良くて県大会の準決勝、ベスト4が良い所で全国出場までは届かなかったが今年の夏に全国常連で知られた昇泉を下し総体で全国の場に出る事が出来た。
サッカー部が創設されて以来の快挙とあって部は一気に注目され、見物に来る者は珍しくない。
だから愛奈がこうしてサッカー部に顔を出してもその中に溶け込んで目立つ事はないという訳だ。
「ゴロちゃんはー…?おー、いたいた。ゴロちゃーん」
練習着へと着替えた小さな部員の姿を発見すれば愛奈は彼を呼んだ。
その声に気付き五郎は慌てて愛奈へと駆け寄って行く。
「あ、あの…向坂先輩?何で僕の事ゴロちゃんって…」
「言いやすいから」
さらりとその名で呼ぶ理由を言い切った愛奈に五郎は肩を落としていた。
「しかしまあ、結構見に来てる人居るんだねぇ」
「少し前まではこういう事無かったんです、やっぱり総体に出場出来て全国ベスト4まで勝ち上がれた影響が大きいかなと」
「なんだー、優勝したらもっと注目されたのに」
牙裏サッカー部に此処までの見学者がいる事は春辺りまでまず無かった、県内の中堅から一気に全国を決めた事で注目度は増している。
これが優勝だったらもっと凄いだろうなぁと愛奈は周囲を見回す。
「その時の相手は八重葉でしたからね、後ちょっとまで行ったんですけど…」
「へぇー、強いのそこ?」
「勿論ですよ!高校サッカーのタイトルを全部取った絶対王者でしたから!今も高校No1の天才ストライカーと言われる照皇誠さんを中心に凄いチームです!」
高校サッカーに詳しい者なら八重葉学園の名を知らぬ者はいないが、愛奈はそこまで関心が無かったので八重葉の事は知らない。
それに五郎は八重葉について説明していく中で横から口を挟む者が居た。
「今はそんな八重葉よりも更に厄介な高校が居るけどね」
何時の間にか五郎の後ろに立っていた人物、穏やかな笑みを見せる春樹の姿があった。
「あ、春樹先輩お疲れ様です!東京から戻られたんですね?」
「まあちょっとした観光も兼ねてリフレッシュになったよ。それより…何時の間に彼女作っちゃったりしたのかな?」
「違いますよー!向坂さんは転校してきたばかりで案内したり教えたりしてたんですー!」
東京から岐阜へと帰ってきた春樹からもこのネタでからかわれて五郎は事情を説明。
「そりゃまあなんともラブコメっぽい感じの展開で、っと部活開始まで後少しだ。イチャイチャも程々にしとけよゴロちゃん」
「もうー春樹先輩までー!」
何処で聞いたのか今日そう呼ばれている事を春樹はその名で最後に呼んでからグラウンドへと走って行く。
「なあ、春樹先輩っていうのが来てから周りの声凄かったけど結構人気者なんだな?」
五郎と春樹が会話をしている間に愛奈は周囲の春樹への声が大きく聞こえ、二人の会話は聞こえなかったが春樹が人気あるというのはなんとなく分かった。
「3年の天宮春樹先輩はテニスの方で高校の全国大会で2連覇してる有名人ですから、本当はサッカーも凄いんですよ!」
「はぁ〜、今何かと野球を中心に流行ってる二刀流ってやつかな?」
五郎と愛奈が会話をしている時、辺りが騒がしくなってきた。
愛奈がそちらへと姿を向けると見物している者が道を開けていて、そこに学ランを着た一人の男が両手をズボンのポケットに入れたまま歩いて来る。
不良のような外見で高校生とは思えぬ鋭い眼光、その迫力と圧によってか彼の前に出来ていた人集りは左右へと邪魔にならないようにどいていた。
「(なんだあいつ?今時珍しく気ぃ入ったガン飛ばす奴だなぁ…)」
他の高校生とは違う雰囲気を纏わせる男、愛奈が何者かとそこへと目を向けていると五郎がその人物へと駆け寄って行く。
「狼騎先輩、お疲れ様です!」
恐れもせず五郎は彼の前に立てば礼儀正しく頭を下げて挨拶をする。
「フン、いちいち挨拶しに来なくていいっつったろ五郎。いいからてめえはてめえの準備しとけ」
「はーい!」
五郎の顔を見た後に狼騎はそのまま部室へと向かって歩いて行った。
「な、あのすんごい目つきした男誰よ?」
五郎が練習の準備に向かってしまったので愛奈は近くにいた男子生徒へと狼騎について尋ねていた。
「3年の酒井狼騎だよ、不良みたいな感じするけど彼が牙裏サッカー部を全国に導いたヒーローなんだ。…すんげぇ怖いけど」
「やべぇ感じするし関わりたくねぇよなぁ…あの小さいのとかよく恐れもせず話しかけられるもんだよ…」
狼騎が相当怖いのか自分達の声を聞かれないように潜めて男子学生達は話す。
「(へえー、ゴロちゃんみたいなちっちゃいのが居るかと思えばテニスの凄い奴にヤンキーみたいなのまで居たりとこのサッカー部結構変わってるなぁ)」
五郎に春樹に狼騎と様々なタイプが集まるサッカー部に少し愛奈は関心を持って見学する事にした。
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此処まで見ていただきありがとうございます!
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弥一「うーん、本編で出番無くて暇になってきちゃったなぁ」
摩央「だったら勉強でもしとけ、また赤点近くなったら部活出られなくなるぞ」
弥一「うえー、外国語以外の勉強勘弁して〜」
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