第257話 大男の軍団から逃げ切る戦い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「やった!わーやったー!日本先制したよ♪」
「よし!日本ナイスー!」
日本から輝咲、陽子の2人は家のテレビで日本を応援。弥一のスルーパスから照皇のトゥーキックが決まった瞬間に2人は共に喜び合っていた。
そして輝咲は内心で弥一ナイスー!と叫ぶ。
「俺にパス行くかと思ったらこっちただのフェイクに使われたのかよ、まあ決まったから良いけどな」
「アメリカ左のスピードに警戒してたと思うからさー、あれで月城のスピード印象に残らない訳無いだろってなって。だから月城の殊勲でもあるよこのゴール♪」
「そう言われると悪い気は…うん、しないわ」
弥一に走れと言われて走ったりしたが結局それはアメリカの注意を引きつける為の物、囮に使われた月城だったが自分の動きによってゴールが生まれた事でこれも良いと気分良くポジションへと戻っていった。
ボールが無い所での月城による動き出しはアメリカにとって無視出来なかっただろう、彼のスピードはその脳内に印象づけられてしまっていたのだから。
その僅かな隙が生まれ、弥一と照皇がそれを逃さなかった。表では2人が目立つが見えない所で月城は活躍していたのだ。彼のオフザボール(ボールを持ってない時の動き方)無しではこのゴールは生まれていなかったかもしれない。
今大会初ゴールを決めた日本に対して今大会初失点を喰らってしまったアメリカ、1点を取り返そうと彼らはキックオフで試合再開すれば1点差を覆そうと再び日本ゴールへと襲いかかる。
両サイドの月城、白羽も積極的に守備へと加わりSDFに近い位置となっていた。
日本の陣形は3ー5ー2、この日本のフォーメーションで鍵を握るのは両サイドのハーフ。彼らが素早く動き回って時に守備的な5ー3ー2、また時には3ー3ー4と超攻撃的な形にもなる。
それが日本のUー19監督を務めるマッテオの思い描くフォーメーション、試合中に状況に応じての陣形切り替え。なのでサイドハーフの選手は特に高い要求が求められるが消費するスタミナも大きい。
白羽はまだ大丈夫そうだが月城の方はそろそろ運動量が落ちて来る、そのタイミングを狙っていたのかマッテオが此処で動く。
『日本は此処で選手交代、左サイドの2番月城に代わりまして11番歳児が入ります』
若干疲れてる様子の月城、前半から走り回っていてアメリカの厳しいチェックも受けてきたので普段より体力は消耗。運動量が落ちて来た途端の交代だ。
背番号11の代表ユニフォームを纏う優也、弥一に続き立見組で2人目の代表デビュー戦となった。
「アメリカ手強いぜ、気をつけろよ」
「分かってる、後は任せろ」
すれ違う時に優也はフィールドを去る月城と軽くハイタッチを交わし、彼に代わってフィールドへと入って行く。
そしてマッテオから優也は伝言を頼まれており忘れずにそれも伝える。
「監督から、残り時間を全力で逃げ切れとの事だ」
「このまま1ー0で逃げ切りか、確かにあのデカい軍団相手に2点目は厳しいかな…」
優也が監督からの伝言を伝えると政宗は改めてアメリカのDF陣を見れば今更ながらいずれも大きいと認識、よく2人で1点取れたなと思えてしまうぐらいだ。
「中途半端に攻撃して止められてカウンター受けるよりかは、目的を明確に決めてやる事はっきりさせた方が分かり易いよな」
「かと言ってゴール前に全員引きこもるようなリトリートはアメリカ相手に危険だ、俺達前線も出来る限り体を張って前へと運んで守備陣に負担を与え過ぎないようにしないといけない」
「やりますよ、全力で逃げ切りましょう!」
佐助、照皇が守備で話し合って守りに入り過ぎないように行こうと決めれば前半からあまり良い所が少ない室は此処で名誉挽回と声を出して張り切る。
日本はやる事を明確に決めるとそれを徹底して実行、代わって入りスタミナ充分の優也が素早くプレスをかけて行けば他の中盤4人もそれぞれ動きアメリカに簡単には前へ行かせないよう務める。
「っ…(中盤小さいのがうじゃうじゃいやがって…!)」
ボールをキープするロバートはこのプレスを嫌がっているようで中々前に運ぶ事が出来ない。しゃらくさいとばかりに強引にシュートへと持って行く。
『撃ったアメリカの8番ロバート!しかしこれは藤堂が難なくキャッチする!』
『今のは少し強引で勢いもそんな無かったですからね、日本は良いプレッシャーかけてますよ』
ロバートのシュートは枠には行ったもののあまり力が無くゴールを奪うには勢いが足りてない、このシュートを藤堂は容易く正面でキャッチしていた。
「良い守りだ皆!後少し集中していくぞ!」
皆へと声をかけつつ藤堂は時間ギリギリまでボールを持つと此処で前線へとパントキック、ターゲットは195cmの長身FW室だ。
1点を取られてからアメリカは照皇を警戒するようになったかデイブは今そちらの方へとマークに付いている、2m10cmの巨漢の姿は最後尾の藤堂からも見えており彼との空中戦を避けてボールは風に乗って室の元に運ばれていた。
相手DFのアーロンも相当の長身であるが190には届いていない、彼との空中戦なら勝てると室は落下してくるボールの位置までアーロンと走り合うとその位置でジャンプ、これに室と同時にアーロンもジャンプ。大男達の空中戦となる。
室がアーロンより高い身長及びジャンプ力も勝り、この空中戦を制するとボールは右サイドを走る白羽へと室の頭で落とされればそれを拾った白羽は一直線に右コーナーを目指して走る。
これが点を取りに行くならば中を確認したりするのだが今回は目的がはっきりしていた、ひたすら時間を使いまくってこのまま逃げ切る。
アメリカの方も早く白羽からボールを奪わんとビルが激しく体をぶつけて来る、白羽も日々海外で戦い続けて自分よりも大きく屈強な選手のチャージは慣れており簡単にボールは手放さない。
そのままコーナーの隅まで行って白羽はボールをキープ、ビルが中々ボールを取れない事に業を煮やしたかアーロンも取りに行き2人がかりで白羽を囲んでいた。
そしてボールが取られそう、となった時に白羽は足を出して来たビルの足へとボールを当てればタッチラインへと球は出された。
線審の判定は日本ボールのスローイン、これに「こっちのボールだろ!」とアーロンが抗議するも聞き入れられず。だが白羽としてはどちらのボールになろうが構わない、ゴールキックで一気に前線へと送るより自陣深くの位置でスローインの方が攻めたい相手としては非常にやりづらいからだ。
日本ボールのスローインになれば日本は時間をかけてスローインを行う、早くボールが欲しいアメリカの方に苛立ちが見えてくる中で室は白羽へと投げ入れると再び先程のリプレイを見てるかのようにビルとアーロンが白羽を相手にコーナー隅での奪い合いを行っていた。
「(すっごいブーイング飛んでるー、まあ当然かぁ…)」
攻めて来ない日本に対してアメリカサポーターから激しいブーイングも飛び出して来るのがフィールドに居る弥一から聞こえてくる。
1点を争う激しい攻め合いが見たい人々からすればこういった攻めない、時間稼ぎの退屈なアンチフットボールは見たくないと思っている事だろう。
だがそれでもマッテオは何の躊躇も無しでこのまま攻めずに逃げ切る策を取った、1点取ったらさっさと逃げ切って勝つ。アメリカ相手に試合終了までまともにぶつかり合うのは得策ではない。
この先も見据えての事だ。
「(だったら最後までこのまま嫌われて勝利と行こっか!)」
そして弥一もそのアンチフットボールに付き合い、やっとの思いでボールを取ったアメリカが反撃に出したパスを再びインターセプトでボールを奪い取る。そこから時間を稼ぎボールをキープすると相手が寄せて来た所にすかさず優也へとパス。
「キープキープ!なるべく渡さないように優也ー!」
優也も出来る限りボールを渡さずに時間を使ってキープ、アメリカ選手の長い足が優也のキープするボールを捉えてタッチラインに出れば再び日本ボールのスローイン。
アメリカの方は日本が動かしまくっているボールを追い掛け、運動量が落ちてきている。
「(くそ…残り時間が少ない!)」
ベンチに座って時計を見るアメリカの指揮官にも焦りが出て来る、交代の為に攻撃的な選手を入れたりと流れを変える事を試みたが目に見える効果が出ていない。
ああも徹底して時間稼ぎされては好きに攻撃が出来なくて交代した攻撃選手が活かせず時間だけが経過してしまう。
するとアメリカの方はデイブが前へと出て来てキープする優也から強引にボールを奪い、攻め上がって行く。
主にセットプレーでしか前へ出てこなかったゴール前の巨神が攻撃の為に流れの中で動き出した。
「(開幕戦を負けて終われるか!)」
アメリカがこのまま黙ってやられる訳にはいかない、日本ゴールを目指してデイブは直進して走る。
そして左サイドのジョンがボールを持つと上がって来たデイブの姿が見え、ターゲットを見据えるジョンは右足でボールを蹴り出す。
デイブの事なので高いボールで来る、日本の選手はそう思っていたがジョンが出したボールはデイブの胸元付近に来るような低めの速いボール。
これをワントラップして得意の右足でのパワーシュート一発で決める、それがデイブの思い描くアメリカの同点ゴールだ。
ボールが迫るとデイブは胸を前へ突き出して胸トラップの構え。
だが彼に球が収まる事は無かった。
デイブに低めのパスを出すというジョンの心を弥一が読み取って先回り、ここまで上がって来たデイブの努力を打ち砕くインターセプトでアメリカの同点の望みをも弥一は阻止。
「このまま勝利いっただきぃー!!」
弥一はその場で空高くボールを大きく蹴り出し、フランスの青空をサッカーボールが風を受けて舞う。
その瞬間に審判の笛は鳴り響き試合終了。
1ー0で日本の逃げ切り勝ち、強敵アメリカ相手に開幕戦で貴重な勝ち点3を積み上げる事に成功して日本選手は勝利にそれぞれ喜び、ベンチでマッテオは富山と握手を交わす。
がっくりと肩を落とすアメリカの巨神デイブ、彼の捨て身のオーバーラップも実らず同じDFの弥一に最後は仕留められてしまった。
仲間と共に勝利の余韻に浸る弥一、そこに大きな影が弥一を覆って来る。
「Hey、ヤイチ…」
ヤイチが振り向けばデイブが自分の方を見下ろしており、彼の顔を弥一は見上げた。そうでなければ60cmもの身長差がある彼と会話する事が出来ない。
「グレイトなパスにディフェンスだった、その力を見抜けず見誤った俺達の負けだ」
相手を軽視していたつもりは無い、だが子供のような見た目から何処か油断はあったかもしれない。今日はこの小さなDFにアメリカはやられてしまった。
デイブの中でアメリカが勝てなかったのは弥一の存在が大きかった、小さい体の何処にあんな活躍出来る力があるのか。ついそう思ってしまう。
「記念にユニフォーム交換しちゃうー?」
「あ、いや…それは遠慮しとく」
「えー?やっぱ時間稼ぎで嫌われちゃった日本?」
弥一は自分のユニフォームを指差し背番号6同士で交換どうだと申し出たがデイブの答えはNOだった、弥一はアンチフットボールをやってやっぱ嫌われたかと思ったが。
「だって俺とヤイチじゃ互いにサイズ違い過ぎてユニフォーム着れないだろ」
嫌われたという訳ではない。149cmと210cm、大き過ぎたり小さ過ぎたり交換後にユニフォームを着るという事は出来ないのだ。
体格に恵まれない者と恵まれ過ぎた者、共通した悩みとしては試合後のユニフォーム交換が中々無い事なのかもしれない。
日本1ー0アメリカ
照皇1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
弥一「無事勝てたねー、いやあアメリカは大きかったよ~。特に2m!」
優也「あいつはもう世界広しと言えど規格外だろ、流石にあれクラスがゴロゴロいるとは思いたくないな」
弥一「これがフラグになって次が2m越え当たり前なチームとか出て来たらもうびっくりだよね~」
優也「バスケやバレーでもそういうチームは中々いないだろ、多分…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます