第241話 立見を支える選手達


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「うわー、このトーナメントえっぐいなぁ」


 音村との試合後、着替え終えた選手達の食事として豚丼の弁当が各自に用意されており試合後に素早い栄養補給をしていく立見。


 弥一が「温玉付きだー♪」と豚肉、白米、卵と極上のマリアージュを喜び存分に美味しく味わう中で摩央は弁当を食しながらもスマホで総体2次トーナメント表を確認していた。


 2次の1回戦で音村に勝利の立見、その次は真島が居る。まだ向こうの試合結果は明らかになってないが十中八九真島の方が勝ち上がって来るだろう。


「このまま行くと、最初が音村で次が真島。そんで桜王、西久保寺、前川…去年俺らが戦った高校勢揃いかよ」


 豚丼を早々に食べ終えて摩央と同じようにスマホでトーナメント表をチェックする川田。1回戦も含めて去年の東京予選で当たった強豪達の名前がずらりと並んでいた。


 総体予選の方は準決勝を勝てば東京代表の2つある椅子の一つを獲得出来るが、今回は真島、桜王、西久保寺がその前に阻んで来る可能性が高く立見は激戦トーナメント側となってしまったのだ。


 立見が全国に出る前は東京の二強と言われていた真島と桜王、今年は去年まで要となっていた3年が抜けて不利を囁かれたがそれでも名門としての底力を見せて2次トーナメントまで勝ち上がる。


 一つの椅子を争う一方のトーナメント組み合わせが強敵達で固まり、立見も勝つのは容易ではないと音村戦の前まで言われていた。

 なので今日の試合結果を見れば予想した者達は盛大に驚くかもしれない。









「まさか音村を相手に二桁得点やってしまうなんてなぁ、驚いたよ」


「そうっスよねぇ。去年の立見にそこまでの攻撃力は無かったはずですから、今年どうなってんのか」


 立見の2回戦が行われる試合日、音村戦の大勝もあって先週に続き満員のスタンドとなっていてその中にはサッカージャーナリストの姿も見えている。


 彼らも先週の立見があそこまで大差を付けて勝利するとは思っておらず衝撃を受けていた、それまで立見は守備が強く攻撃はそこまでガツガツ行かないという印象があったが音村戦を見てそのイメージが覆りかけている。



「今日は名門真島、CBの2年真田君が成長して他にも良い選手を揃えてるし今回は結構良い勝負になるんじゃないか?」


「真島としても去年の総体予選準決勝の借りがありますけど、鳥羽君や峰山君が抜けた穴は相当なもんっスからね」


 去年のインターハイ予選準決勝以来となる立見と真島の対決。あの時は鳥羽を中心に各ポジションに優秀なプレーヤーを揃える攻守に優れたチームだったが新鋭の立見に敗れてインターハイ出場を逃し、番狂わせを許してしまった。


 真田を筆頭に当時の1、2年はそのリベンジを果たしたいという思いが強い事だろう。


「思えばあそこからじゃないスかね?神明寺弥一の快進撃が始まったのって」


「だなぁ、鳥羽君とのデュエルに負けなかったり凄いFKを決めてみせたりしてたしな」



 1年生で活躍した弥一も2年生、フィールド上で彼と1年の後輩達が話す姿が見える。


 何か悪巧みでも企んでいるのか会話の内容が気になったが周囲からの歓声に加えてスタンドからの距離では彼らが何を話しているのか、それは全く分からなかった。



 主審の試合開始の笛が吹かれ、立見からのキックオフ。



「中学で最強クラスが集ったとはいえ、1年目の数ヶ月でもう此処まで戦えるようになるなんて信じられないな…」


「氷神兄弟に石田君の試合は俺見てましたよ、彼らが手を組むってちょっとしたドリームチームですからね?」


 中学時代の氷神兄弟、石田の活躍を知る者からすれば彼らが同じチームというのは夢の組み合わせでもある。中学最強を争う彼らが組んだらどうなるのか、中学サッカーを見てきたファンなら頭の中でそれを数え切れない程に思い浮かべた事だろう。



 中盤の影山から左へ長く速いパスが出て左サイドの玲音が追いつけば足元にピタリとトラップ、そして玲音に相手が向かうとすかさず右サイドへと大きく玲音が左足で蹴り出してサイドチェンジを見せるとそこに追いつくのは右サイドに居る双子の兄弟詩音。


 息の合った双子のコンビネーションで真田を中心とした真島DFを揺さぶり、詩音は玲音から出されたボールを左足でワントラップした後に右足でゴール前へと高いクロスを上げる。


 空へと192cmの長身ストライカー半蔵が舞う、真島の長身DFも体を寄せて楽にヘディングさせまいとするが半蔵は頭でゴールを狙わずポストプレーで落としていく。


 そこに最初にサイドチェンジを行っていた玲音が走り込んで勢いよく左足でシュート。



 中学サッカー界で知られる3人が早くも攻撃のリズムを作り名門真島相手に決めてみせれば、ゴールを決めた玲音が詩音と共にカメラの前まで走り揃ってギャルピース。

 2人の容姿からしてまるで女子中高生がプリクラを撮るような感じのゴールパフォーマンスだ。



「すばしっこくてテクニック抜群の氷神兄弟がそれぞれサイドに居て中央にはシュートもポストも行ける長身の石田君、彼らの攻撃を止めるのは結構骨が折れそうっスよ」


「リーグでも派手な活躍見せてたよな、立見のサッカーが相当相性良かったのかなと思ったよ」





 反撃に出る真島はサイドを起点に攻めようと弥一の居る中央を避けて右サイドから展開、ドリブルに入る選手は真島に入った有望株の1年で180cmを超えていてドリブラーとしては結構大柄な選手だ。



「でぇっ!?」


 自分よりも体格ある選手を相手に左SDFの翔馬は果敢に思い切り相手に左からガツンとぶつかって行く、体格で劣るはずだが相手からすれば左肩から左半身にかけて広がり伝わって来る衝撃。見た目からは想像つかない強烈なショルダーチャージが炸裂し、バランスを崩すと翔馬がボールを奪取に成功する。



「元々立見のサイドは田村君の右が硬かったけどな、去年の秋から頭角を見せてきた左の水島が目を見張る成長をして今や立見の不動の左SDFだ」


「しかし立見は去年の選手権辺りから全体的に競り合いに不思議と強くなったもんっスね、相当体幹トレーニングに力を入れてたんですかね?」


 立見の競り合いが強くなったのは日々行っている合気道のおかげだが取材で彼らは言っていないので取材陣もそこは知らないままだ。




「川田ー!右薄いぞー!」


 大門の指示で川田を右へと寄せ、薄いサイドをカバーさせていく。そこに真島からのロングボールが飛んで来れば右へと行っていた川田に丁度行っていてこれをしっかり頭で弾くと溢れたボールを影山が拾ってキープ。


「ナイスナイスー、此処も完封と行こうぜー!」


 間宮は大声でDF陣を鼓舞していき、この試合もきっちり相手を抑えようとチームを盛り立てる事を忘れない。




「シュートがあまり飛んで来ないから目立たないっスけど大門君も積極的に声出したりと良いGKですよね、選手権じゃ照皇君との1対1を連続で止めたりとかしてましたし大柄で反応やキャッチングも良くて何より跳躍力が凄い。学年一つ上の桜王の高山君や前川の岡田君と東京No1GKを争える程っスよ」


「その彼を支える守備陣も優秀だしな、新キャプテンとなった間宮君も力を付けて来て守備能力だけでなくリーダーシップを発揮してチームを引っ張っているし影山君は高い確率でセカンドボールを拾ってくれて追撃を阻止してくれる」


「立見の人間発射台と言われる川田君もロングスローだけでなく最近は左足のシュート冴え渡ってますからね」






「(去年と比べて競り合いが強いしプレースピードも上がってる!これが立見の今の力…!)」


 真島の一員として立見のサッカーをその身で体感してきた真田、動画で彼らのプレーを見てやり口は理解したつもりでも実際のスピードは全然違う。


 それでも必死に食らいつき、真田は何度も通さないと半蔵に出たパスをクリアし1年達の攻撃を阻止していく。




「(此処引いて守ってるなぁ、うちが今前に出てるからカウンター狙いか…)」


 後ろから弥一は今の真島を見て守備に集中する陣形を取っているのが確認出来て、ボールを取る翔馬へと「戻してー」と声をかける。


 そしてボールは弥一の元へと戻って来ると弥一は此処から攻めずにその場でボールを足元に転がしたまま留まっている。


「此処攻めないで行こうー」



 引いて守る相手に対して攻めない弥一と立見、スコアは立見がリードしておりこのまま時間が経過すれば真島の敗退が決まってしまう。


 猛攻を仕掛ける立見にカウンターを狙おうとしていた真島だったが一転して攻めない消極的サッカーを展開する立見に対し、点が求められる彼らは次第に焦れていく。



「(くそぉ、攻めて来ないのかよ…!)」


「(やりづれぇ…!)」



 1年達も攻撃には出ず、弥一と同じようにパスを回していき真島にボールを渡さない。攻撃的に来てくれればカウンターを狙いやすかったのだが此処で攻めない嫌なサッカーをされて追いつこうとしている彼らの心は焦るばかり。



 そこに焦った真島の選手達はこのままでは埒が明かないとなり一斉にプレスをかけてボールを取りに行く。


「明、今!中央ぶち抜けるよー!」


「!」


 弥一は自身に迫る真島の選手の間を抜く正確無比なパスを送った後にすぐ指示を出して今なら中央行けると伝える、その瞬間にパスを受け取った明は前を向いてドリブルを開始。



 明のドリブルで抜かれて行く真島、此処で中央突破を許したくないと最終的に真島の選手が明のユニフォームを引っ張ってしまい明は地面に転倒。


 その瞬間に笛は鳴って引っ張った選手にイエローカードが出される。



「お、FK。神明寺君の見せ場だぞ」


 記者達は身を乗り出してこのセットプレーに注目する、皆が弥一のマジシャンのようなキックを分かっており期待していた。



 このセットプレー、ボールをセットするのは明だが弥一がボールへと近づいて行く。すると小声で弥一は明へと伝える。



「ボールに向かうフリだけしとくから、自分の思うキックを蹴ってみて。失敗しても今リードしてるから大丈夫」


「!…はい」


 弥一はフェイントだけ参加し、フィニッシュは明に任せるつもりだ。




「(あの1年、と見せかけて神明寺だろ。あいつのキックに気を付けとけ)」


「(おう)」


 彼らの前に立つ壁の真島選手達は弥一が蹴って来ると考えていた、それが違うとも知らずに。






 FKがスタートすると弥一が助走を取ってセットされたボールに向かって走る、これに壁の選手やGKは警戒し身構えている。


 すると直前で弥一はピタっと走りから動きを止めてしまう、


 一瞬相手がそれに釘付けとなった間に明が左足の内側、足の親指の付け根辺りで蹴るインフロントキックによってボールが飛ばされるとジャンプする壁の選手達の更に上を行けば綺麗な弧を描くコースで壁を越え、ゴールへと向かいGKは反応しきれずダイブも及ばない。


 ダメ押しとなるゴールが決まると歓声の中で弥一と明は上手くいったとハイタッチを交わしていた。




「緑山明、かつて女子日本代表で活躍した緑山薫の弟か…今まで何で無名だったのか不思議なぐらいだよな」


「神明寺君以外にもこんなFK蹴るのが立見に居たんスね、すんげぇキック…!」







「(融合したらとんでもない事になるとは思ってたけど、こうも大変なのかよ…去年の八重葉、いや…それ以上かも)」


 真田も此処まで健闘を見せてきたが新生立見の攻撃力を前に守りきれず、攻撃も懸命に攻めたりしたが立見の守備陣を突破する事が出来ず真島はペースを握れぬまま試合終了を迎える。



 音村に続き強豪の真島を撃破し、立見は準々決勝へと進んだ。



 立見5ー0真島


 石田1

 詩音1

 玲音1

 緑山1

 歳児1




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 武蔵「最近1年が結構目立ってて、大丈夫かな?俺ら影薄くなってて誰?とかなったりしないか!?」


 翔馬「それは…言われそうで怖いね」


 川田「同じ学年でも弥一とか優也が目立ったりしてるしなぁ…覚えてもらえるよう俺らも頑張ってくしかないよなこれ」

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