第299話 本当に疲れてるのは?
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「あ〜、今日もあっちぃ!!」
手で扇のようにパタパタと扇ぐのは富山代表の木戸東(きどひがし)高校。
今日立見の準々決勝の対戦校で両チームは試合前のアップへと入っていた。
そのキャプテンでDFの3年、谷吉行(たに よしゆき)が今日の暑さに思わず叫んでしまう。
「連戦の上に今日が立見戦だろ?暑さだけしゃなく相手も厳しいっての!」
「喚くな喚くな、不満行っても対戦校が変わるわけじゃねぇし」
チームメイトは暑さだけじゃなく厳しい日程にも不満を見せており谷はそんな彼をなだめていた。
「それに、悪い事ばっかでもないみたいだぞ?立見の方をよく見てみな」
「え?なんだよ…」
谷に言われて立見のアップする姿をそれぞれ見てみる、何か変わったことでもあったのかと思ったが特にそんな様子は見られない。
「気付かないか?いないんだよ1年の氷神兄弟が」
「あ…!」
よく見ると1年で男性アイドルのような目立つ容姿をしている双子の姿が無い事に彼は谷から言われるとようやく気付く、これに「お前視野が足りないなー」と谷は笑った。
「当たり前だ、この連戦に暑さだぜ?そんな動き回る奴が全試合出場なんて出来るわけねぇだろ」
「そりゃまあそうだよなぁ、この猛暑で動き回るなんて体力の消耗バカみてえに激しくなるしよ」
察するに立見は氷神兄弟が疲労で今日は休んでいる、これに前線に厄介な奴は2人いなくなってくれた。つまりこちらに勝ち目が出てくるという訳だ。
「けど後は神明寺弥一のいる守備をどうするかだよな」
「あいつはフランスから戻って此処までずっとフル出場だ、向こうでもそうだったにも関わらずな。相当無理してバテバテだろ」
まだ守備で厄介な弥一が居るがそろそろ疲労が蓄積されて体が重くなっている頃、何時もの読みとかそういったのは鈍るはずだと谷は見ていた。
普段通りに振る舞っているように見えて実は内心相当辛い、そんな時に彼の居る方へと徹底的に攻めれば崩せるだろう。
木戸東の作戦は決まっている。
「あと3つ!まずはこれに勝って準決勝決めるぞ、立見GO!!」
「「イエー!!」」
試合前、円陣を組んで何時もの儀式を間宮の元で行った後にそれぞれポジションに散ってキックオフを待つ、先攻は木戸東から始まる。
ピィーーー
両サイドから力ある攻撃を得意とする木戸東だがこの日は中央突破、それもわざわざ弥一の居る方へと向かって行く。
中央からパスを回して進めば右サイドを走る木戸東の右SH、そこに長いスルーパスを送って行った。
「ナイスパース♪」
しかしこれを弥一は読んでおりスルーパスをあっさりとインターセプト成功。
「(構うか、神明寺にどんどん動いてもらった方がスタミナ尽きるのも速くなる。その時こそ立見初失点だ!)」
思い通りと谷は内心で笑いつつ暑さで流れる額の汗をユニフォームの袖で拭っていく。
立見の方は優也がスタメンから出ており氷神兄弟は今回ベンチに控えている、更に明もベンチの方に座っていて武蔵が先発で出ている。
前回からかなりスタメンを入れ替えた立見、フル出場を続けているのは弥一と間宮に大門ぐらいだ。
相手の木戸東はキャプテンの谷を中心とした堅守と足の速い前線による速攻を得意とする強豪、此処まで許した失点は予選を含めて僅かに1と抜群の成績を残している。
この試合でもそのやり方は変えない、更に弥一の方へとターゲットを限定し動かさせてスタミナを消耗させる。
「(リトリート気味だなぁ…向こうの守備)」
木戸東はほぼ自陣がゴール前に守備時で戻っており速攻の時は一気に前へ出る、今は守備の時なのでCBの谷を中心に守備の布陣が敷かれていた。
武蔵はパスの出し所を探りに行く。
「てぇ!」
そこに相手DFが激しく体を寄せて来ると武蔵の足が相手の足に引っかかってしまい派手に転倒。
木戸東のファール、ゴール前30m付近の良い位置でのFK獲得だ。
「おい、大丈夫か武蔵?」
「特に大丈夫みたいだ、それよりチャンスだぞチャンス」
派手に転び何処か怪我したのか心配になった優也が武蔵へ声をかけると武蔵は立ち上がり特に怪我は無さそうだった、これに優也は一安心。
「んじゃ、いっちょお仕事しますかー」
セットされたボールの前に立つのは弥一、この姿に木戸東の選手達は警戒心が強くなってきた。
「(「あいつ最近は無回転のボールを蹴る事が結構あるから、此処それで来るんじゃないか?)」
「(いや、そう見せかけてのパスもあり得るぞ。歳児辺りに注意した方が良い)」
谷達は最近の弥一が無回転のキックを多用気味だと見ていてそれが来るのではという声があればパスの選択もあると意見が様々だ。
「(歳児は俺がマークする、キーパーは直接に備えとけ)」
「(了解)」
作戦が決まれば谷が優也へとマークし、他の長身選手が高いボールに備える。
だが彼らは気付いていない。
それぞれが思っている心の声が最初から弥一に全て筒抜けだという事が。
ゴール30m、ほぼ正面で左寄り。
弥一は短いステップから左足のインフロントキックでボールを思い切り蹴り放つ。
壁の左側の頭上を大きく越えるとボールはゴールから外れて走る優也の元まで向かう。
「(よし、歳児へのパスか!これを防いでカウンターだ!)」
前線には足の速い選手を残している、弥一が上がっている今立見の守備は薄い。
このボールをカットしようとしていた谷だったがボールは急な変化を見せると右へと向かって伸びるように曲がる。
木戸東のGKは弥一のキックを見てこれはパスだと判断し、直接は来ないと思っていた。
無回転のシュートで忘れていた弥一の得意とするカミソリのような曲がりをするキック。
忘れた頃にそれはやってきて木戸東のゴールを捉え、GKの伸ばした手を躱しゴール左上隅へとボールが入っていた。
立見の弥一によるFKで先制ゴールが生まれスタジアムはスーパーゴールによってボルテージが高まっている。
観客達の大歓声に弥一は明るく手を振って応えて見せた。
「なあ…谷、神明寺疲れてる様子無さそうじゃね…?」
「は?馬鹿言うな、そう見せてるだけっつったろ!表面に騙されんな!」
チームメイトは弥一が疲労してなさそうに見えたが谷はそれは無理してると弥一疲労説を譲らない。
海外含めてあれだけフル出場しておいて元気な訳がないと。
「ねー、そこのキャプテンさんー」
「!?」
そこにゴールを決めた弥一が谷の方へと近づいて行く、その顔は無邪気に笑ってるように見えた。
「相当無理してバテバテなのはどっちだろうね?」
先程谷が思っていた事を弥一が言い当てるように言えば谷の顔が真っ青になってくる。
ポジションへと戻る弥一の姿を彼は呆然と見送るしかなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
弥一「フランスから戻ってそのまま試合とかじゃないし、あれから何週間か間があったんだからそりゃ休めるってー」
フォルナ「ほあ〜」
弥一「おー、フォルナよしよーし♪こういう癒しもあるからねー」
摩央「気づけば次で300話…!とうとうそこまで来てるぞ!?」
弥一「大台来てるねー!じゃあ一気に突っ走ろうか♪」
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