第13章 それぞれの道
第310話 3年生の進路
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「(分からない…!)」
日本の強豪や世界の強豪と渡り合って来た少年がその相手を前に冷や汗が伝う。
数々の戦いを潜り抜け、少年は仲間と共に優勝の栄光を手にした。
多くの試合で相手を完封してきた神明寺弥一、その彼が目の前の相手に動けずこの状況を突破する方法が分からない。
弥一は今最大のピンチに陥る!
「1人ナレーションしてる余裕は残ってんのかよ」
「いたっ」
教科書の本を摩央が右手で持てば机に座る弥一の頭をそれで軽くペシっと叩かれる。
「もうー、これから盛り上がる所だったのにー」
先程まで一人語りで自分の世界へと入っていた弥一、目の前にある勉強という辛い現実から避けようとした彼の遊びだった。
総体を優勝した立見、夏冬と大会制覇の彼らにはメディアも放ってはおかず前にも増して取材が来るようになる。
立見の知名度は今や高校サッカー界で知らぬ者はほとんどいないぐらいで1年前とは大違いの現状だ。
優勝した実感や余韻を味わいながらも彼らは練習を怠らず今日もグラウンドの方にて汗を流している、そこに今弥一が加わらず教室で勉強をしていた。
「勉強ばっかじゃ息詰まっちゃうよ〜、軽くボール蹴りに行ったら駄目?」
「軽くがいつの間にか放課後迎えるってオチになりそうだから却下だ」
「えー!」
息抜きに彼らとちょっと練習参加しようと提案する弥一だが摩央にあっさりと却下され、やむを得ず机の方に向き合い勉強を再開。
「監督からも言われただろ、赤点の危機を脱するまで部活の参加は許さんって」
「薫監督厳しいよ〜」
得意の外国語以外は点数があまり良くない弥一、このままでは赤点になりかねないと薫に知られると勉強に集中するよう監督命令が下されてしまったのだ。
「えー、此処の式はえーとえーと…」
目の前の数学に弥一は悪戦苦闘、此処までフランス遠征からインターハイと数々の試合を全試合フル出場してきた。
今回の勉強を良い機会として体もじっくり休ませろと薫から言われたが弥一にとってはそのフル出場よりも今の勉強の方が過酷だ。
9月に入りまだ暑さが厳しい中、涼しい教室に居る弥一は外で部活する彼らの方が羨ましく思えた。
「あっつー…9月だっていうのに残暑残り過ぎだろ…」
部活の合間の休憩時間、滴る汗をタオルで拭いつつ川田は空を見上げた。
「弥一は今頃教室で勉強かな?1人涼しく過ごせるなんて羨ましいわー」
「いや、彼勉強が結構苦手みたいでさ…教科書持って教室向かう時この世の終わりって顔してたよ」
「そりゃ是非見たかったな、あいつがそんな顔見せるなんてSRぐらいに珍しいだろ」
それぞれ校舎の方を見て間宮、影山、田村の3年生トリオが談笑している。
彼らは笑っていたが校舎の方を見ているうちに彼らへ迫る現実を思い出す。
「俺らもあとちょっとで卒業かぁ…」
「ああ、ついこの前に成海先輩や豪山先輩が卒業したと思えばもう俺達の番だ」
今年の春に卒業していった成海と豪山、かつてこの立見サッカー部を創設した初期メンバーの顔が間宮と田村の頭に浮かんで来る。
「次のキャプテンとかも決めなきゃいけないよね」
「あー、それも考えないとなぁ…」
影山から次期キャプテンについて言われれば間宮は腕を組んでいた、次の立見を引き継ぐ者は誰なのか現キャプテンとして考えなければならない。
「高校卒業したらやっぱ大学へ進学か?」
「そのつもり、多分僕プロから声かかんないだろうし」
「俺もスカウト無いからそっちかねぇー」
話は彼らの高校卒業後へ、今年が最後の高校生活になる3人は来年に卒業する。その時の進路は皆それぞれ大学と決めているようだ。
「大学のレベル高いサッカーで試合に出続けてもっとレベル上げて弥一の野郎を超えてやる」
間宮は大学サッカーへ進み、そこで経験を積んで弥一を追い抜こうという考え。
「あいつの方が上だって認めても負ける気は無ぇんだな」
「当たり前だ!何時までも年下のドチビに劣りっぱなしじゃいられねぇし」
最初は弥一の事を良くは思っていなかった間宮、練習や試合を重ね同じ時を過ごすうちに彼の方が実力で上だと認めるが彼も負けず嫌いだ。
同じDFとして何時までも下じゃいられないとさらなる成長を求め大学へ進む事を決意する。
「まあ頑張れー、俺は大学でサッカーやりつつ大学生活エンジョイと行くかなー!」
「うわー、リア充ー」
田村は付き合ってる彼女と共に同じ大学へ進み大学生活を楽しむ予定。
それにたいしてからかう影山を受け流す余裕も出て来ていた。
「あ、もう休憩時間終わりだよ」
「っと…危ね。おーし、お前ら練習再開だー!」
影山から休憩時間の終わりを教えてもらえば間宮は部員全体へと練習の再開を告げてそれぞれが動き出す。
3人の最後の大会となる冬の選手権に向けて勝つ為に己の練習だけでなく後輩への指導にも熱が入る。
負けて心残りにしたくない、勝って心置きなく次のステップへと進む為に。
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大門「赤点って弥一そんなにピンチだったの?」
優也「みたいだぞ、さっき顔色が緑色に近い感じで教室行ってたからな」
武蔵「意外な弱点があったなぁ、勉強苦手と」
弥一「ボール蹴りたいー!」
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