第309話 夏が終わり冬に向けて


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。










『高校サッカー総体決勝戦、今此処に決着です!立見高校が冬の選手権に続き夏の今大会も制覇!高校の2大大会で頂点に立ちました!』


『決勝で4ー0ですか…!それも相手は王者八重葉学園とでまたしても無失点優勝と、立見の天下が始まる事を予感させる勝利ですね!』


 決勝が行われたフィールド上では立見の選手達が歓喜の輪を作ってそれぞれが優勝の喜びを共に味わう。


 彼らは今日また1つ快挙を達成していた、冬の選手権に続き夏の総体でも全国優勝。それも予選を含めてまたしても全試合無失点と誰もやっていないであろう記録を作っての制覇だ。


『放送席ー、放送席ー、こちら驚きの先制ゴールを決めた立見高校1年の緑山明君がお越しくださいました!決勝であのキックオフゴール、物凄かったです!』


「ああ、いえ…弾いてコーナーになってくれるかなと相手が前に出ていた事もあって狙ったら…入ったって感じですかね…」


『開始から8秒のゴール、あれを決めた瞬間はいかがでしたか?』


「えーと…決めたこっちが「え?」て感じでした…とりあえず、早い時間に先制出来て良かったなって」


『今大会振り返ってみて緑山君の感想はどうでしょうか?』


「先輩達や同級生達に…色々助けてもらいましたね…特に後ろの守備が完璧に守ってくれたおかげで攻撃の方に集中出来たというか…とにかく優勝出来て良かったです…」


 人と話すのが得意ではない明、インタビューは緊張しながらも行われて彼には試合より大変だったようだ。


 ようやく解放された明は仲間達の輪へと戻って行った。



「立見は強かった、まずは認めよう。彼らが新たな頂点に立つ王者である事を」


 決勝戦で立見を前に破れ準優勝で終わった八重葉、選手達は大差での敗退でショックを受けたり悔し涙を見せる者もいた。


 八重葉の監督も最初は信じられないと思ったがこの結果を受け止めなければ前に進めないと理解し、歴史がまだ浅いながらも頂点に輝いた立見こそが今の最強であると。


 選手達にもその事を静かに伝えていく。


「だが、お前達はこのままでは終わらない。此処に居るメンバーは八重葉の中でも選りすぐりのエリート達だ。立見が此処まで強くなったのなら皆もまた強くなる可能性は充分ある」


「今年はまだ選手権がある、この悔しさを胸に刻み力を蓄え冬に思いっきり暴れるんだ」


 八重葉監督はこの次にある冬の選手権に向けて走ろうと言えば、悔しさにまみれながらも選手達は顔を上げた。


 立見に冬だけでなく夏の王者の座も渡し、今日から八重葉も挑戦者となる。だが近々頂点は取り返すつもりだ。


 今日試合に出た選手達だけではない、決勝戦に出られずスタンドで観戦するしかなかった照皇も打倒立見へ強い闘志を燃やす。






「決勝で八重葉相手に4ー0って立見強すぎないか…?」


「強いです!間違いなく!」


 スタンドで観戦し立見の圧倒的な試合を目の当たりにしたのは牙裏のキャプテン佐竹と五郎、他の部員達がスマホで観戦している中で彼らは実際にその試合を見ようと此処まで足を運んでいた。


「選手権を制した時のメンバーがほぼ残ってますし、それに加えて新しく入った1年の皆が活躍して去年のチームをベースにしたまま上手く融合してると思いました!」


「去年は神明寺弥一を中心に鉄壁の守備陣が目立ったけど今年は攻撃陣で優秀な1年を揃えて早々と育て上げたよな、守備だけじゃなく攻撃も優秀なチームになって層も厚くなったし」


「だからこそ立見は優勝出来たんですよね」


 弱点の消えた立見、全てを兼ね備えたチームとして高校サッカーの頂点に立った彼らに対して高校サッカープレーヤー達がその座を狙っていく。


 最も立見からそれを奪うのは至難の業となりそうだが。





 他の牙裏選手達がスマホで試合を見たり直接会場へ見に行ったりとする中、狼騎は試合を見ずに宿泊施設内にある自販機で飲み物を買っていた。


「見た目不良な感じだけど飲む物はちゃんとしてんだね」


「あ?」


 取り出したオレンジジュースの缶を左手に持ったまま声のした方へと鋭い眼光を向ける狼騎、そこにはおどけた態度で目の前に立つ少年の姿があった。


 170cm程の身長で細身、綺麗に切り揃えられた短めの茶髪な外見は狼騎と正反対なタイプに見える。


 だが彼は狼騎に睨まれても全く恐れる様子は無い。


「何しに来やがった」


「つれないなぁ、こっちはテニスの試合終わらせて駆けつけたってのに」


「早々に負けて駆けつけたのかよ」


「いや?勝った」


「自慢じゃねーか」


 狼騎と会話しつつ少年の方も自販機で飲み物を購入、彼はスポーツドリンクを選んでいた。


「ま、立派でしょ。全国ベスト4、それも相手が八重葉だったらしょうがない…なんて君は欠片も納得しないだろうけどね」


「…」


 八重葉に負けた時の事を思い出したのか悔しさを露わにしつつもオレンジジュースのプルタブを開けて飲む狼騎。


 あの試合で狼騎は途中退場し最後まで出場は出来ずチームは敗れてしまった。


 もし退場せず残っていたら結果はまた違った物になったかもしれない。


「八重葉、それと立見にはどっちも絶対的な存在が居る。照皇誠、神明寺弥一とね。破るにはこっちにもそういった存在が必要だ」


「それがてめぇだって言いたいのか?」


「はは、まさか。それは狼騎だよ、君がいなきゃ始まらないからさ」


 鋭い眼光を向ける狼騎に対して少年は笑ってドリンクを口にしていた。


「ただ君や僕に丈だけじゃまだ足りない、冬までに全部を整えないとね」


「…」


「立見に八重葉とはその時また戦える、お楽しみはとっといた方が良いと思わない?」


「…フン」


 ふいっとそっぽ向き、狼騎はオレンジジュースを再び飲み始める。


 立見も八重葉もまだこの選手の事を知らない。


 現在は牙裏でサッカー部とテニス部を掛け持ちしており、かつて酒井狼騎、工藤龍尾と共に石立中学で天下を支えた影の天才。


 天宮春樹(あまみや はるき)の存在を。







 それぞれが夏の大会で悔いを残し冬に向けて動き出す中、優勝の栄冠を受け取っていた立見。


 弥一は昨年の忘れ物を受け取る事が出来た、これで冬に続き夏の大会も制覇。


 此処からはこの座を全国の高校が狙って来る、此処からはそれを守る為の戦いだ。


 また厳しい戦いになるが今は優勝の余韻を味わっておく。


「あ、記念撮影始まるー!皆入って入ってー!」


 そこに優勝の記念撮影が始まり弥一が皆を呼び集め、記念の1枚が撮られた。


 後にその1枚は部室に飾られる栄光の証となる。



 高校サッカー総体


 2回戦 米井沢 10ー0


 3回戦 藤海第一 5ー0


 準々決勝 木戸東 3ー0


 準決勝 星崎  4ー0


 決勝  八重葉 4ー0



 優勝 立見高校


 得点26 失点0



 大会得点王 照皇誠(八重葉)


 最優秀選手 緑山明(立見)




 ーーーーーーーーーーーーーーー



 明「MVPを…俺が貰っていいのかこれ」


 半蔵「それはまあそうなるだろう」


 詩音「決勝でキックオフゴール決めたんだから誰も文句言わないって!」


 玲音「むしろそれで貰えなきゃ何をすれば貰えるんだよって感じだし」


 明「…じゃあ貰っておく」


 弥一「何か満更でもなさそうな顔してるねー?」


 明「え?いえ、そんな事は…ありません…」


 弥一「(まあ嬉しい事は心でバレバレだけどね♪)」

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