第273話 Uー19フランス国際大会決勝戦 日本VSベルギー
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「ワッフルとかチョコが美味しいよねー」
「何だ急に?」
試合会場へと向かう日本の専用移動バスの中で弥一の隣に座る番、急にお菓子の話をされて朝飯だけじゃ物足りず腹でも減ったのかと思い話を聞いていた。
「ベルギーの美味しい食べ物と言えば、で思い浮かんだ」
「まあ有名だよな、ベルギーのワッフルやチョコレートって」
今食べたいかはこの際置いておき、弥一の言葉に番も同意し頷く。彼の中でもベルギーの食べ物と言えばお菓子のイメージが強めであり真っ先にその2つが浮かんで来る。
スイーツや美食の国で有名、その国と今日Uー19日本は彼らと決勝を戦う。
「(しかしこういう代表の大会、決勝でお菓子の事なぁ…やっぱ変わってるよなこいつ)」
番は代表の皆と知り合ってまだ日は浅い、その中で交流を深めていき皆がどういう人物なのか少しは分かってきたつもりだった。
普段の試合ではDFとして優れた技術や先読み、そして声をよく出して周囲へ指示や鼓舞を欠かさない頼もしきDF。彼が守備の要なのは間違い無いだろう。
一方のプライベートではひたすらマイペースで美味しいご飯やお菓子に目がない、練習が無い時はとことん遊ぶタイプだった。
今ひとつ読めない所があるが確かなのは彼の力無しでは今日のベルギーを抑えるのは難しいという事だ。
「そういえばその、SNSで噂になってんだけど。お前ベルギーのアドルフとミランで元チームメイトだったっていうのマジか?」
「あ、うん。大マジ」
番は昨日SNSをスマホで見ていて弥一がアドルフとイタリア留学時代にチームメイトだったというのを見て、それが本当なのかどうか本人が目の前に居るので真相を確かめようとしていた。
それに対して弥一はあっさりとそうだと認める、彼からしたらアドルフとミランで元チームというのを伏せる必要は何処にもない。ただ今まで言う必要が無かっただけだ。
「凄ぇな、あのベルギーの次世代の天才ストライカーと…」
「アドルフも結構出世したもんだねー、昔からよく点を取ってくれてたけど今じゃビッグクラブも注目かぁ」
DFの位置からアドルフのプレーを見てきた弥一、ストライカーに必要な要素を兼ね備えた万能FWとして当時のジョヴァニッシミで日本人の弥一に続きアドルフもベルギー人としてイタリアの超名門クラブでレギュラーの座を勝ち取っている。
同じ高校の年代で自国のトップリーグにて既にプロとして活躍、ユース世代において世界レベルと見て間違い無い。
昔から頼りになったストライカーが敵として相対する、サッカーを続けていればこういう事はよくあるので珍しい事ではないだろう。味方だったのが今回は敵。日本同士でも今は一緒のチームに居るがこの大会が終われば高校のインターハイ、そこで競い合うライバルに戻る。
「あ、つまりあれか!ベルギーを食う、という意味でチョコやワッフルを食いたかったんだな」
弥一が此処で食べ物に拘る理由はそういう事かと番は気付いたように納得し、腕を組んで頷く。つまりあれは弥一なりの決勝への意気込みなんだと。
「いや?単純に食いたいなって思っただけだよー」
「違うのかよ…」
マイペースに違うと答える弥一に番はガクッと肩を落としていた。
「まあでも、今回DF特に大事だから番。しっかり頼むね」
「おう、分かってるって」
弥一から頼りにしてると言われ、番はそれに頷く。
今回本来のCDF大野が手首の骨折というアクシデントで急遽の出番となった番、そこから彼の持ち味であるフィジカルの強さやマンマークを発揮して相手の攻撃を封じるDFの一角として活躍。
今大会のシンデレラボーイと言える選手かもしれない。
「おーい、始まるぞー!」
同じ頃日本では夕方を迎えて立見サッカー部は代表の3人が不在の中で練習と活動を続けており、日々のリーグ戦を変わらず勝ち続けていた。
この日はUー19フランス国際大会の決勝戦、日本の試合が行われるのでサッカー部は寮の方へと集まりそれぞれパソコンやスマホを見て試合を観戦する。
全員が今日は寮での泊まりが確定しており延長戦になって試合が長引いた時の事もちゃんと考えている。
「神明寺先輩ならベルギーやっつけてくれるよね?」
「そりゃそうでしょー、後は攻撃陣が取ってくれれば行けるって」
1年の中でも特に弥一を強く崇拝している氷神兄弟、2人は弥一のいる日本の勝利を微塵も疑っていない。
「ほあ~」
「ああ、分かった分かった…飯なら今用意して持って来るから」
フォルナの世話を任された明、すっかり慣れたものであり猫の食事を手早く用意出来るぐらいに進歩していた。そして食事を用意した後に明も自分のスマホで今日行われる試合を見ようとしており、フォルナは食事しつつも気になるのか時折顔を上げて明のスマホの画面を見ていた。
『日本とベルギー、過去にワールドカップでも争ってきた両者がフランスの国際大会決勝で戦います。優勝を手にするのは日本か!ベルギーか!』
『この試合では互いにイタリアのミラン、ジョヴァニッシミ時代の黄金期と言われた日本の神明寺弥一とベルギーのアドルフ・ネスツがいますからね。この2人の対決というのも注目ですよ』
「やっぱ決勝はお前らが来たか、そんな予感はなんとなくしてたよ」
「それこっちの台詞だからアドルフ」
選手の入場口、そこで共に並ぶ日本とベルギーの列。先頭にはそれぞれのキャプテン、藤堂とルイが立っており最後尾の方で弥一とアドルフが並ぶ形となっていた。
前に会ったのはパリ市内、今回は互いにユニフォームを着て真剣勝負の場に立っている。
それも大会の決勝でUー20ワールドカップへ向けての弾みにしようとしているのはお互い同じだ。
「一つ言っておこうかヤイチ」
「ん?」
「俺はこの試合でお前を突破してゴールを決めて優勝する、そんで更なるステップアップを果たしてこの大会だけでなくUー20。更にその先にある五輪、ワールドカップと全部ベルギーが取ってやるさ」
アドルフの口から飛び出す大胆な勝利宣言、日本を倒し大会の優勝だけではない。更にその先にある数々の大会を母国が制するのをアドルフは望み、狙っている。
ハッタリではない、ベルギーという国はサッカーの力がそれだけ高まっており優勝を充分狙える強豪国だ。
「前前、進んでるぞ」
その時に列が動いて入場を開始している事に周囲の声で気付き、弥一とアドルフはその列について行けば共に決勝のフィールドへと現れた。
縦から横一列に並ぶ両チームの選手。
両チームの国歌斉唱で先にベルギーの国歌であるブラバントの歌が流れればその後に日本の国歌、君が代が流れる。
それぞれ自国の国歌を歌い終え、スタジアムの大型ビジョンでは日本とベルギーのスタメンが表示された。
ダークネイビーのユニフォームの日本、GKは黄色。
赤いユニフォームのベルギー、GKは緑。
Uー19日本代表 フォーメーション 3ー5ー2
照皇 室
10 9
月城 三津谷 白羽
2 8 7
仙道(政)八神
14 5
青山 神明寺 仙道(佐)
15 6 4
藤堂
1
Uー19ベルギー代表 フォーメーション 4ー5ー1
アドルフ
11
アドン ルイ トーラス
9 10 7
ダイン メラム
8 6
トールマン アキレス セイン ケント
2 5 3 4
ドンメル
1
藤堂とルイはコイントスの為に審判団と共に居る、今までは大体が藤堂に近い身長だったが今回は藤堂が見下ろす格好となっていた。
大型選手を揃えるベルギーの中で小さいが背番号10でキャプテンを務める、実力は確かなものがあるはずだと油断はしない。
「表」
何の迷いもなくルイは選択、するとコインは表。そして先攻を選んで最後に藤堂と握手を交わしてから自軍の方へと引き上げた。
「かますぞ、日本をビビらせに行く」
「怖ぇなぁ。了解っと」
アドルフはルイの意図を理解し、頷く。開始早々から日本に仕掛けに行くようでセンターサークルにてその話し合いは行われていた。
そして時刻はフランスの時間で昼12時、この時間を指した時に審判の笛が鳴り響く。
ピィーーー
『さあ日本とベルギーの決勝戦、日本としては2018年のロストフの悲劇を繰り返したくはない!この決勝でその借りを返したい所です!』
『向こうはルイを中心にボールを早め早めに回してますね、この辺りは流石ベルギー、速く上手いですよ』
それぞれワンタッチで速いパスワークを見せて日本のプレスを躱していく。
そこに月城がルイに来ると読み切って自慢の足を飛ばし、スピードで寄せにかかる。トラップした瞬間を狙うつもりだ。
「!?」
寄せに来たルイ、だが嘲笑うかのように月城の頭上をダイレクトでボールを軽く蹴って超えさせ、そのままパスとなって味方のダインへと預ければルイは前を向いて走る。その際に右手で日本ゴールの方向へと指し示すようなアクションを起こしていた。
そしてすぐにダインからルイへとグラウンダーで矢のような勢い、シュートでもおかしくないような速度でルイに迫る。
「上がってー!」
弥一はすかさずDFへ指示、佐助と番を走らせて3人でオフサイドトラップを仕掛けようとしていた。
「(え、マジ!?)」
急な指示に番は慌てた、そしてこれにより上がるのが遅れてしまう。
その頃ルイはこの矢のようなパスを受け取らずにスルー、此処にパスが来ると思った想真を欺きボールは1番要注意のアドルフへと渡った。
「オフサイド!」
佐助は右手を上げてオフサイドをアピールするが旗は上がらない、番が残ってしまっていた為にオフサイドは取られず。日本のDFが此処で乱れてしまう。
『あー!日本オフサイド取れない!アドルフゴール前へと独走だー!』
「っ!」
ゴール前、藤堂が身構えておりアドルフは早々にシュートに出る。狙いは右下隅、GKの取りづらいコースだ。
幾度となくゴールを奪ってきた右足がボールを捉える。
その瞬間、同時にボールを捉える足があった。
弥一がアドルフの死角からスライディングで滑り込み、このシュートを防ぎに行っていた。
開始早々に早くもミランの攻守を支えた元チームメイトの2人がぶつかり合う。
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辰羅川「しかし弥一が向こうのエースと知り合いとはなぁ、聞けばディーンとも付き合いあるって聞くしマッテオとも元教え子…あいつ周り凄い知り合いばっかりじゃないか?」
大門「そうですね…有名な人ばっかりでびっくりですよ」
優也「昔は日本の海外進出は何かと難しい挑戦と言われてきたものだが、時代は変わったんだな」
辰羅川「昔はサッカー後進国なんて言われていたしな、ワールドカップ出場やUー20の前であるワールドユースも優勝どころか出るの難しいってなってたしさ」
大門「ちゃんと日本のサッカーも進化続けてますよね、勿論今も!」
優也「でなければ今の五輪でサッカー日本が活躍してる事に説明がつかない」
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